第12話 ダンジョン1階

 丸い穴が開いていて、そこから階段が下に伸びている。

 階段の1段1段はあまり厚くなく、なだらかな階段だった。


 それが直線にずっと続いていて、下がれば下がるほど差し込む光が消えていく。


 慎重に下りていくと、やがて底の方が見えた。

 足場がかすかに広がっているのが見える。


 もうそこまで来ると明かりもほとんどなく、ほんのりと地上から光が入ってくるだけだった。


「なにも見えないな……」


 明かりをもってこればよかったと早くも後悔する。ダンジョン内で火を起こせばよいと考えていたが、思ったよりも視界が悪かった。

 かすかに光が散乱しているのは、階段から半径2メートルほど。


 それも、もうすぐ入り口が閉まるから消えてしまう。


 ゆっくりと周りにモンスターがいないことを気配から察知して、階段を下りきる。


 冬なのに生温かい風が顔に当たるので、周りを見回してみる。


「おお……」


 そこは、空洞だった。

 多分大きさにするとちょっと広めの教室くらい。

 高さはもう少しあり、上からはたまに砂や石がパラパラと落ちてくる。


「ここが、ダンジョンか」


 想定していたよりも暗く、そして広かった。


 湿気はあまり気にならないが、冬にしては地上よりも幾分か温かい。

 住むのにはちょうどよいくらいだった。といっても、夏になればもっと暑くなってしまうのだろうが。


「っていっけね、早くなんとかしないと」


 まずは明かりの問題。

 このままではダンジョンの入り口も閉まって、本当に真っ暗になってしまう。


 森で拾っておいた松ぼっくりや小枝を広げ、そして薪をいくつか脇に用意しておく。


「石は、っと」


 石はダンジョンに無限にある。目に見える範囲にあるげんこつくらいの大きさの二つ持ってくる。


「いけるかな」


 下に松ぼっくりと小枝を敷いて、よっ、よっ、とリズミカルに石と石をぶつける。


 すると火種が生まれ、下にあった松ぼっくりに引火する。


「よしよし」


 少し練習しただけで不安だったが、上手くいった。

 しっかり準備しておいた甲斐があったな。


 そして、それらを元手に火を大きくする。


 薪をジェンガ状に組み立て、火元に近づける。

 空気の通り道を確保しながらやらねば、すぐに鎮火してしまうのだ。


「よし、あとは」


 火が薪にまで燃え広がったのを確認したら、あとはここを拠点にするために場所を確保する。


 確保する、と言ってもそこらへんの石をもってきて、ある程度のスペースを仕切るだけだが。


「まあ、こんなもんか」


 火を中心に四角形の枠を作る。大体大きさにして畳3枚分くらい。

 これで、仮の仮の仮の仮の拠点くらいにはなった。


 ちなみに、拠点を入り口のすぐそばにしたのは、ダンジョンの入り口が開いた時にすぐに分かるようにするためだ。

 ここなら、光が入ってきたときに開いているのだとすぐにわかる。


 そして幸いなことに、魔物はまだ姿を見せない。

 火をつけているから目立ちそうなものだが、なんとかなっている。


 というわけで、あまり動いて魔物に見つかるのも嫌なので、ここの空洞の中にある岩を片っ端から運ぶ。

 時には剥がれそうな壁から頂戴してきたが、それで何か変わるということもなかった。


 よかった、壁を剥いたら魔物が出てくるのではないかと不安になってたところだ。


「でも、さすがに岩が足りないな……」


 火をつけたところは上だけ空けて広く岩で囲んだので目立たないようにはなったが、これでは家を作るのは難しい。


 でもさすがに仮でも家、というか囲みを作っておかなければ、夜通し魔物と戦うことになってしまう。


 多分1階の魔物に後れを取ることはないと思うが、体力切れが起こるとどうなるか分からない。


 また、持ってきた薪の量にも限界がある。火が無ければダンジョンを探索することは難しい。


 岩の収集、可燃物の採取、家の建設。やることはたくさんある。


「そろそろ魔物との戦闘も覚悟しないとな」


 どうやらこの空洞だけでは限界がありそうだ。




「グフ、グエエェェ」

「ちぃっ!」


 緑色の顔。耳は多少長く、目は赤色に光っている。


 ゴブリンだ。


 空洞を抜けて人が3人分くらいしか通れないであろう道を、岩や木を求めて歩いていたら遭遇してすぐ戦闘になった。


 出くわした3匹のゴブリンはどいつも木の枝を武器にして持っていた。

 多分どこかに落ちているのだろう。


「ギャオ、ギャガギャ」

「このッ!」


 僕よりも小柄なゴブリンの下腹部めがけて蹴りを入れる。

 さすがにゴブリン相手に苦戦をするということはない。


「ギャアァァァ」


 3匹とも地に伏せる。

 その内、経験値が体の中から噴き出してくるので、死んだのが確認できる。


「経験値はうまいが、今は戦闘したくないな……」


 ゴブリンの死体が持っていた木の枝を回収して小さいバッグにしまう。

 これすらも貴重なものになっていた。


「あとは岩、と」


 あとは運ぶのも一苦労だ。

 もっと大きなバッグがないと、一人では大変すぎる。


「ああ、もう一人いればなあ」


 叶わないことをぼやく。

 猫の手も借りたい、いや、ゴブリンの手も借りたい、いや、ダンドの手も借りたい。


 結局、岩不足を解消するために、家の敷地の広さは初めに取っていたものの半分の半分くらいになった。

 多分この大きさじゃ、寝転がって睡眠、というわけにはいかないだろう。


「ま、それでも魔物に襲われるよりはましだな」


 所詮岩で作っているだけなので、拡張しようと思えばいつでもできる。


 今は、今日乗り切ることだけを考えないと。


 なんとか岩を運び終えることが出来たので、家が出来上がった。


 推定、半畳くらい。本当にほっそい家だなこりゃ。


 まだまだアリサが住むには、時間がかかるな。



 最後にステータスの確認。


【加護 坂本龍馬】 レベル 9→10


【スキル】――【型破り】レベル 1

       【運搬】 レベル 0 →1


【フィル】

【能力値】

 ・体力 45 →47

 ・力  52 →54

 ・防御 20 →21

 ・魔力 15 →16

 ・敏捷 45 →47

 ・運  30 →34

 ・賢さ 27 →30


【魔法】


 今日のメモ――新しいスキル【運搬】を覚えた!


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