第27話 金が……足りない……

 あれから1か月、徐々にダンジョン内の設備は充実をしてきている。


 例えば、家。

 今までは石材で作るだけの簡素なものとなっていたが、僕が【錬金】をできるようになったことでずいぶんと変わったと思う。

 例えば木材を作成してみたり、あとはレンガあるいは大理石のようなものまでちょっと混ざっている。


 錬金とは言うものの、もとはと言えば物質を別の物質に変えるというものだから、石材から木材、焼き石、その他にすることも可能である。


 ただ錬金をする際にロスが発生する。

 どうやらそれぞれの物質ごとに価値が定められているのか、石材から木材にするのにはおよそ2分の1に、金やダイヤモンドいった貴金属ともなれば100分の1から1000分の1ほどのものしかできない。

 一応そうやって物質間の価値のバランスを取っているようだ。


 また錬金は使用する際に形状なども意識することによって、思い通りに形を変えることが出来る。

 これは最初に金の剣を作った時からなんとなく分かっていたことだけど、本当に便利だ。

 金属の形を変えるにはそれなりの人を用意しないといけないし。



 とまあこんな感じで、ダンジョンに入ってもうそろそろ2か月は経とうとしているが不自由なく暮らせている。


 ようやく木の上に座ってご飯を食べられるようになってきたので、ダンジョンであることを忘れられるくらいにはなった。

 前に住んでいた家よりは断然広く、快適になっただろう。


「カールさん、拠点づくりの方は順調ですか?」


 建築士のカールさんに聞いてみる。

 中年でちょっと恰幅の良い、だけど弱気な性格の持ち主だけどすごくダンジョンの生活に貢献してくれている。


 そんなカールさんにはいま、ダンジョン2階の拠点づくりに勤しんでもらっているのだ。


「え、ええ……まあ、はい、順調です……。とりあえず住めるようにはなりました……ハイ」


 この人のとりあえず住めるようにというのは、もう既にきちんと暮らせるようになったという意味だろう。

 大体発言を100倍したらちょうどいいくらいになるという感覚。

 もうみんな慣れてきているので勝手にそういう解釈をできるようになっている。


 ちなみにここで現状を整理しておくと、1階の方は全てを制圧して湧き潰しを完了。

 ただ1か所だけはわざと残してあって、魔石が欲しくなったり経験値が欲しくなったらそこで魔物を倒せるようになっている。

 案外重宝していて、僕も暇なときは魔石を回収してお金集めに向けて仕事をしているというひもじい仕事をしているのだ。多分コスパは悪い。


 というわけで2階の攻略のめどが立ってきたところで、1階から降りてすぐのところにある空洞を拠点にしようとしている最中だ。

 同時並行で1回にもたくさん拠点を作っており、のちのちに人が増えたときに寝る場所も確保をしている。

 多分100人くらいならこのダンジョンに収容できるかな。ダンジョンに収容って意味不明だけど。


「姫様の方はどうなってるんですか?」


 そして続いては攻略隊の姫様とバルデスさんのコンビ。


「そうね、6階の方を探索しているけどそろそろ厳しくなってきたから今はレベル上げをしているところ」

「姫様たちでも苦戦……ですか?」

「べ、べつに私の方は大丈夫なんだから! バルデスがすぐへばるから!」


 どうやら姫様は実力不足だと思われたくないらしく、抗議の意を示してきた。

 別に姫様のことをそんなふうに思ったことないのになあ。この中では多分実力トップだし。


「あ、あと、6階からダンジョンボスが出現するようになったわ」

「ダンジョンボス……?」


 聞いたことのない名詞が出てきた。

 すかさず姫様に問い返す。


 すると姫様は嬉しそうに答える。


「ダンジョンボスってのはね、いい?」

「はい」


 もしかしたら姫様は世話焼き体質なんだろうか。

 いつも丁寧に説明してくれるけど。


「ダンジョンボスっていうのは、特定の階層に現れる、他のモンスターと比べてはるかに強いモンスターよ」

「はるかに、っていうのは」

「そうね……簡単に言ってしまえばその階層から2階層分くらい下に出てくるモンスターと同じくらいの強さよ」

「ほ、ほんとですか?」


 そうなると、6階で戦うには60レベルくらい必要で、それより2階下の8階と同じくらいということだから80レベル以上は必要ということだ。


「まあそれも一概には言えないみたいですけどね。深く行けば行くほどその強さの振れ幅も変わってくるみたいです」


 バルデスさんが補足をする。

 この人、何かとダンジョンについて詳しい節があるんだよな……。

 まるでダンジョンに潜ったことがあるような。それも僕たちがいるところよりもずっと深くの、それこそ人類が到達した最下層と言われる20階とか。


「なんて、まさかな」


 目の前で姫様にボコボコにされているバルデスさんを見て、やはり勘違いかと首を振る。


「ちょっと、なんであんたが説明の邪魔してくるのよ!」

「邪魔してないじゃないですか、補足しただけで」

「それが邪魔だっていうのっ! 私が説明するところだったのに……」

「本当に面倒くさいお姫様だ……」

「面倒くさいとか言ったな!」


 ああ、なんて平和な会話なんだろう。


 というか主に姫様が子供過ぎるところがあるだけだけど。

 まあなかなか楽しい性格だ。


「あの、姫様。一ついいですか?」

「? なに?」

「そのダンジョンボスって、一回倒したとしても復活するんですか?」

「ええ、もちろん」


 とするならば、何回でも討伐可能ということか。いつか6階でレベル上げをすることになったら、お世話になるかもしれないな。


 ちなみに僕のステータスの方はと言えば、二つの加護のレベルが上がっていくので今はすくすくとステータスが上がっている。

 経験値は半分ずつ加護の方に分け与えられるようなので、いつものように4階でレベル上げをしているとレベル2の【レオナルドダヴィンチ】の方はすぐにレベルが上がっていくのだ。


 まあただ、【坂本龍馬】の方は力や運、それに体力が上がりやすく、【レオナルドダヴィンチ】の方は魔力や賢さが上がりやすいということで、全体としては万能に伸びている。ちょっと賢さが頭一つ出てるくらい。

 本当のことを言えば力とかがめきめきと伸びた方が戦闘は楽になるけど、まあこれは贅沢も言っていられない。

 魔力量が増えば一回の錬金で変換できる物質の量が増えるから、必要なパラメータだ。


「あとは、大丈夫ですかね?」

「はーい」


 最後に全体に向けて聞いてみると、いつもは積極的に行動を起こしたがらない魔女のワンダさんが手を挙げた。


「どうしました?」

「いえいえ、そろそろ新しいお野菜さんを作ってあげたいので、農地を広げてもいいですか~?」

「ああ、大丈夫ですよ」


 引き続き彼女には農業の総監督をやってもらっているのだが、しっかりと仕事をしてくれる。

 食卓には毎日とは言わずとも、三日に一回くらいは野菜が出てくるので、収穫量もそこそこには出ているみたいだ。


 先日、新たに空洞を一つ農場にしたのだが、やはりまだ足らないらしい。


「ちなみに、何を作る予定なんですか?」

「うーん、そうねえ。トマトとかナスとか、そんな感じかしら」

「おお、いいねえ! あとはピーマンとかな!」


 そこで急にテンションが上がるの料理士のテリアさん。

 調理師としてはやはり肉ばかり焼いても面白くないと言っていた。

 この30歳過ぎのおばさん……いや女性は見た目の血の気に惑わされやすいが、意外と栄養のことをよく考えてくれる人だ。


「じゃあ夏野菜を中心とした農場を作りましょうか」


 ちなみに温度調節はワンダさんお得意の魔法でなんとかしているらしい。

 おそるべし魔女である。


「それじゃあ、今日も一日よろしくお願いします」


 現状報告をし終えたところで、今日の仕事に行く。


 ちなみにここで、この拠点内に溜まっている僕の取り分の魔石の数について確認しておこう。


 魔石レベル1 500個

  レベル2  10個


 お値段なんと、銅貨2500枚(25万円)。


 まだ、全然足りねえ……。目標は銀貨240枚(240万円 僕とアリサの税金1年分)なんだが……。


 こうなったら、4階辺りの魔物の素材を集めるしかないだろうか。

 そうするしかなさそうだ。


 ――1か月後、ダンジョンボスを倒すことで金銭問題を解決することは、このときの僕はまだ知らない。



【加護 坂本龍馬】 レベル 27→34


【スキル】――【型破り】レベル 2

       【運搬】 レベル 2 →3



【加護 レオナルドダヴィンチ】 レベル2 →18


【スキル】――【錬金】 レベル1

       【研究者】レベル0 →1



【フィル】

【能力値】

 ・体力 104 →155

 ・力  101 →132

 ・防御 52  →75

 ・魔力 69  →150

 ・敏捷 110 →139

 ・運  86  →123

 ・賢さ 118 →221


【魔法】


 今日のメモ――新たなスキル【研究者】は、どうやら賢さの成長に補正をかけるものみたいだ。(当社調べ)

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