第2話

私の職場から20分ほど歩いた所にみのりの自宅はあった。


それは昭和を思わせる古びた三階建てのアパート。


こんな場所にアパートがあったなんて今まで知らなかった。

知らなかったというよりかは、私があまり周りを見て歩かないだけかも知れない。


彼女は階段を上がり、三階の1番奥が自分の部屋だと言った。


このアパートの住人は会社関係とその親族が住んでいるらしい。


一階部分には子供用の自転車や砂場遊び用具が置いてあるのが見えた。

小さい子供達もいるのだろう。


みのりが玄関を開けて中に入ると、薄暗い部屋にカーテンがゆらゆらと揺れている。

出かける前からベランダを少し開けていたのだろうか。

六畳と四畳半の至ってシンプルな間取りの中には、三面鏡とベッド、座卓しか物が置かれていなかった。


「ここがあなたのお部屋?女性にしては家具が少なくない?」

私は中を見回しながら彼女に尋ねた。


「こんなものよ。

私はベッドで寝るからあなたの寝床は用意するわね」


私は頷きながら、布団を押入れから出している彼女を手伝った。


言われたままにここへ来たけれど、どう考えてもこのアパートもこの部屋も私の頭の中の記憶には無かった。


みのりは簡単な夕食を作って座卓に並べ始めた。

私も手伝うと言ったけれど、いいからと座らされた。


やる事がなく携帯をいじり始めた時に、階段を駆け上がってくる音が聞こえて来た。

玄関のドアが勢いよく開くと、小学生らしき男の子と小さな女の子が息を切らしながら勝手に中に入ってきた。


「お姉ちゃん、今日はお客さんがいるの?」

2人ともじろじろ見ながら私の横に立っていた。


「今日はお友達が泊まっていくの。

だからあなた達とは遊べないのよ」

みのりは台所から少し大きめな声で答えた。


2人とも、えーっという残念そうな顔をした。


私はこういう場合どういう態度を取れば良いのだろう。

「えっと。。みのりのお友達かな?」


「そうだよ。いつも遊んだりしてる。お姉ちゃんは遊べないの?」


いや、遊べない事はないけれど、、ここは私の家じゃないし。


「みのり、私は大丈夫だけど。。折角遊びに来たんだから」

私は台所に向かって言った。


その言葉を聞いて女の子が私の膝にピョンとお尻を乗せてきた。

一方で男の子は机の上の料理を食べたそうにしている。

2人とも物怖じしない性格のようだ。


台所からお皿を持ちながらやって来たみのりは、ため息をつきながら

「じゃあ後でね」

と2人に促した。


やったーと2人共喜んだかと思うと

「また来るからね」

と叫んで慌ただしく部屋を出て行った。


2人共このアパートの一階に住んでいる子供達だそうだ。


しかもあの子達以外にもう2人子供がいて、6人家族だという。

さすがに6人で一部屋は狭いという事で、ニ部屋を使って住んでいるらしい。


よく見るとこのアパートにはお風呂が無い。

近くに銭湯でもあるのだろうか。


私はなんだか昔の時代にタイムトリップした様な感じがした。





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