第13話 ゴブリン狩り

「薪が足りねえ、薪が足りねえ……」


 ダンジョン2日目にしてもう既に体に限界が訪れていた。


 まずは、資源の枯渇。


 薪が足りないのだ。木が見つからず、唯一入手できる木の枝はゴブリンが持っているもの。


 薪と言っても、別に拠点にある火を焚くためではない。

 そちらの方は魔石から火を起こせばやっていける。


 こうしてゴブリン狩りなどで探索をするときに持ち歩く火、つまり松明代わりに使うものだ。

 魔石による発火では魔石自体が高温になってしまうので、持ち歩くのに向いていない。

 石をうまく加工して、先端部分に魔石を乗せられるようなものがあればこれも解決するんだけどな。


 だからここ最近はゴブリンを何とか倒しては、木の枝を少しずつ貯めるという地味な仕事ばかりしている。


 もうゴブリンスレイヤーを名乗りたいくらいだ。


 そういえば、いまだにダンジョンの1階ではゴブリン以外に見たことがない。といってもまだ拠点付近しかうろついていないけど。

 狭いと言われているダンジョン1階の全容すら分かっていない。


 ただ、ところどころに草が生えていたり、明らかに周りの石とは違う鉱石があったりした。

 意外とダンジョンと言っても岩一色の殺風景ではない。


 ただ、今はそれを満喫できることはできなかった。


 ――体力の限界が来ていたからだ。


 昨日の夜、つまりダンジョンに潜って1日目の夜、全く寝ることが出来なかった。

 理由はいくつかある。


 まずは横になることが出来ないことだ。狭すぎて横になれない。

 あぐらの形で寝るしかなかった。これは慣れれば寝ることもできるのだろうが、あいにくとそんな忍者みたいな習性は持ち歩いていない。


 そして2つ目に、クッションが無いことだ。床は石で、そこに直接寝ていた。

 というのも、フォアウルフの毛皮を持っていこうかとも考えたが荷物の関係からどうしても持ってくることが出来なかった。

 やはり薪を持ってこようとすると、毛皮のような場所を取ってしまうものは持ってこれなかった。

 ダンジョンの1階にフォアウルフがいると思っていたから、そこで回収すればよいと考えていたことも仇になった。


 そして最後に、ゴブリンの声がうるさかったのだ。


 どうやら人の匂いを嗅ぎつけてくるらしく、奴らは僕の家の周りで夜中にずっとうろうろしていた。それでも知性は低いから岩で囲まれた建物の中に人間がいることには気が付かなかったが。


 だが、あいつらは同じ種族同士で何かコミュニケーションらしきものを取っていた。

 それが、ひどくうるさくて寝れなかったのだ。


 そもそも魔物が近くにいるのに寝るという行為自体も緊張して寝れなかった原因の一つではあるのだけど。


 という理由で昨日は寝れなかったので、さすがに今日は寝たい。


 そういうわけで、今日の目的は横になれるようになるまで家の敷地を広げることだ。

 とても情けない目的だと思うが、マジでどうにかしないといけない。


 だが、そんな苦難だらけの僕に一つだけ追い風が吹いた。


 新しいスキル、【運搬】だ。


 このスキルの使い道はその名の通り物を運ぶときに使うもの。

 なんと、バッグの容量が増えるのだ。


 例えば、先ほど手に入れた僕の頭くらいの大きさの岩を、自分の持っている小さいバッグに入れようとする。


 しかしバッグは安物なので、そこまで大きくない。そのままでは当然入らない。


 だが、【運搬】のスキルを手に入れてからは勝手が違った。


 岩をバッグの入り口に通そうとすると、自然とバッグが大きくなるのだ。

 サイズにしておよそ2倍くらい。


 すると岩が入るようになって、複数の岩をいっぺんに運ぶことが出来るのだ。


 しかも、バッグのサイズは僕が手を引き抜くと元に戻るため、持ち運びで苦労するのはその重さだけ。


「これ、まじでありがてえ」


 ありがたすぎる。ほんとに感謝。まじ感謝。


 それにしても、坂本龍馬のスキルで【運搬】というのはどうなんだろう。


 イメージとしては、当たらずとも遠からずって感じだな。


 亀山社中、のちの海援隊という貿易会社を作っているという点ではたしかに運搬というのも分からなくはないが、それで言ったらもっとふさわしい偉人はたくさんいるような気がするけどな。


 もしかしたら、別の偉人でも同じスキルを手にすることはできるのかもしれないけど。

 それ以上は推測の域を出ないので、考えるのはやめた。


「ありがたいんだから、あれこれ考えずに使ってやらんとな」


 何はともあれ、これで家をしっかり広げられるはずだ。


 あとは火の問題。それさえ解決できれば、もっと遠くの場所も探検できるんだけどなあ。




 結果、やはり木を見つけることはできなかったので、大人しくゴブリン狩りをした。

 今日だけで20匹は狩ったはずだ。

 さすがに地上より魔物の数は多い。


 それから、拠点周りのゴブリンをせん滅して安全を確保してから、拠点の拡張を始めた。


 なんとか一畳は確保しないと。


 拾ってきた木の枝のうち半分を、暖炉みたいになっている石で囲まれた場所に放り込む。

 上に煙が逃げていき、そこから空気が入ってくるのでなんとか火をつないでいる。


 まあ、といってももうそれ以上頑張る必要もないのだが。


 というのも、先ほど倒したゴブリンを回収してきたのだ。


 こいつらも魔物。ならば当然。


 ――魔石が入っているはずだ。


 確認をしていくために、その緑色の体を解体していく。


 ゴブリンの肉も干せば生臭さが消えて食べられるらしいので、綺麗に切り分けていく。


「思ったよりきれいな体してんな、こいつら」


 体を掻っ捌いて、肉と魔石を取り出す。

 体内を覗いてみても、あまり人間らしい構造は見つからず、内臓などもなくて肉が詰まっているだけだった。


 たしかに、フォアウルフの方もあまり内臓という内臓は見つからなかったような気がする。

 一応心臓くらいはあったかな。


 まあ多分、あれこれと内臓を作り出す必要もなかったんだろうな。魔石が体内に循環していればそれだけで生きていられるのだから。


 じゃあどうやって魔力を人間の体などから取り出しているか、についてはよく分からないけど。


「よしよし、これで家の火には困らないな」


 魔石は、その名の通り魔力が溜まっている石だ。


 魔力、というものは不思議なもので物理法則を越えて発動する。


 例えば。


「燃えろ」


 火をイメージしながら、魔石に念ずる。

 するとまもなく魔石が紫と赤色の混ざった色に変わり、続いて深紅に染まっていく。


 そして――発火した。


「何度見てもこれは、元の世界じゃ考えられないな」


 最初に見たときは驚きすぎて腰を抜かしそうになった。

 常識が覆されたのだ。


 発火した魔石を持つ手がやけどをする前に、すぐに暖炉になっているところへ放り込む。

 これで家の火の問題は解決だ。


「でも、本当にどういう原理なのだろう」


 魔力、という未知のものに原理を考えてもしょうがない気がするが、ゴブリンを解体している間は暇なので頭を巡らせる。


 僕の今の一番の仮説は、魔力エネルギーみたいなものがあるのではないかという考え方だ。


 熱エネルギー、運動エネルギー、化学エネルギー、そういったエネルギーの一つに魔力エネルギーというのが存在する。


 そして、これらは前世の世界と同様に交換可能で、そういう理由で魔力から今のように炎を発生させたり、モノを動かしたりできるのではないかという理論だ。

 もちろん、前世でのエネルギー交換には、きちんと分子の動きや化学反応など理論的なものによるちゃんとして裏付けがあって、僕が考えるようなチャチな理論では不足するが。


 まあそれでも、魔力エネルギーというものがどこか別の次元からエネルギーを引っ張ってきているのではないかと考えるくらいしか、まっとうな仮説も立たない。


「まあ、どっちにしても魔法に理論をつけるなんて、子供の夢を壊すようなものだけど」


 きっとこういうものは蛇足なのだろう。


 またきちんと考える必要があるときに考えればよい。

 今はありがたく魔法の力を使わせてもらおうじゃないか。


 そうやっているうちに解体が済んだ。


 合計で20個。


 バッグに入れていてもしょうがないので、家を変形させて魔石を入れるところを作っておく。


 これで、地上に出たときに余っていればお金にもなって一石二鳥だ。


 たしか魔石の値段は、フォアウルフくらいのもので一個銅貨4枚だったから、ゴブリンも同じくらいだろう。


 銅貨4枚ということは、400円くらい。


 一か月で100個集めれば、大体4万円くらいになる。


「これは、ダンジョンを出たときが楽しみだな」


 魔石はダンジョン内でも便利だし、出てもお金になる。


 ゴブリンを倒していけば、なんとかしのげそうだ。


 明日から、積極的にゴブリンを狩っていこう。


 そう決意して、石造の家に横になった。



 最後にステータスの確認。


【加護 坂本龍馬】 レベル 10→11


【スキル】――【型破り】レベル 1

       【運搬】 レベル 1


【フィル】

【能力値】

 ・体力 47 →50

 ・力  54 →57

 ・防御 21 →22

 ・魔力 16 →17

 ・敏捷 47 →49

 ・運  34 →37

 ・賢さ 30 →34


【魔法】


 今日のメモ――さすがに徹夜していたので、ぐっすり眠れました。


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