第18話 かわいそうな騎士

「あの、僕からも質問いいですか?」

「なによ」


 質問をすると言っただけですごく睨まれた。

 なんで。


「お姫様が、それもこの国の王女様が、いったいどうしてこんなところにいらっしゃるんですか?」

「……ああ」


 普通の王女様が来るような場所ではない。


 まあそのおかげでこうやってダンジョンが開かれてアリサと会うことが出来たんだけど。


 というか、ダンジョンの入り口を破壊するとか、普通に考えて人間業じゃない。


「そういえばそうだったわ。まだ話してなかったわね」


 と言って、彼女はおもむろに識書しきしょ神託石しんたくせきを取り出した。


 識書の方は自分の能力値が書かれているもの。神託石の方は加護のレベルやスキルが書かれているものだ。


 これは同じように加護を受けた者にしか見ることが出来ないから、いまお姫様が取り出した二つはアリサの目には見えていなかった。

 アリサは不思議そうに姫様の手の動きをとらえているだけだ。


「……やっぱ見えてるのね」

「はい、まあ」


 僕の返事を聞いて、姫の方は嘆息し、警護の男は目を見張っていた。


「その歳で加護を授かったって……ほんとなの?」


 どうやら信じ切れない様子で、そんなことを聞いてきた。


「まあ、そうですね。正確には半年ほど前ですが」

「……はぁ」


 淡々と答える僕。

 なんだか姫様が悔しそうに見えたのは気のせいだろうか?


「姫様、負けてしまいましたね」

「うっさい、言わんでいい」


 膨れている姫に、頭が付いていけない僕とアリサ。


 その様子に気が付いた警護の男が補足をしてくれた。


「姫様は2年前に、13歳で加護を授かりましてね。当時は一番早いと言われていて姫様もそれを誇りにしていらっしゃいましたから」

「誇りにはしてないわよ!」

「自分より若くして加護を授かったものがいるという事実を認めたくないんですよ」

「ああ、なるほど」

「そんなこと思ってないから! あんたも納得してんじゃないわよ!」


 起こった姫様に警護の男は殴られていた。


 僕とはまだそこまで親しくないからか、僕の分まであの人が殴られているように見えた。

 ありがとうございます。


「いや、でも本当に悔しさとかはないのよ。ただ気になっただけで」

「気になった?」


 別に早いも遅いもそんなに関係ないし重要なことではないのだろうか。


 いやもちろん早い方がその分成長できるとは思うが、現段階ではそんなに重要視するべきではないことのように思える。


 姫様の説明を待っていると、彼女は丁寧に説明をしてくれた。


「加護を手に入れるにはね、意志の強さが大事なのよ」

「意志の強さ?」

「そう、意志の強さ」


 すると姫様は警護の男に紙と筆を持ってくるように命令する。

 何か書くことがあるらしい。


 警護の男が羊皮紙と万年筆に似たペンを持ってくると、姫様はその紙に絵を描き始めた。


 下の方には人型の絵が何体もあり、上の方には円がたくさん書かれていた。


 円の中には『加護』と書かれており、そこから下の人型のものに矢印が引っ張られている。


「これは?」

「加護の仕組みよ。まあ、言い伝えに過ぎないんだけどね」


 そこから、姫様は一つ一つ図を交えながら、分かりやすく解説をしてくれた。


 なんでも、加護というものは天界みたいなところにいる神様のような存在らしい。


 そして、僕らの強い意志、あるいは願いに応じて、加護の皆さんが天界から降りてそれぞれの人間に力を貸してくれる。


 そんなふうに王族の間では言い伝えられていると、リナ姫は教えてくれた。


「だから、加護を授かるのが早いということは、よほど何か強い決心をしたり意志を固めないといけないのよ。それも一瞬のものではなくて、ずっと何かをしていくといったような」

「ほうほう」

「それで、あなたの場合は見てる限りじゃ……」

「まあ多分思ってる通りじゃないですかね」


 僕と姫様は二人してアリサのことを見る。


「?」


 アリサはキョトンとした顔で呆けていた。

 なんだこの小動物、かわいすぎるだろ。


「……はあ、なんかこんなやつに負けたと思うと、腹も立たないわね……」

「さすがの姫様でも、こんな相手ではやりがいはありませんか?」

「そうね……」

「でしたら王国の方に戻りましょう。こんなところに長居する意味はありませんから」


 警護の男が姫に帰りを急かす。


 どうやらこの男はもっとのんびりとした生活をしたいのだと顔に書いてある。


「……さっきあんた、ダンジョンに住んで修行するのもいいですね、みたいなことを言ってなかった?」

「まさかご冗談を。というか姫様がこれ以上強くなられてどうするんですかとにかく帰りましょう」


 早口でまくし立てる男。


 いや、でもたしかにさっき、ダンジョンに潜ってみてはという提案をしていたぞ。

 自分も付き合わされると分かった瞬間、手のひらを返したな。


「まあ、そうね。こんなところに長居する意味はないわね」

「ほんとですか! では帰りの手配をいたしますので」

「いったん王国の方に戻って、お父様に許可をいただかなくちゃ」

「許可? 何の許可ですか?」

「長い間家を留守にする許可よ」


 そこでウキウキしていた警護の男のテンションがまた急降下する。


「えと、ここに長居する意味はないとさっきおっしゃっていたような……」

「そりゃ、今はこんなところに長居してもしょうがないでしょ。色々と準備をしてから戻ってくるの」

「……え、えーと、では私はそろそろ実家の方にも顔を出したいと思っていましたから、このタイミングでお暇をいただきますかね……」

「じゃあ家族もここに連れてきなさい」

「何の冗談ですか⁉」


 次々と退路を断たれていく男。


 わがままに姫が育つと周りが大変と聞くけど、本当にそうなんだなあ。

 まあ他人事だけど。


「さすがに家族にこんなところで暮らさせるわけにも……」

「大丈夫よ。1階なら大したことないし、あなた以外にも何人か警護の者を守らせるから」


 おお、それはありがたい話だ。ぜひそうしてもらいたい。


「では、他に警護の者がいるなら私は必要ありませn」

「つべこべ言わない。覚悟を決めなさい、騎士なんだから」


 どうやら、職権乱用によって警護の男のダンジョン行きが決定したらしい。


 まあダンジョン内がにぎやかな方がアリサも安心できるだろうし、僕としても否定する必要性がない。


「姫様はこちらのダンジョンから入られるのでしょうか?」

「もちろんよ。あなたがここで1か月頑張ってくれたおかげでそれなりに物資も整ってるし。さすがにいくら私と言っても一からこんな準備はやりたくないわ」

「ありがとうございます。僕としてもそうしてもらえるとありがたいです」


 なんならこのダンジョン内を色々と改良してもらえるとありがたいな。


 植林とか、整地とか。


「アリサも、次からダンジョンについてくる、でいいか?」

「うん! わたしもにいさんといっしょにいたい!」

「おーよしよし! かわいいなあアリサは」

「……にいさん、それしかいってないよ?」


 だって仕方ないよね。

 かわいすぎるんだもん。


 というわけで、僕らも一度村に戻って手に入れた魔石を売ってお金を作り、それからもう一度しっかり準備をしてからダンジョンに潜ることが決まった。


 次の日、ダンジョンは閉まってしまったが、また姫様が来た時にこじ開けてくれるだろう。


 次回から、本格的なダンジョン探索だ!

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