閑話② 召喚士、ベルハート

「――で、なんでベルハートがいるんだ?」

「いたら悪いの?」

「……ごめんなさい」


 先に謝っておいた。

 なんだかそっちの方が今後のためになるような気がしたからだ。


「あんたがダンジョンに入っていくのが見えたから、追いかけてきたのよ。ここなら、簡単に逃げられないからねぇ……」

「に、逃げるなんて滅相もない。そんなことを考えたことは一度もありませぬ」

「どの口が言うのよ‼ 10年も逃げてたくせに‼」


 ぽこぽこと殴られる。

 こういう雰囲気は久しぶりだが、やはり悪くない。


「というかあんたも、なんでこんな深くまで潜るのよ‼ 追いかけてくるの面倒だったんだから」

「ま、まあ、あれだ。久しぶりのダンジョンでテンションが上がっちまったんだ」


 ウソである。

 ついさっきまで見つからなければいいなあと考えていた。そのために深く潜ったに過ぎない。


 だが、ベルハートはそんなことに気が付くこともなく。


「まあ、いいわ。これだけ広い場所があったら、快適に暮らせるものね?」

「まーそれはそうだな。もう逃げられない以上、諦めてここで観念するしかない」

「え、逃げる?」「なんでもございません」


 危うく口を滑らせるところだった。

 危ない危ない。


「まあ、こうなった以上、少なくとも1か月は同居生活だな」

「ど、どうきょ……⁉」

「同棲生活と言ってもいい」

「ど、どうせい……ッ⁉」


 ぽんっと茹で上がりそうなほどに赤くなったベルハート見て、してやったりと心の底でほくそ笑む。

 さきほどびっくりさせられたから、これくらいのお返しはしてあげないといけない。


 ――それにしても、10年たってもこういう話題は苦手なんだなあ。まさかそんなに初心のままだとは思わなかった。


「かわいいやつだな、ベルハートも」

「な、なーーッ‼ なんてことを急に言うのよ‼」


 首まで赤くして怒るベルハートが何とも微笑ましかった。

 この感覚は、自分でも驚くほどにすんなりと体になじんでいった。


「とは言ってもほんとにおかしなもんだよな、ダンジョンって。中からは絶対に開かないようになってるんだから」


 アレスたちがダンジョンに潜って分かったことだ。


 外からは簡単に壊れるようになっているあの入り口は、内側からは絶対に力づくでは開かないようになっている。

 入り口にはなりえても、出口になるには自然に待つしかない。


「そうね。――まるでダンジョンから出したくないって言ってるみたい」


 ベルハートは自分でそう言っておきながら笑って一蹴した。

 自分で言ってて馬鹿なことだと思ったのだろう。


 ダンジョンが感情を持つなんてばからしい。

 それについては、たしかにそうだ。


 その一方で、ダンジョンが俺たち冒険者を出したがらないという感情を持っていることも、否定することはできなかった。

 そう考えなければつじつまが合わないことが存在するからだ。


「――それより、お前いいのかよ? 領主様なのに、自分の場所を投げだしてきて」

「投げ出してなんかないわよ! ってか、誰のせいで!」

「落ちつけ落ちつけ。で、大丈夫なのか?」

「むむ……」


 俺に宥められたのが悔しいのか頬を膨らませている。


「……大丈夫よ。あっちに私の召喚獣を置いてきたから」

「お前の召喚獣、ほんと便利だよな」

「道具みたいに言わないで。みんなかわいい私の仲間なんだから」


 ベルハートは先に言った通り、召喚士だ。


 魔物とはまた別の召喚獣を使役して使いこなす。

 なんていう説明をするとまた怒るので、手伝ってくれているということにしておこう。


「あ、そうだ。せっかくここまで来てくれたんなら、召喚獣で見張りを付けてくれよ」

「見張り……? ああ、わかったわ」

「助かる」


 魔法障壁を出し続けた状態は、さすがに疲れる。

 召喚獣は出してしまえばあとはその体力が尽きるまで勝手に戦ってくれる。


「【召喚】」


 ベルハートがそう言うと、2メートルくらいのオオカミと鳥が20体ずつ、そして10メートルほどのトロールが5体召喚された。


「うへー、さすがベルハート。とんでもねえな」

「ほ、褒めても何も出ないわよ……!」


 あっという間に魔物の群れを出現させたベルハートに手放しの賞賛を送ると、、ベルハートはもじもじしながら召喚獣をあたりに散らばらせる。

 トロールたちだけはこの家の周りに残しておいて、最悪魔物を打ち漏らしてしまった場合にそれを討ち取る役目らしい。


 ここまで統率が取れるようになるまでには相当な時間がかかったし、この魔物たちの熟練度も以前よりさらに成長しているように見える。


「こりゃ、安心して眠れるわ……」

「寝んなアホ!」


 横になった瞬間、ベルハートに引っ張たかれたアレスだった。




【加護 アレクサンドロス大王】 レベル 276


【スキル】――【鏖殺せし戦争】レベル 3

       【指揮Ⅵ】 レベル 4

       【占領Ⅳ】 レベル 1

       【召喚Ⅱ】  レベル 5

       【大局観】  レベル 4


【ベルハート】

【能力値】

 ・体力 1596

 ・力  1342

 ・防御 1524

 ・魔力 1831

 ・敏捷 1015

 ・運  983

 ・賢さ 1452


【魔法】――【炎Ⅴ】

      【水Ⅳ】

      【土Ⅳ】

      【風Ⅳ】

      【召喚Ⅻ】

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