第20話 ダンジョン2回目

「準備はいい?」

「大丈夫です。お願いします」


 ダンジョンの入り口、そこで僕ら一行は最終確認をしていた。


 一行。前に姫様の護衛だった男が他にも10人ほどの人間を連れてきた。


「ダンジョンに入る前に先に紹介をさせていただきます」


 それから一人ずつ紹介される。


「――ワシはカールと言います。アハハ、もう50過ぎですからな、お手柔らかにお願いしたいです」


「――ぼ、ぼくはミルカです!……! こんな姿ですが一応男です……。精いっぱい働きます!」


「――あたしゃテリアだよ。美味い飯作ってやるから、食べ残ししたら……分かってるね?」


「――わたしは……ワンダよ。魔法使いだからね~。よろしく~」


 それから残りの人間は騎士見習いから集められたのが4人と、姫の身の回りを掃除する付き人が1人だった。人手としては十分に足りている。


「それじゃあ、行きますか」

「「「おう‼」」」


 周りを見渡してから声をかけると、主にテリアや騎士たちから威勢の良い声が聞こえてきた。


「……それ、私の役目なんだけど……」

「まあ、細かいことは気になさらず」


 唯一、リナ姫だけは怒ったような戸惑っているような口ぶりをしていたが、まあそんなことは気にしなくてよかろう。


「アリサ、大丈夫か? 心の準備とか」

「うん! だいじょーぶ!」

「そっか。おー、かわいいなぁ」

「ちょっと……! あたまをなでなでしないで……っ!」

「すまんすまん」


 恥ずかしがっているアリサも可愛かったが、それ以上は本気で怒られそうだったのでやめておいた。


 まあいいんだ、前みたいにここでアリサとお別れするわけじゃないんだから。


「よし、では、姫様。お願いします」

「任せて」


 前回は一人だったダンジョン探索も、気づけばこうして10人近くでやってきている。

 なんだか感慨深い。


 まあでも、それ以上にアリサがいることが何よりもうれしい。


 1か月我慢した甲斐が、我慢させてしまった甲斐があった。


「はぁぁぁぁぁぁあああああ‼‼」


 姫の雄たけびによって、再び僕らのダンジョン探索が始まった。




「よし、全員は入れたわね。じゃあまずは2階の探索を……」

「その前に拠点を拡充しましょう」

「え?」

「え?」


 いや、姫が意味わからないみたいな顔をしてるんだけど、こっちだって意味が分からない。


「な、なんでそんなまた拠点づくりなのよ……。ここにだって拠点があるじゃない」

「いや、これだけじゃ狭すぎます。一応全員が住めるとは思いますが、さすがに大変ではないでしょうか?」

「……ま、まあ、そうね」

「あっさり論破された」

「バルデスは黙ってなさい!」


 安定のバルデスさんへの右フックが行われたところで、まずは拠点の拡大だ。


 この拠点には僕とアリサ用の家と、小規模の建物しか存在しない。

 既に10人以上はいるわけだから、もっと広くしないと。


「でも、広げるったってどうすんのよ。もう場所はないでしょ?」

「それならまずは、新たな場所の確保ですね。ここから数百歩分くらい行ったところにいくつも空洞があります。一つずつ魔物が湧かないように攻略して整備しましょう」

「一気にまとめてやった方が楽じゃない? なんで一つずつなのよ」

「……その方が安全だからです」

「はあ?」


 僕の回答に不満を見せる姫様。

 案外短気なのかもしれない。案外でもないか。


「たしかに姫様やバルデスさん、それに騎士の方々もお強いのは分かっています。でも、アリサやカールさんたちはゴブリン一匹にやられちゃうかもしれない」

「じゃあここに居させればいいだろう」

「ここにゴブリンが出ないとも限りませんから。まだダンジョンは未知のことが多いです。念には念を入れた方が良いと思います」

「リナ様」


 そこでバルデスさんがフォローに入る。


「ここを甘く見ないほうが良いです」

「なによ、バルデスまで」

「ダンジョンは気まぐれです。油断していると……死人が出ます」

「‼」


 そこでようやく姫様が気付く。


 そう、下手をしたら人が死んでしまうことだってあり得るのだ。


 たしかに異常事態が起こる可能性は低い。それは姫様の言った通り。

 だが、それに対するリスクが大きすぎる。

 命は失ったら帰ってこない。


「……分かったわよ」

「ありがとうございます、姫様」

「べ、べつにお礼を言われるようなことじゃないでしょうが」


 ほら行くわよ、と恥ずかしそうに先に行ってしまう姫様を見て、僕とバルデスさんは目を合わせて思わず苦笑いをした。





 さすがに大人数のパーティで攻略をしてしまえば、僕が一人でやったようなことはすぐに終わる。


 拠点周りの4つある空洞の制圧が終わった。もちろん拠点からそれらの空洞にかけての小道の湧き潰しもだ。


 どんどんと居住区域が拡大する。


「あとは家ですね」

「じゃあカールの出番だな」


 すると、カールと呼ばれた、しっかりと肥えたおっさんがやってきた。


「よ、呼びましたか⁉」

「あ、ああ、呼んだ」

「何かワタクシは変なことをしでかしましたか⁉」

「別に説教でも罰を与えるわけでもないんだが……」


 呆れた顔をしている姫様。

 バルデスさんの方は、相変わらずだなあと特に反応を見せなかった。


「ここに私たちが住む家を作りたい」

「はっ。そ、そういう用件でしたか……!」

「お前を呼ぶのにほかにどんな用件があるというのだ……」


 なんでも、聞いた話ではカールさんは宮廷雇いの建築家なのだそう。


 能力はあるらしいのだが、その何かと落ち着かない性格が仇をなしているのだとか。


 まあ、腕が確かというのなら別にいいんじゃないだろうか。


「ど、どれくらいの大きさにしましょうか……?」

「とりあえずは全員は入れるくらいにしてくれ。今日の寝床になればいいから、簡単なものでも」

「そうですか……」


 すると、カールは俯いて何か数字やらをつぶやいている。


「この大きさなら……柱は10本ほどで……高さは3足ぶんくらいあればいいから……」


 どうやら計算をしているらしい。

 もしかしたらかなり具体的な構想をしているのかもしれない。


「でしたら姫様……石が1000個以上必要になります」

「そうか……」


 カールからの報告を聞いた姫様も、具体的に石の調達に向けて考えを練る。


「バルデス」

「バルデスは足を挫きましたので、他の人間に」

「兵士を二人連れて石を集めてこい。2000個」

「聞いてましたか……って2000⁉ 倍じゃないですか」

「今後も必要になるからな。早くいけ」

「人使いが荒いご主人だな‼⁉」

「3000個にするわよ?」

「行ってまいります!」


 そしてこの漫才コンビはいつ見ても面白いな。

 熟練の会話だ。


「じゃあ僕はこの拠点内を見回ってきますね」

「わかった」


 姫様にそう告げて、僕は大きくなった拠点の安全確認をしに向かった。

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