第25話 新たな加護

【型破り】のスキルレベルが上がったその日。


 僕は夢を見ていた。


 白い世界で、僕はぼんやりと遠くからその光景を見るともなしに眺めていたのだった。


『おい、なぜそなたがおるのだ』

『そいつはまあ、拙者のスキルでござるからなあ』


 若い男が少し怒気も混じっているようなそんな表情で、侍の格好しているもう一人の男に尋ねていた。


『わたしたちは一人の人間に一体しか力を貸せない。そうではなかったか?』

『だから、そのルールを無効にするのが、拙者の能力じゃ』


 侍の男は、西洋っぽい顔立ちをした白髪の男に、憎らしい程に笑って見せる。

 その悪びれない侍に、白髪の男もため息を吐くしかなかった。


『むぅ、せっかくいい人間を見つけたと思ったのだが……』


 視界はぼやけているがその声から落ち込んでいるのが分かった。

 そのように見れば、肩を落としているようにも見える。


『む? お主も共に彼の子供を護ってやればよいではないか』

『馬鹿なことを言うな、龍馬。神々が作ったルールに反するわけにはいかない』

『でも、拙者の能力も作ったのもあの御仁たちだぞ?』

『そ、それは……』


 明らかに理論派とは見えない男が、金髪の男をどんどんと篭絡していく。


『それに……――――――――――?』

『ま、まあ、それはそうだが……』


 ちょんまげが似合う男の声は最後の方まで聞き取れなかったが、何か上手い説明でもしたらしい。

 白髪の男はまだ乗り気ではないようだが、背筋が伸びてきている。


『……仕方ない。試してみるのもまた発明だ』


 そこで夢はふつと途切れ、僕の意識は覚醒したのだった。





「――いさん! にいさん!」

「……ふぁ?」

「ねぼけてるばあいじゃないよ!」


 起きたらすぐそこにアリサの顔があったような気がしたので、自分のほっぺと妹のほっぺを合わせていると怒られた。

 むう、気持ちよかったのだけど。


「ちょっと、あんたいったい何者?」


 体を起こして視界がクリーンになってくると、次に視界に入ってきたのは不機嫌な顔をした姫様だ。

 不機嫌、というより不審かもしれないけど。


「なんですか、急に」

「あんた、アレが見えてないの?」


 落ち着いて話を聞こうとする僕に、姫様は僕の頭上の方を指さした。

 その細い指先に従うがまま、僕も視線を上にすると、そこには。


「神託石……?」


 光を発しながら石が浮遊して、今か今かと落ちるのを待っていた。


 ――ということは、誰かに新しく加護が授けられたということである。


「だれ……だ?」


 直感的には誰に与えられたのか分かっていたが、知識の方がそれを否定する。

 だってそれは、一人につき一つしか与えられないもののはずだから。


「……アリサか?」

「わたしはみえてないよ?」


 目の前にいたアリサに尋ねたが、大きく首を横に振られた。

 そもそもアリサには神託石が見えていないらしく、今回こんなに慌てているのも姫様の慌てようが伝染したのだという。


「じゃあ……」


 周りを見回す。


 加護を持っている人たちにはこの神託石が見えているようだったが、どの人もピンと来ていない。

 バルデスさんと魔女のワンダさんは興味深そうにこちらを見ていたが。


「やっぱり……僕、なのか?」


 そこで、今日夢に出てきた内容を思い出す。

 いつもは夢なんて見てもすぐに忘れてしまうのだが、今日見た夢だけは鮮明に思い出すことが出来た。


 ――だから、そのルールを無効にするのが、拙者の能力じゃ


 夢の中であの侍の男はそう言っていた。

 もしかして、あの男は坂本龍馬……?


 いや、それはないだろう。僕の坂本龍馬像にイメージが似すぎている。

 本来の坂本龍馬は僕の想像しているものよりはいくらか違うはずだ。


 だとしたらやはり自分が考えた妄想だろうか。

 それにしてはタイミングがよくできすぎているが……。


 とりあえずふわふわと浮いている神託石が少し邪魔に映るので、両手で受け止める。

 僕が受け取る準備をすると、自然とその石は重力を思い出したかのように落ちてくるのだ。


「あんたほんとに、何者なのよ……」


 姫様が訝しむような目をしていたが、見ないことにした。


 だが新しい加護の方は……見ないふりをするわけにもいかないようだ。



【加護 坂本龍馬】 レベル 27→27


【スキル】――【型破り】レベル 2

       【運搬】 レベル 2



【加護 レオナルドダヴィンチ】 レベル1


【スキル】――【錬金】レベル1



【フィル】

【能力値】

 ・体力 85 →102

 ・力  94 →100

 ・防御 39 →51

 ・魔力 32 →65

 ・敏捷 94 →108

 ・運  73 →85

 ・賢さ 76 →114


【魔法】


 今日のメモ――新しい加護の名前はレオナルドダヴィンチだった。

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