第10話 決意

「やぁぁぁ!」

「ワオオオオオオン‼」


 二頭のフォアウルフを、素手で倒す。


 倒すと言っても気絶させているだけで、そこから生命源である魔力を失わせるために血を抜かなければならないけど。


 それでも、僕はこの1か月で大きな手ごたえを感じていた。


 大きく変わったのは、素手で倒せるようになったこと。鎌とは違いどこを攻撃しても倒せるので、今までよりはるかに楽に倒せるようになった。


 そしてそのおかげで、フォアウルフを群れで相手しても負けることはなくなった。


 まだ一度に3頭までしか戦えないとはいえ、これにより狩りの効率が大きく上昇。

 今までは倒すまでに、一匹ずつおびき寄せて群れから距離を遠ざけ、そこから倒すという戦法を取っていたので一体一体に時間がかかっていたが、今は見つけてそのままバトル、という形で戦えるようになった。。


 明らかに狩りの時間が短縮して楽になった。


 もう今では一日に10体以上のフォアウルフを倒せるようになり、死体が余り始めている。

 そんなに頻繁に町に売りに行くことも難しいので、いくらかは村人にタダであげてしまった。


 これは、村の生活がよくなればアリサが住みやすくなるだろうという打算的なものだったが、喜んでくれるのを見たらなんとなくやって良かったなと思った。

 特に魔石は喜ばれやすく、気前のいい人だと食べ物や薪と交換してくれる人もいて、こちらとしてはありがたい限りだった。


 またそういったレベル上げと同時に、ダンジョンに向けて準備は順調に進んでいた。


 準備の中で一番大事なのは、僕がいない間にアリサが生活に困らないようにすること。


 1週間やそこらで戻ってこれるならまだいいが、1か月、下手したら1年は戻ってこれない。


 僕がこの世界に来る前からアリサは一人で生きてきたと言うからには、多分生きるだけなら何とかなるだろうが、大変な思いはさせたくなかった。

 少し楽になった生活が逆戻りとなれば、精神的な負担も大きい。


 そこで出来ることと言えば、フォアウルフの死体を積むこと。


 肉は保存できないが魔石や皮は劣化することがあまりないので、貯めておける。


 それらをためておいて、困ったときに売りに出してお金にすれば非常事態は避けられるだろう。

 既にダンドには頼んでおいたから、アリサが言えば町に売りに行ってくれる手はずとなっている。


 それから、今回のことで村の人たちからのサポートも受けられるだろう。


 ――準備は整った。


「アリサ」

「なに?」


 だから夕食後、まだ料理に使った火が残っているタイミングでアリサと話をすることにした。


「明日、ダンジョンに入ろうと思う」


 無論、ダンジョンのことだ。


「そ、そう……」


 僕の話に、アリサが悲しげな顔をする。その表情を見て、僕の心にもどんよりとしたものが束になって襲い掛かってくる。


「わか、った……」


 上擦る声。それでも必死にこらえているのが分かった。


 罪悪感に苛まれる。こんな幼い子に悲しい思いをさせている、不安な思いをさせているということにどうしようもなく辛くなる。

 自分の決断は間違っているとさえ思ってしまう。


 そして、それ以上にアリサが我慢してそれを受け入れようとしていることに、辛くなる。


 本当は、怒って反論してくると思っていた。

 いつもみたいに駄々をこねて、それを振り払うようにしてダンジョンに向かうのだと。


 でも、アリサはそれをしない。聞き分けよく、あっさり送り出そうとしている。


 それは何故か。


 僕の負担に、ならないようにするためだ。


 そう、僕のため……。


「うえっ、うえぇえぇん‼」

「に、にいさん⁉」


 気づいたら僕の涙腺は崩壊していた。


 アリサは突然僕が泣き出したことに動揺して、介抱しに来る。


 だけど、僕はこのときばかりは10歳の子供らしく、ぼろぼろと涙が堰を切ったように溢れ出していた。


「ありさぁぁ、ありさぁぁぁあっ……!」

「ちょ、ちょっとにいさん!」


 鼻水を垂らして不格好にアリサに抱きつく。


 アリサの匂い、感触、ぬくもり、そういったものを少しでも自分の体に残すように。


 泣くのはいつぶりだろう、なんて急にそんなことを思った。


 思えば、前の世界ではあまり泣かなかった。

 さすがに子供の頃は泣いていただろうが、成人してからは少なくとも泣いた記憶はない。


 それはたぶん――大切なものが無かったからだろう。


 思い入れが無かった。何に対しても。


 そのことが今ははっきりと分かる。


 何故なら、今は、この世界は大切なものがここにあるからだ。


「にいちゃん、ぜったいかえってくるからなぁぁぁぁ‼」

「わかった、わかったから……」


 泣きじゃくる僕の背中を、ゆっくりとアリサがさすってくれる。

 これじゃあどちらが年上か分からない。


 無様な、情けない兄だ。


 でも、そのことが妙に誇らしかった。


 大切な妹のために、絶対に生きて帰ってこよう。



 最後にステータスの確認。


【加護 坂本龍馬】 レベル 6→9


【スキル】――【型破り】レベル 1


【フィル】

【能力値】

 ・体力 39 →45

 ・力  45 →52

 ・防御 17 →20

 ・魔力 12 →15

 ・敏捷 41 →45

 ・運  24 →30

 ・賢さ 20 →27


【魔法】


 今日のメモ――ダンジョンは今日の夕方から開いているらしい。なんとか明日の朝まで開いてるといいけど。

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