第17話 ダンジョンの入り口が

 ダンジョンに潜ってもう1か月がたちそうになり、拠点も完成したのでそろそろダンジョンの入り口が開いてくれたらいいんだけどなーと、ご都合主義に身を任せようとしていたころ。


 ダンジョンの入り口が――開いた。


 開いた。ああ、この表現には誤解される部分がいくつかあるな。


 正確には、蹴破られたのだった。





 朝、といってももう既に1か月以上も陽の光を浴びていないので朝という感覚は体の中にしかなかったが、眠っていると、目の奥に光がちらついた気がした。


 視界がまだぼやける中、光が差してきたほう――天井を見ると、石と石との間から光が。


 ん、光?


「ダンジョンが開いた……のか?」


 ちら、ちらと光が差し込んでくるので、確認をするために家を出る。


 すると、すぐに分かった。


「光が、光がある‼」


 天から日光が降り注いできているのが分かった。あれは太陽という自然がなす独特の光だ。

 人工物ではない。


 ――とうとうアリサに会える。そう思った。


 ようやく、1か月ぶりにアリサに会えるんだと。


 急いで荷物をまとめて、つい最近上がったばかりの【運搬】スキルのおかげで広くなったバッグにこれでもかと魔石を詰める。

 できるだけたくさん集めて、お金にしたい。


 貧乏っちいことだが大事なことだと自分に言い聞かせ、アリサに会いたいという逸る気持ちを抑え、せっせかと集めていたとき。


「お前がフィルか」


 後ろに足音が聞こえたかと思えば、次の瞬間目の前に青髪の女性が立っていた。


 低く、威厳のある声。

 腰には見たこともない金属で飾られた剣を携えており、全身は軽そうな鎧が急所を守っている。


 一目で、身分の高い人間だと分かった。


 そして斜め後ろには屈強そうな男。

 少し気が抜けているようだったが、なぜだか隙という隙が存在しない。


 多分警護のものだろうと思った。


「おい、答えろ」


 返事を催促する声に少し怯えながらも観察を続ける。

 相手が高貴な身分だということは分かったが、下手に出れば何かの手違いで殺されるかもしれない。

 そう思った。


 絶対に下手な真似はできない――ってあれはアリサ?


「アリサぁぁぁっぁぁぁあああああああ‼‼」

「に、にいさん⁉」


 警護の男の後ろからひょこっと出てきたのは、アリサ。

 一瞬見えた金色の髪で、すぐに自分の妹だと分かった。


 アリサの姿を見つけて、すぐに飛び出す。


 なんか目の前の女性がびっくりして目の玉を飛び出しそうにしてたけど、まあいいや。


「アリサァァァァァああああ!」

「ちょ、ちょっとにいさんっ!」


 飛びついて抱きつこうとして、アリサに拒否される。

 か、哀しい……。


「わ、わたしよりもまず……」

「ん?」


 アリサの視線の方向に目を向けると、そこにはお冠になっている女性、というか女の子が一人。


「わ、私の話を無視するとはいい度胸ね……」


 激怒しているらしい女の子を見て、警護の男の口角が上がっているのが見えた。


 どうやら、ご主人が怒っているのがたいそう面白いらしい。


「? あの、どちら様で?」

「ちょっ、にいさん⁉」


 なんだ、アリサとの感動の再会を邪魔するのか。

 こちとら早くアリサに構ってやりたい、否、構ってもらいたいところなんだが。


「いいわ、教えてあげるわよ」


 すると女の子は剣を鞘から抜いて、胸の前に持ってきた。


「私の名前はリナ・アルカディア。アルカディア王国の第2王女よ‼」

「へー。あ、僕はフィルです」


 そうか、第2王女か。どおりでさようなかっこいい剣を持ってるわけで。


「え? ちょっ、反応薄くない⁉」

「あ、すみません。リアクション芸はあまり得意じゃないもので」


 どうやらもっといい反応を期待していたらしい。

 だからといって、いきなり王女が出てきたと言われてもなー。本物っぽいけど、どれだけ凄いかとか分からんからな。


 というか、それより。


「アリサぁぁぁぁああああ」

「本当にお姫様に興味ないんですね」


 護衛の男は淡々と言って、その言葉がさらにリナという女の子を怒らせていく。


 アリサは戸惑っていて僕の頬ずりにも無心で受け止めてくれている。

 ああーぷにぷにで気持ちいい……。


 あれ、なんかアリサの様子が?


「にいさん、うしろうしろ……!」

「ん? うしろ?」


 そろりそろりと後ろに目を向けると、そこにはプルプルと震えているお姫様が。


 あれ、なんか間違えた?


「ぜったい、ゆるさないっ‼ 殺すッ‼」


 あの、姫様がそんな汚い言葉を使っていいんですかね⁉

 というか護衛の男もやれやれという顔をしてるんだけど。


 アリサ、震えなくていいからね。

 ちょっとかわいいけど。




「で、あんたなんでこんなところにいるのよ」


 僕とアリサ、そしてお姫様と護衛の男はダンジョンの中の僕の家で腰を落ち着けていた。


 アリサは姫の前で緊張しており、護衛の男は興味深そうに家や解体場などを観察して回っている。


 小さいフォアウルフの毛皮カーペットの上に姫、そしてこちら側に僕とアリサがそれぞれ正座して座っている。


「なんで、と言われても妹から聞いてないでしょうか?」


 ダンジョンに入ってきたときにはアリサも付き添っていた。

 ある程度の話は聞いているはずだ。


「ダンジョンに住むって聞いたけど」

「そうです」

「……正気?」


 どうやら僕は頭がおかしくなったのではないかと疑われているらしい。


「僕も初めてダンジョンに潜りましたけど、思ってより悪くないですよ」


 周りを見回しながらそう伝える。

 今こうやって話しているダンジョンの周りにはモンスターがおらず、僕たちは落ち着いて話をすることが出来ている。


 たしかに最初の方はゴブリンの声がうるさかったり、ダンジョンということでおちおちと寝ても居られなかったが、環境も良くなったし今はずいぶんと慣れてしまった。


「なんなら姫様も一緒に住みますか?」

「たしかに、リナ様には地上よりもこっちの方が似合ってますよ」

「あぁん?」

「グフ……ッ」


 ちょっと口を挟んだ警護の男は、姫のみぞおちへのパンチに腹を抱えていた。


 たしかに今の威力はさすがにやばい。


「でも……たしかに悪くないわね」

「ほんとに言ってます? 僕やアリサのような貧しい家の出のものならともかく、お姫様には窮屈すぎると思いますが」

「あたし、宮殿みたいなキラキラしたとこ、好きじゃないのよ」

「へー」


 それは意外な話だった。

 お金持ちといえば、こういった田舎に来るのでも嫌だろうし、ましてや魔物の巣窟にわざわざ住もうとしなくても楽に生活できるはずだ。


「というか、なんであんたはこんなところに住もうと思ってるのよ」


 自分の話をするのがあまり好きではないのか、こちらに話を振ってきた。


「理由ですか? まあそうですね、まずは地上に家を建てるとお金がかかるという点でしょうか」

「それは、まあ……そうね」


 どうやら税金で暮らしている側の人間とすれば、複雑な心境らしい。

 ちらっと自分の付けている剣を見ながら俯く。


 別に責めてるつもりはないけど、特に言い直すことでもないだろう。


「あとは、敷地ですかね。ちょっと上じゃ狭いかなと」

「狭い?」


 どういうことか分からなかったらしく聞き返してくる。


「狭いですね。僕の可愛い妹であるところのアリサには、地上では狭すぎますね」

「……はい?」

「そもそも地上にある資材じゃ足りないかもですね」

「足りない……?」


 護衛の男が興味深そうに僕の話を聞いてくる一方で、リナ姫は混乱しているようだった。


 僕も説明の自信はないが、頑張って説明してみよう。


「ほら、さすがに地上だと国をまたいでの家とかは作れませんし、最大限に大きく広げても国の領土分までしか広げられないってことじゃないですか」

「ま、まあ? そうなる……けど?

「でも地下ダンジョンなら国とかもありませんし、大きさにも限界がないって言うじゃないですか」

「そ、そうだけ……ど?」


 いまだにピンと来てないみたいだ。やっぱり僕って説明下手なんだよな~。


 あと、なんかアリサが恥ずかしそうなんだけどなんで?

 なんか「同じ家族だと思わないでください」みたいな、そんな顔をしてるんだけど。


「じゃあ、もしかして君が言いたいのは、国の領土よりも大きな家を作りたいってことなのかな?」

「あ、そうです!」


 どうやら護衛の男の人は自分の説明で分かってくれたみたいだ。

 頭のいい人は助かるなあ。


「姫、聞きましたか? これは予想以上の大物ですね」

「ほ、ほんとに正気なの……?」

「あの既に正気じゃないも同然の姫が、正気を疑うと言うんですからとんでもないことですよグフゥッ!」

「あんたは少し黙ってなさい」


 あちらもあちらで楽しそうだな。


 こちらもこちらでさっきからアリサに小突かれまくって、小さな声で抗議の声をあげられてるけど。


 そこで、何度も殴られて腹を警護の男が、何か妙案を思い付いたようで姫に提案する。


「姫様。これは面白くないですか? ダンジョンに潜ったらいくらでも鍛えられますよ」

「……!」


 男の提案に姫様は稲妻に打たれたように振り向く。


「もう既に地上に敵なし……。もう残るのは地下しかないのではないですか?」

「た、たしかに……」


 こちらから見ると、男が姫様をうまく言いくるめているように見えるが、男の方は何が目的なんだろう。


「王の方には私から、姫が1年ばかり留守にするとお伝えしておきますから」


 ああ、多分姫に手を焼いているから地下の方にこもっててほしいんだな。

 地上でゆっくりするつもりみたいだ。


 だが、姫様の方はというと。


「……何を言ってるの? 私が来るならお前も一緒に来るに決まってるじゃない」

「え」


 どうやら目論見は失敗したらしい。

 楽をしようとするとこうなるんだな。


 まあ、それでも。


 こちらとしても、アリサ以外にダンジョンに潜ってくれる人がいるというのはありがたい話である。


 どうにも僕一人だけではアリサを四六時中見守ってあげることは出来なさそうだから。


「姫様。ダンジョンではいくらでも強くなれますよ。無限にある階層には、無限に強くなる魔物がいるわけですから」

「そ、そうね、で、でもお父様にはどうお伝えしたら」

「ですから姫様、私の方から」

「そうですね、姫様。それならば遠征という形にしたらいいのではないですか? 警護のものを一人連れて行くと言えば、王様の方も納得されるのでは」

「それは、一考の余地ありね!」


 ああ、この姫様めちゃくちゃちょろい。

 警護の男には睨まれているけど。


 まあたぶん、それだけ強くなりたいという気持ちが純粋なんだろうなと思う。

 強くなれるためにはなんでもする、みたいな。


 ある意味では僕と似た者同士だ。

 僕もアリサの為なら何でもするし。


 というわけで、ダンジョン探索に頼もしい仲間が二名加わりそうだ。(予定)




 最後にステータスの確認


【加護 坂本龍馬】 レベル 20→22


【スキル】――【型破り】レベル 1 

       【運搬】 レベル 2


【フィル】

【能力値】

 ・体力 70 →74

 ・力  78 →83

 ・防御 31 →34

 ・魔力 26 →27

 ・敏捷 68 →70

 ・運  56 →59

 ・賢さ 60 →64


【魔法】


 今日のメモ――レベルもずいぶん上がりにくくなってきた。

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