第21話 複数人でのダンジョン

「よし、とりあえずは大丈夫そうだな……」


 一通り拠点の中をめぐって魔物がいないことを確認した僕は、拠点内にある5つの空洞のうちの一つ、北にある空洞にやって来た。


 今はここに全員集まっていて、みんな総出で家の建設をしている。

 家と言っても、とりあえず今日寝る場所の確保という意味合いが強く、やっぱりこれも仮の宿ということにはなるのだろうが。


 建築家のカールさんの指示を中心にみんなが石を運んだり積んだり、あるいはカールさんが持ってきていた留め具で地面と石を固定させて補強したりと、やることがたくさんある。

 ここでは身分の貴賤も関係ないようで、姫様をはじめ宮廷からやってきたであろう人たちも文句ひとつ言わずに作業をしていた。


「姫様……疲れました」

「あんたは人の100倍働きなさい」

「なんで……ですか……」


 いや、正確には一人だけ文句を言っている人間がいたが、まああの人はなんだかんだいってちゃんと仕事をするタイプなのでノーカン。


 というか今思ったけど、姫様が率先して働いているからみんな文句言わずに働いているのかもしれない。

 それを姫様が狙ってやってるなら……為政者の鑑だ。すげえ。


「アリサ」

「あ、にいさん?」

「重いなら、手伝おうか? アリサはそこで休んでたらどう?」

「むー、にいさんはわたしをこどもあつかいしすぎっ!」


 そこで、大きな石を左右に振れながら運んでいるアリサをみつけたので声をかけたが、逆に怒らせてしまったようだ。

 というか「むー」って言うのはもう癖なんだろうか。よく聞く気がする。


「うーん」


 でも、大変そうなのは事実なんだよなあ。


 よし。


「カールさん」

「な、なんですかフィル殿⁉」

「アリサを借りても良いですか?」

「あ、アリサ殿ですか? だ、大丈夫ですよ!」

「ありがとうございます」


 どうしても仕事をしたがるのなら、別の仕事をさせてあげればいいのだ。


「アリサ、兄ちゃんと一緒に魔石を運ぼう」

「魔石を?」

「そう。今は魔石が真ん中の空洞に集中してるから、とりあえず半分くらいはこっちに持ってこないといけないんだ」

「そ、そうなの?」

「そうなの。よし、じゃあ兄ちゃんに付いてきて!」

「はーいっ!」


 右手をぴんと挙げて了解の意を示すアリサ。

 こういうところは子供っぽくてかわいいんだよなあ。


 まあ、妙に仕事をやりたがるちょっぴり大人なアリサも健気でかわいいんだけどね。


 というわけでアリサと移動しながら、兄妹水入らずで雑談をする。


「どうだいアリサ? ダンジョンの中の生活は」


 努めて自然に聞く。

 アリサの率直な感想を聞きたかったからだ。


「うーんそうだね……」


 辺りを見回しながら考えるアリサ。

 簡単に答えられる質問をしたつもりだったが、アリサはちゃんと考えてくれているらしい。


「でも、おもったよりもこわいとこじゃなかったな~。もっとおそろしいとこだとおもってた」


 たしかに、今歩いているところも明かりが灯っていて暗くない。

 魔物が湧くのを防ぐために、気持ち多めに明かりを用意しているし、まだ岩ばかりの外観だけどいづれは木や草なんかを増やして、地上に見た目を近づけていきたいと思っている。


 たぶん、何も手を加えられていない真っ暗なダンジョンだったら、アリサも怖がってしまっていただろう。


 僕の頑張りが実ったと言える。


「なに、にいさん? うれしそうだけど」

「いや、な? アリサのために頑張った甲斐があったなあと思って」

「にいさん、そういうせりふはほかのひとにいって」

「なんで⁉」


 意味わからないが拒否された。

 もしかしたら妹は口説いてくるタイプよりも奥手なタイプの方が好きなのかもしれない、

 メモメモ。


「にいさん、へんなことかんがえてたらゆるさないから」

「ま、まさか⁉ まさか妹の趣向を知ってそれに似せていけばいつか『お兄ちゃん大好き♡』って言われるだろうなあとかそんなことは考えてイマセンヨ?」

「にいさん……」


 もはや呆れそうなアリサに嫌われる前に、さっさと魔石運びを終わらせた。



 *



「よし、そろそろご飯にしましょう」


 ある程度寝床が確保でき、家のような何かが出来たところで姫様が号令をかけた。


 たしかにお腹が空いてきた。僕の体内時計ではすでに夕方過ぎを示している。


「テリア、頼むわ」

「あいよッ‼」


 テリアと呼ばれた30代後半くらいのおばさんが元気よく返事をする。


 テリアさんはもともと大衆食堂みたいなところで働いていたらしく、大人数の料理を作る今回のダンジョン探索にうってつけだったというわけだ。


「料理はどうすんだい、ひめさまよ」

「食べられるものなら何でもいいわ。もちろんみんな同じ料理ね」

「そうかい……。いい料理が作れそうだね!」


 二の腕が、騎士のみなさんに匹敵するくらい太い。いったいどんな料理が完成するのだろうか。

 なんかちょっと怖い気もするけど。


 ちなみに倒した魔物の解体もテリアさんがやってくれている。

 魔物の肉を使った料理も得意だと、本人は言っていた。

 真実は……まだ分からない。


 とにかくご飯が出来るまで休憩ということになったので、騎士の人たちもカールやその他の人間も腰を落ち着けて休んでいる。


 ちなみに床に敷いてあるのは、僕が家にストックしておいたフォアウルフの毛皮をカールが器用につなげたものだ。

 体育館くらいある広さ全てを覆っていて、これならダンジョンにやって来た人間13人がみんな横になってもあまりあるくらいだ。


 さすがカールさん。

 本業の建築家は空間の使い方もうまい。


 みんなが休憩している中、一人だけこの空洞の中にいないことに気付く。


「姫様、どこいったのかな」


 バルデスさんも休んでいるが、どうやらリナ姫だけ見つからない。


「ひめさまなら、さっきそこからでてったよ?」

「へー」


 アリサが指さしている方向を見ると、そこは拠点から外に出る分かれ道の一つだった。


 すごいな。

 さすがにダンジョン1階の敵相手に姫様が不足を取るとは思えないが、決して安全ではない。


 それでもバルデスさんが付いていないのを見る限り、鍛錬なのだろう。


 こういう隙間時間にも鍛えているということだ。


 どうしてそこまで強さを求めるのだろう。

 何が彼女をそこまで突き動かすんだろう。


「おーい、ご飯できたよォッ‼」


 だが、その思考を遮るようにテリアさんの強烈な雄たけびとも呼べる何かが空洞内を支配した。


 まあいっか。どうせ答えの出るものでもないし。


「よし、アリサ。いこっか」

「うー」


 ちょっと耳が痛そうなアリサの頭を撫でてあげる。

 うふ、かわいい。


 こうして、二度目のダンジョン、他に人間がいる中でのダンジョンの一日目は無事に終了した。


 ちなみに、テリアさんの料理は滅茶苦茶うまかった。

 シチュー最高。




 最後にステータスの確認。


【加護 坂本龍馬】 レベル 22→22


【スキル】――【型破り】レベル 1

       【運搬】 レベル 2


【フィル】

【能力値】

 ・体力 74 →74

 ・力  83 →83

 ・防御 34 →34

 ・魔力 27 →27

 ・敏捷 70 →70

 ・運  59 →59

 ・賢さ 64 →64


【魔法】


 今日のメモ――複数でのダンジョンは、なんか楽しい。

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