第9話 町へ

 狩りをし始めて一週間、フォアウルフの死体は10体ほどとなった。


 レベルも順調に上がっており、フォアウルフ1体ならもう遅れをとらない。

 そろそろ2頭狩りに挑戦したいところだが、万全を期してあと3、4レベルくらいは上げておくまでは我慢だ。


 まあ、それはともかくとして。


「おら、準備できたかフィルッ‼」

「すみません、お待たせしました」


 今日はフォアウルフの死体から取れた皮と魔石を町に売りに行くのだ。


 肉は料理したり他の村人に渡したりしてなくなってしまったが、皮と魔石はそれぞれ半分、つまり5つずつ余った。

 残りの魔石は料理に使うときの火に、皮はふかふかしていたので形を変えて敷き布団、掛け布団、さらにカーペットとして敷いておいた。


 おかげで今年の冬は越せそうだ。


「じゃあ行ってくるね。アリサはお留守番よろしく」

「……いってらっしゃい」


 アリサは不機嫌そうな表情を隠さない。


 というのも実は、町に行くと言ったらアリサが付いていくといって聞かなかったのだ。


「だから何回も言ってるだろ? 町までは遠いからアリサには厳しいって」


 この村から一番近くの村まではかなりの距離がある。直線的な距離は大したこともないのだが、湖やら山やら障害となるモノが多く大回りをしなければならないのだ。

 町に一時間滞在するとしても、僕やダンドの脚力で行って帰ってきたら日が暮れてしまう。


 アリサはまだ9歳で体力もあまりないので、さすがに厳しい旅路となってしまう。


「いいよ、にいさんたちのはやさについていくから」

「それはちょっと厳しいだろ?」


 加護によって能力値が上がっている僕ならともかく、アリサでは大人の男性の歩幅に合わせるのは相当厳しい。

 おとなしくお留守番をしていてほしいのだが……。


 なにか、アリサを引っ張っていけるものがあれば話は別なんだけど。


「じゃあにいさん」

「なんだい?」

「おぶって」


 両腕を前に広げるアリサ。


 それはおんぶじゃなくで抱っこの形だぞ。

 いや、でも……?


「アリサ、あんまり兄ちゃんに苦労をかけるもんじゃないぞ」


 アリサにダンドが注意をする。


「そうだぞ。おんぶしてもらうなら、ダンドにしてもらうんだ」

「え?」


 え? じゃないよダンド。


「だっていま、兄ちゃんに苦労かけないようにって言ったじゃないですか」

「い、いや、言ったが」

「じゃあダンドさんお願いしますよ。アリサ、ダンドが町に連れてってくれるらしいぞ」

「むー、にいさんじゃないのかー。でも、やったー!」

「おい、おんぶしてもらおうとしておいて、不満を言うなコラ」


 なんと、アリサは9歳にしてダンドの扱い方をわきまえているらしい。

 さすが、自慢の妹だ。


「よし、じゃあ町まで行くぞ!」

「おー!」

「お、おー……」


 移動する前からため息をついているダンドを横目に、意気揚々と腕を掲げたのだった。





 というわけで、ダンドは背中にアリサ。僕はフォアウルフの皮と魔石。

 お互いに荷物を持ちながら進むってだれが荷物じゃこら。僕の妹を荷物呼ばわりすんな。


「そういえば町とは聞いてましたけど、どんな町なんですか?」


 長い移動の時間の間に、ダンドに尋ねる。


 ダンドから聞いた話では、僕たちがいる村と同じ王国の領土だとは聞いているが詳しいことは何も聞いていなかった。


「あ? 今から向かうのはな、ソールの町といってうちの王国でも1、2を争う商業場だ」

「へえ、市場がたくさんあったりするんですか?」

「市場、港、まあそういった感じだな。俺もあんまり行ったことはねえが、とにかくにぎやかな町だ」


 市場と言われ、僕は何故か果物屋を思い浮かべた。


 果物といえば、こちらの世界に来てからそういったフルーツは一切摂ってないな。

 売ったお金でアリサのために買ってあげよう。


「ぶきはうってるんですか?」

「武器? なんでまた」

「その、にいさんが……」


 ダンジョンに潜ろうとしていることはアリサには伝えてあった。

 あわよくばダンジョンに大きい家を建てて住もうとも。


 そして、アリサはそのことを不安に思ったのかダンドに相談していた。


 最初に聞いた時は腰を抜かしそうになって僕のところまで問い詰めに来たが。


「ああ、まあダンジョンに入るならちゃんとしたものは欲しいだろうな」


 ダンドが遠い目をしながら言うので、僕たちも黙ってしまう。


 きっとダンドはダンドで僕の心配をしてくれているのだろう。

 本当は行ってほしくないが、僕がなまじ加護という才能を持っているがために止めづらい、そんなところだろうか。


「大丈夫です。しっかり特訓してから行きますし、無理もしません」

「……」


 それでもダンジョンには絶対はない。


 魔物が大量に出現して取り囲まれてしまうかもしれないし、予想だにしないモンスターと遭遇する可能性もゼロじゃない。

 冒険者が不人気なのには、それ相応の理由リスクがあるのだ。


 そのことはもちろん僕も分かっているし、ダンド、それにアリサも分かっている。

 不安は消せるものじゃない。


 だから少しでも安心させられるように、人事を尽くそう。




 それからダンドの馬鹿話を聞いて町に行き、魔石と皮を売ってお金にした。


 銅貨30枚ほど、つまり3千円ほどにしかならなかったが、そのお金で時計とボロボロの麻袋、それにリンゴを買うことが出来た。


 着実にダンジョンへの準備が進んでいく。



 最後にステータスの確認。


【加護 坂本龍馬】 レベル 4→6


【スキル】――【型破り】レベル 1


【フィル】

【能力値】

 ・体力 35 →39

 ・力  41 →45

 ・防御 14 →17

 ・魔力 10 →12

 ・敏捷 37 →41

 ・運  18 →24

 ・賢さ 16 →20


【魔法】


 今日のメモ――手ぶらになった帰りは、僕がアリサを背中に背負いました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る