第23話 拠点の整備と拡大

 ダンジョンに入ってから10日。


 今行っていることは主に二つである。


 ひとつは設備の充実。


 既に農場と倉庫の方は形が出来ているので、今は主に解体場や調理場の建築を行っている。


 農場の方は魔女のワンダさんに管理を一任しており、時折、調理師のテリアさんが様子を見に来ているという状況だ。

 一応ワンダさんが農場に一日中いられるようにプレハブ小屋(石)は作ってあるが、どうやって行動するかは本人に任せている。


 あの人のことだからどこかでサボってそうだけど……まだよくわからないので何とも言えない。

 でもなんとなく、自分のためにやることだったらサボらない気がする。


 そして解体場と調理場については、テリアさんの要望を聞きながら建築士のカールさんが主導となって建設している。

 こちらはこちらで、テリアさんの要望が細かすぎてカールさんが苦戦しているといった様子。


「そこ一ミリでもずれてると火の通りが悪くなるんだよ‼」

「ここは厚さ2.1センチにしろって言っただろ⁉」

「は、はいぃぃいいいいい……‼‼」


 特に料理場の方は妥協を許さないらしく……ご覧のありさまだ。


 カールさんには頑張ってほしいと思う。





 そして、設備の整備とともに行っている二つ目のことは、拠点の拡大、安全地帯の拡大だ。


 最初の状態のままでは、外で湧いた魔物がうっかり拠点に侵入できたときに中にいる人間が襲われてしまう。


 それを防ぐための保険だ。


 具体的には、拠点の周りの空洞や小道を、炎の光で湧き潰しをしておく。

 そしてどの空洞も分かれ道のところで塞いでおくことによって、魔物がどこかで発生したとしても、いくつものバリケードがあることによって防げるという仕組みだ。


 これに関しては東西南北、どの空間から入られても困るので全域的に網羅するようにやる必要がある。


 そしてこれに取り組んでいるのが、僕ともう一人。


 歳は18くらいで僕よりも年上だが、少しばかり臆病でまた腰も低く、誰に対しても敬語を使うという変わった青年。


 ミルカさんだった。


「ミルカさんは周りを警戒しておいてください」

「は、はいっ! 分かりました!」


 ミルカさんの役割はバックパッカー。


 バックパッカーと聞くとどこかぶらり旅をしていそうなイメージだけど、実際この世界ではバックパッカーバックパックを持った援護職で、冒険者が倒した魔物の素材や鉱石を採取する職業らしい。

 だから例えば僕がゴブリンを倒したときには、ささっと胸の辺りを掻っ捌いて魔石だけを取り出すことが簡単にできる。


 そして僕の代わりにバッグにそれらを蓄えて持ち帰ってくれるのだ。


 しかもミルカさんはその臆病な性格に反して、能力は充実していて、【加護】も持っている。


「すみません、そろそろ一杯になってきたので【輸送】します」

「オッケーです」


 スキル【輸送】


 このスキルを使うと、一日に一度だけ彼が持っているバッグの中身を丸ごと好きな場所へ転送できる。


 重さは今のところ20キロくらい、魔石にすると200個ほどしか運べないが、スキルが成長していくと一度に転送できる重量が上がっていくらしい。

 僕がゴブリンを狩ると一緒にミルカさんも経験値をもらえるので、すぐにレベルアップしていくだろう。

 今はレベル6みたいだ。


 ちなみに輸送先は魔石の場合、倉庫に行くようになっている。


 たまにゴブリンを輸送してもらうこともあるが、その時は解体場に送られるようになっていている。

 まあ、ゴブリンの場合は一体しか運べないので僕のスキル【運搬】で運ぶことの方が多いのだが。


「本当に、ミルカさんの能力は便利ですね」

「いえ……、自分にはこれくらいしかやることができないので……」


 しゅん、と落ち込むミルカさん。


 彼は、荷物を運ぶ以外に出来ることが無いのが悔しいらしく、いつも僕の戦闘を見て戦い方を勉強しているらしい。

 加護の恩恵で能力値は上がるから、もしかしたらいつかは戦闘に参加できるようになるかもしれないな。そうすると心強い……かも?





「ダンジョンのを見つけたぞ‼」

「…………」


 姫様がご飯の前にいてもたってもいられず、そんな言葉を発した。


 聞き間違えではなく、本当に4階。


 姫様とバルデスさんの方はといえば、既にダンジョンの3階まで攻略済みのようだったが、どうやら今日、とうとう4階を発見したらしい。


「す、すごいね……」


 これにはもはやアリサでさえも引き気味である。

 いやぶっちゃけ僕でも引く。


 ダンジョンの2階は、依頼して次の日に見つけてきた。その時はすでに僕も10歳にして腰が抜けそうになってしまったが……3日後くらいに3階を見つけたと言ってきたときにはもう何も思わなくなった。

 さすが国内最強と言われたお姫様である。

 姫様に連れ回されるバルデスさんが本当にかわいそうだ。


 ちなみに姫様は記憶力も良いそうで、一度たどり着いたらもう道順を間違えることなく完璧に記憶してしまうらしい。

 これに関しては、能力値の【賢さ】のステータスが関係しているのかもしれない。


 たしかに僕も、空洞のちょっとした特徴や形だけでどこにいるのか大体わかる。

 こんな記憶力は前世では持っていなかったはずだ。


「そろそろ2階の方にも進出したいんですけどね……」


 2階にはゴブリンの他にフォアウルフがいることが確認されている。


 奴らの毛皮は利用価値が高いものであるし、肉の方もゴブリンのそれより長持ちする。

 経験値も奴らの方がうまい気がするし、ゴブリンよりも一体当たりの肉の量が多いのでコスパもいい。


 そして他にも2階に進みたい理由があった。


「じ、実は、そ、そろそろ鉄も欲しくなってきたのですが……」


 カールさんがびくびくとしながらつぶやく。

 いや、怯えることなんて何もないと思うんだけど……。


 それはともかく、ダンジョンの2階では――鉄鉱石が取れるのだ。


 鉄鉱石と言っても、前世のような不純物が多く入っていて鉄部分を取り出すのに大きな溶鉱炉がいるようなものではなく、既に純度の高い鉄鉱石がダンジョンには眠っている。

 ご都合主義とも言えるんだけど……使えるものは使っておくに限る。


 お姫様とバルデスさんは鉱石の採取には向いていないし道具もないので、ミルカさんを連れていく必要があるが……僕だけでは護衛まで負うのにはリスクがあるし、お姫様たちにはもう少し深くダンジョンを探索してもらいたいので、今は指をくわえていることしかできない。


 鉄があれば、ある程度強度が必要な設備も作ることが出来るので、カールさんはああいう低姿勢で言っているが、実のところ喉から手が出るほど欲しいらしい。


 これは、拠点拡大のペースを速めないといけないかもしれない。


「ちなみに、ダンジョンの4階には何がありました?」

「うーん……あまりちゃんとは見れてないんだけど、ファットコンドルはいたわね!」

「魔物のことじゃなくて……」


 ちなみにファットコンドルとは、その名の通り太ったコンドルである。

 肉は結構うまいらしいし、羽毛はふかふからしいし、爪は固くて使い道が多いみたいだ。

 いずれは狩りまくりたい相手である。


「……ああ、それなら石炭とかはあったわ……よね?」

「姫様は魔物にしか目がないんですか」

「あるわよ! 石炭だってあったでしょ⁉」

「ありましたね。入ってすぐのところに」

「………………‼」


 バルデスさんの言葉に、姫様も言葉にならない声を返していた。

 さすがの姫様も本当に魔物のことしか考えていなかったようで、ただ怒るしかなかった。

 バルデスさんもしてやったり顔である。


「おお‼ いいね、そいつがありゃ火力も出るわぁッ‼」


 石炭という言葉を聞いて、料理士のテリアさんが張り切った声を出す。

 どうやら魔石で火が賄えるようになったこの世界でも、石炭というのは需要があるらしい。


 たしかに、石炭があれば火も長続きしそうだしな。


「じゃあ一層、設備を整えるスピードを上げなきゃいけませんね……」


 今のままでは人手が圧倒的に足りてないか。


 これは、宿を作るのを優先させて、次にダンジョンが開いた時に人員を補充してもらうしかないか。


 姫様が内側からもダンジョンを開けられるようになるとありがたいんだけどな……。

 力のかけ方的に難しいと言われたらしょうがない。めちゃ怒ってたしな。


 とりあえずは、設備の充実と拠点の拡大をしないとな。




 最後にステータスの確認


【加護 坂本龍馬】 レベル 22→23


【スキル】――【型破り】レベル 1 

       【運搬】 レベル 2


【フィル】

【能力値】

 ・体力 74 →76

 ・力  83 →85

 ・防御 34 →35

 ・魔力 27 →28

 ・敏捷 79 →83

 ・運  59 →62

 ・賢さ 64 →66


【魔法】


 今日のメモ――賢さは、脳の働きをよくするのだろうか。単純に記憶力だけ?

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