第24話 訓練

 ――かつて、魔石を売りに行くソールの町の店で店員さんからダンジョンの階層あたりの推奨レベルについて聞いたことがある。


 ダンジョンの難易度は1階ごとに格段に上がっていく。


 大体の目安としては、推奨レベルとしてダンジョンの階層の数かける10くらいだと言っていた。

 1階ならレベル10、5階ならレベル50くらい。

 まあこれについても、徐々に難易度が跳ね上がっていくのでそのうちあてにならなくなるらしいが。


 そして、現在僕のレベルはというと25である。前に確認した時からふたつレベルが上がっている。

 ということは、その計算で行けば僕に適切な場所はダンジョン2階ということになる。


 そんな僕が、今いるのはダンジョンの4階。

 単純計算で推奨レベルは40だ。


 何が言いたいのかといえば……とてつもなく「やばい」ということだった。




 魔物の数が明らかに違う。


 ダンジョン1階では3匹くらいからなる魔物の群れを倒したら一息つけたのに、今は5体くらいから構成される魔物の群れを何とか倒しても次から次へと魔物がやってきていた。

 これには僕が魔物を倒すスピードが遅いということももちろん関係してはいるが、それだけでは説明できないのも事実。


「ほら、フィル行ったわよ!」

「は、はい……!」


 既にダンジョンの中にある空洞は高級ホテルのエントランスくらい広く(ダンジョンを高級ホテルで例えるのは気が引けるが)、僕と姫様、それにバルデスさんがいるが、互いに遠く離れて戦っていた。


 相対するのはゴブリン、フォアウルフ、それにファットコンドルからなる魔物の群れだった。


 どうやらダンジョン内では魔物の種類に関係なく群れるみたいで、それぞれが特徴を生かした攻撃を仕掛けてくるのでなかなか骨が折れる。


 しかも、1階でいるゴブリンよりも明らかに強くなっているし、村で戦ったフォアウルフよりも断然強い。


 それらが淀みなく戦いを挑んでくるのだった。


「はぁ……はぁ……っ」

「こらー! 休むなー、戦えー!」


 姫様が遠くからでも僕の動きを見ていたらしく、檄を飛ばしてくる。


 さすがに姫様はレベル70くらいあるのでこの階層ではまだ余裕そうだ。


 では、なぜ戦っているのかといえば……。


「お前が強くなりたいって言ってきたから、私もこうやって付き合ってやってるんだろうがー‼」


 ということである。


 実は昨日から、ダンジョン4階での戦闘を訓練と位置付けて自らに課している。


 理由は主に、戦闘力が足りないのと姫様たちに能力値で離されてはいけないという危機感からだった。


 最近は1階のゴブリンを倒してもほとんどレベルが上がることがなく、10000匹倒してようやく1レベル上がるか上がらないかくらいになってしまっている。

 さすがにこれではレベル上げの効率が悪すぎる。


 あとは、いずれ姫様たちとも共闘してダンジョンの攻略に挑むようになる。

 まだしばらくはいいだろうが、10階層くらいになってくるとさすがに姫様でも能力値が足らない。


 その時に、僕の能力値が明らかに姫様とバルデスさんより劣っていると、僕の能力値が上がるまで手伝ってもらうことになる。

 でもそれだとあまりにも効率が悪い。


 だからこうして、定期的にレベルを上げて追いつける土台を作っていこうという発想だ。


 それに能力値を上げておけば日常の生活で役に立てることが増えるし。


 というわけで、今は血反吐を吐きながらモンスターの波を沈め続けているところである。


「手伝いましょうか?」


 とそこへ、バルデスさんがいつの間にか僕の後ろにいて声をかけてきた。

 額に汗は見えるが、そこまで追い込まれているという印象は受けなかった。


「い、いえ、大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」

「いえいえ……。心配というよりは、二人で倒していった方がらくに……」

「こらー‼ バルデスーッ‼」


 と、そこで姫様が鬼の形相をして走ってきた。

 正直、モンスターより怖い。


「それではこれで失礼します。……何かあったら言ってくださいね」

「ありがとうございます! 健闘を祈ります!」


 もう既に姫様はすぐそこにいる。


 バルデスさんが逃げ切れることを願っていよう。





 ダンジョン4階で1時間ほど戦闘を続けた後は、拠点に戻る。


 朝に出かけると、これくらいでちょうどよくお昼になるのだ。


「にいさん、だいじょうぶ……?」

「ああ、なんとかね」


 これでも、姫様とバルデスさんがある程度魔物を間引いてくれているのだと思うと先が思いやられる。


 一人であそこまでいけるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。


「ひへはは。はんへほんはひはふっはんへふは(姫様。なんでこんなの殴ったんですか)」

「あんたが怠けたことをしてるからよ」


 それとは別に、ボコボコにされた人が一人いるけど……本人の名誉のために名前を出すのは勘弁しよう。


「そういえばアリサ、ファットコンドルのお肉はどうだ?」


 そんなことより、とアリサに尋ねてみた。


 4階で倒したファットコンドルを2,3匹持ち帰ってきたのだ。

 ちょっと重たかったけど、まあそこはいいや。


「んー……、もぐもぐ」


 まだ肉に手を付けていなかったアリサは、律儀に肉を口の中に入れ文字通り吟味していた。


 そして、食べ終えての感想は。


「おいしいっ!」


 満面の笑みだった。

 ちょっと丸く膨らんだ顔がかわいい。


「おお、よかったよかった」


 わざわざ持ってきた甲斐があった。

 僕もアリサに続いて食べてみる。


「お……! 確かに美味しいな」


 味付けは塩と胡椒というシンプルなもの。テリアさんがダンジョンに入る際に調理道具と一緒に持ってきたものだった。


 それでも、分厚く切られている鶏肉は、しっかりと味が出ていてとてもおいしかった。

 肉だけどクセもないし、なんなら鶏よりも食べやすいかもしれない。


 火の加減が抜群なのは、さすがテリアさんといったところだ。

 文句の付け所がない。


「ほほっ、こ、これは、美味ですなぁ……」

「美味しいっす! めっちゃうまいっす!」


 建築士のカールさんとバックパッカーのミルカさんも喜んでいて食べていた。


「よし、続いて……」


 そして今度は盛り合わせにあった人参だ。


 こちらの方はワンダさんが作ってくれた人参。

 本当は4か月以上栽培に時間がかかると思うのだけど……1か月で作ってしまうとは、いったい何をしたんだろうか。


 まあそれでも、農場は小さく収穫量は少ないので貴重な野菜だ。

 今日は採れた記念ということらしい。


「お、おお……!」


 口に入れると、肉の方とは別の感動があった。


 今まで普通に食べていたものを、久し振りに食べた感動。

 特段おいしいわけじゃないんだけど、久し振りに食べると前よりもおいしく感じられる。

 実がしっかり出来ていて、ほんのり甘い。


「ああー、いい食事だな」


 まだ物足りないところはたくさんあるけど、それでもこの世界に来てからは一番いい食事が出来ている。


「おいしい! にんじん! はじめてたべた!」


 アリサもこうして喜んでいることだし、ちょっとずつだが生活水準が上がっていることを感じられる。


 まだ満足には遠いとしても、ちょっとずつ進歩しているのじゃないかな。



 最後にステータスの確認


【加護 坂本龍馬】 レベル 23→27


【スキル】――【型破り】レベル 1 →2

       【運搬】 レベル 2


【フィル】

【能力値】

 ・体力 76 →85

 ・力  85 →94

 ・防御 35 →39

 ・魔力 28 →32

 ・敏捷 83 →94

 ・運  62 →73

 ・賢さ 66 →76


【魔法】


 今日のメモ――全く役に立たないスキル【型破り】のレベルが上がっても……と思っていた時期が僕にもありました。

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