第19話 かわいい女性店員

 魔石1500個。


 今回のダンジョン探索で手に入れることができた魔石の数だ。


 そのうち1000個はダンジョンの倉庫の方に置いてきた。

 次の探索に向けての貴重な資材だ。


 そして残りの500個を、今日は街まで売りに来た。


「にーいさんと、おーでかっけ〜♪」


 隣で今にもスキップしそうなアリサ。

 相変わらず可愛すぎて、そろそろ親離れならぬ兄離れが怖くなってくる頃だが、まあそれはその時に考えよう。


 それと、普通の魔石とは別のオレンジ色に光る魔石も持ってきた。


 どういったものかもわからないし、どれくらいの値がつくのかも分からなかったからだ。

 さすがに分かる人間に出会えるだろう。

 いなかったらお姫様に聞けばいいしね。


 というわけで、400個の魔石と1個の魔石改(仮)。


 普通の魔石は一個につき銅貨4枚だから、400個で1600枚。銅貨1枚を100円とすれば、16万円にもなる。銀貨にすれば16枚だ。


 ただそう言われてみればすごい気もするし、実際に前の生活と比べたら格段に儲けられているわけだけど、実際には平均的な収入よりも少ない。


 前の世界でも、月収16万円だったらお世辞にも多いとは言えないだろう。


 しかも、この世界では税をお金で払おうとすれば月に10万円は払わなければいけないので、この収入じゃ僕とアリサの2人分を現金で納めることはできない。


 ちょっとこのままの収入では税を納めるのが難しそうだ。

 今年の分はすでに作物で納めているからいいとしても、来年からはダンジョンに篭ってしまうわけだから対策を考えないといけない。


 そうだ。ある程度一気にお金を貯めて、ダンドあたりに預けておいて税の取り立てが来たら代わりに払ってもらおう。

 お金の方は、頑張って狩りまくればなんとか間に合うだろうし。

 今回は魔石だけだったが、次からは魔物の素材とかも売りに来ればなんとかなる……はず。


 しかし、まあ、こうやって考えてみると、ゆっくりとダンジョン探索をしている余裕はないことに気が付く。次の探索はほんとに気合を入れないとまずいな。

 出来れば税を出さなくていい今年中、つまりあと1か月でそこそこのお金を作らないといけない。


「まあーさいあくお姫様にお金を借りるかねえ」

「あのおひめさまは、おかねかしてくれないとおもうよ?」

「……アリサ、そういうことは言わなくてもいいぞ」


 僕も望み薄だって分かってるんだから! 言わないでくれ‼


「――そういえばにいさん」

「なんだい?」

「わたしはだんじょんのなかで、なにをすればいいの?」

「なにも」


 僕は即答した。

 アリサには働かずに楽に生活してもらいたい。


 だけどアリサはそれをよしとはしない。


「じゃあおりょうりとかいえのそうじくらいはするね!」

「むう、まあしょうがないか」


 逆に何もさせないと、自分から危険な仕事を始めかねないからね。

 アリサは働き者のいいお嫁さんになるなあ。


「アリサの料理がダンジョンでも食べられるなんて、兄さんは幸せ者だな~」

「……そういうのはいいからね。にいさんにむりをさせないためだから」


 あ、僕そんなに心配されてんすか。




 アリサとゆっくり4時間くらい歩いて、以前にダンドと一緒に来たソールの街に到着した。

 さすがに魔石400個を運ぶのはしんどいな。


 とまあ、まずはこれらを売りに出すために生活必需品などを多く取り揃えている小物屋に向かう。


 この世界では冒険職が不人気だから、当然ギルドのような冒険者を統率する組織は存在しない。


 魔石も別に特別視されるわけでもなく、普通の店に売っているのだ。


「こんにちはー」

「いらっしゃいませー! あら前に来た子ですか?」

「あ、また魔石を売りに来ました」


 受付の若い女の人が、呼びかけに答えてくれる。


 かなりのべっぴんさんで、胸もボンッって感じ。

 前回に引き続き来てしまいました。


「まあ、幼いのに偉いのね。今日は子供たちだけ?」

「そ、そうですね」


 僕の身長に合わせて、かがんで前かがみになるのはやめてほしい。

 丁度谷間のあたりが僕の目線に合ってしまうから。


 ギィィ。


「痛い痛い痛い! なにすんのアリサ⁉」

「にいさん、どこみてるの」

「べ、べつに、ど、どこもみてないが⁉」

「はんせい、なし、か」

「なにその冷え切った眼は‼」

「にいさん。きょうは、ばんごはんなしね」

「ひどいな⁉」


 しょうがないんだよ。


 あの女性の胸についているものは、男の視線を吸い寄せる効果があるんだよ。

 魔法なんだよ。


「ふふっ。ほんとに仲の良い兄妹ですね」


 いや、どこを見て言ってるんですか。

 いま妹に暴力を振られたんですが! 明らかに向こうは僕のこと嫌いなんですけど⁉(涙目)


「それで今日も魔石を売りに来たとのことですが?」

「ああ、そうでした」


 僕はバッグを取り出し、口を逆さにして中に入っているものを全て取り出す。


 すると受付口のところにある机の上にバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ………………


「どれだけあるんですか⁉」

「あと半分くらいです」


 それからやく1分くらいかけて全ての魔石が出され、バッグが空になった。すっきり。


「……これだけの魔石、どうやって……?」

「最近ダンジョンに潜ってたんですよ。1か月くらい」

「ダンジョンに⁉」


 そこで女の店員の人は今日一番の驚きを見せる。


「ぶ、無事に帰ってこれたんですか?」

「無事に帰ってきてなかったら、今ここにいる僕はなんなんですか」

「そ、そうですよね」


 ようやく落ち着きを取り戻し始めた店員さんは、魔石の数を数え始める。


「これは、すぐには終わりませんね……。すみません、少し待っていただけますか?」

「もちろん、大丈夫です」


 アリサは店内にある見たことないような品を見て楽しんでいるし、僕としても待つのはやぶさかではない。

 アリサが楽しんでる姿を見れるだけでご飯3杯はいける。


「あ、そうだ」


 そこで僕は思い出したように、オレンジ色の魔石を机の上に乗せる。


「この魔石なんですが、他のものとはどうも違うみたいなんですが」

「あれ、レベル2の魔石も手に入れたんですか?」

「レベル2?」


 なんだろう。レベル2の魔石って。


「魔石にもレベルがあるんですよ。強い魔物からは、それに応じた魔石が手に入ります。レベル2の魔石というと、大体地下5階くらいの魔物から出るんじゃなかったかな」

「レベル2、ということはそれ以上のレベルのものもあるんですか?」

「そうね。たしか確認されたことがあるのはレベル5まで、ダンジョンの30階相当の魔物ね。一度地上に現れた龍を討伐した時に、たしかあったらしいわ」


 なんだそれ、そんなことが昔にあったのか。


 たしかダンジョン自体は20階辺りまでしか攻略されていなかったとダンドが言っていたが、どうやらそれ以上を攻略する力は人間にはあったらしい。


「え、でもということは、ダンジョンの30階からは龍が出てくるんですか」

「さすがにそこまでは分からないわ。誰も行ったことがないからね。単純計算で、ダンジョンの30階前後だというだけ」

「なるほど」


 龍を倒すのにはどれくらいレベルを上げたらいいんだろう。

 一人で倒すのには……途方もないな。


「あれ、でも僕はこの魔石をダンジョンの1階で手に入れましたけど」

「まあ、たまにあるらしいから、そんなもんじゃない?」


 そして、肝心なところは「そんなもん」で済んでしまうのか!

 うう、なんとも歯がゆい!


「ちなみに、その魔石の方が高く売れたりとかは……」

「? ああ、それなら安心して。この魔石なら」

「なら?」

「銅貨50枚でもらうから」

「50枚かい!」


 あんまり多くなかった! 銀貨一枚くらいだと思ったら、その半分しかなかった!


「まあ、他の魔石よりも長く保つってくらいだからね。あんまりお値段のほどは上がらないのよ」

「そ、そうですか……」


 なんかショックだけど、まあしょうがないか。


 ポジティブに考えれば、強い魔物を倒せるようになればそれだけ安定して収入が増えるということだ。


 税の方はなんとかなるかもしれない。


「色々と教えてくださってありがとうございます」

「あーら、ほんとに礼儀正しい子ね~。じゃあ、ちょっと待っててね~」


 店員さんは愛想よくウィンクをしながら大量の魔石を持って裏の方に行ってしまった。


 ああ、やっぱりきれいな人だな……。


「じーっ」

「なんだ、アリサ?」

「べつにっ」


 それから、何故か不機嫌になってしまったアリサがおんぶをしろというので、帰りはアリサを背中に背負いながらゆっくりと帰った。


 すやすやと眠っているアリサの寝顔がやっぱり一番かわいかった。

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