第8話 稲刈り
月日はあれから流れ、季節は秋真っ盛り。
とは言っても秋は盛るものではないが。
とにかく、稲刈りの時期である。
すっかり黄金色に輝き、張っていた水もなくなった。
「おお」
辺り一面が稲で埋め尽くされていて、その光景に圧倒される。
前世ではこんな景色見たことない。
それだけこのあたりにはコメしかないということだ。
「これからこれを一気に刈るから、気合入れろよ」
「イェス。ボス。あ、間違えた、ダンド」
「ひねりつぶすぞ」
支給するはずの鎌で僕の首を狙うのはやめてほしい。
そして早くそれを僕に寄越せ。
「いいか、稲を奥に倒して、こうやって鎌を引く。こうやって刈るんだ」
「さすがバンドさん。分かりやすい説明をありがとうございます」
「おい、なぜバンドにはさんを付けて、俺は呼び捨てなんだ」
「細かいことを気にするとあなたも稲みたいになりますよ」
「稲みたいになるってどういうことだよ!」
ダンドが何か言っているようだったが構わず、バンドさんがやっていたように鎌を引く。
ザクっという気持ちのいい音と一緒に、たくさんの稲が取れる。
「おお、フィル。さすが、よく一回でそれだけの量を取れたな」
「あはは、まあ鍛えてますから」
一応ここでステータスの確認。
【フィル】
【能力値】
・体力 24 →30
・力 26 →34
・防御 10 →12
・魔力 8
・敏捷 25 →32
・運 10
・賢さ 10
【魔法】
さすがに最初のようにうまくは伸びず、3か月でようやくこれだけの能力値になった。
これなら、フォアウルフ相手でも、一対一なら後れをとらないと思う。
だから、この稲刈りを終えたら積極的にフォアウルフを狩りに行く予定だ。
さすがに能力値を上げていくのに、ただ鍛えていくだけでは効率が悪すぎるからな。
それに、これから冬を越していくのにあの家のままでは寒すぎる。
僕一人なら我慢も出来ようが、アリサにそんな思いをさせたくはない。
もっとフォアウルフの毛皮を集めて、少なくとも敷き布団、あるいはカーペットくらいにはしたい。
今はまだ石でできた床に直接裸足で歩いている状態だ。
そんな思惑があって、フォアウルフ狩りに間に合うように鍛えてきた。
ちなみに防御が少し上がっているのは、アリサにビンタされたりアリサに蹴られたからである。
うえん。
さて、そんなくだらないことを考えている間に、稲刈りの方もだいぶ片付いてきた。
いくら広大な範囲といえど村の男が総出で稲刈りをすれば、あとに残るのは焼け野原になった一面だけ。
半年近くかけて育ててきた稲もこうしてあっけなく綺麗になってしまうと、少し寂しい思いをしてしまう。
農夫には向いていないなと、10歳にして悟ってしまったのであった。
*
「ウゥゥゥウウウ」
「ふぅぅぅ」
稲刈りを終えてから次の農作物を育てるまでの間の期間を使って、僕はフォアウルフ狩りをしていた。
「バウバウバウバウ‼」
「こいっ!」
村の外の森に入り、周りに十分警戒をしながらフォアウルフとの戦闘に持ち込む。
基本的にやつらは群れを成しており、2、3頭でいるのが普通だ。
だから、一匹ずつ釣りだして戦闘を仕掛ける。
具体的には、水飲み場になっている近くの湖に奴らが休憩しているときに、一匹に石をぶつけておびき寄せて、群れから距離を十分にとる。
魔物には知性がないようで、人間を見つけたら一目散に追いかけてきた。
やりやすくてありがたいが、飼いならすことなどは難しそうだ。
ともかく、一対一の状況を作り出す。
それから、農作業に使っていた鎌を使って、首を狙って攻撃。
どうやらやつらの生命源である魔力は血によって運ばれているようで、大量出血によると普通の動物と同じように致命傷になる。
それらのことに気付いて、ようやく狩りがスムーズにうまくいくようになった3日目。
いつものようにフォアウルフ一匹と対面していた。
「ウォォォオォオオオオオオオ‼」
「よいしょっ!」
突っ込んできたフォアウルフをひらりと躱し、避けざまに鎌で一太刀浴びせる。
だいぶ慣れてきたもので、かなりの確率で一撃で仕留められるようになっていた。
それに前に村の中で戦った時と比べて一番変わったのは、躱すのに苦労しなくなったことだ。
あの時は相手の攻撃を避けるのに精いっぱいで、反撃なんて無理だった。
でも、今では軽々と避けられるようになったし、さっきみたいに攻撃をし返す余裕ができるようになった。
これは多分【能力値】の敏捷が伸びたおかげだ。
「ブシッ」
最後に、ちゃんと死んだか確認するために鎌を突き刺す。
狩りをする上でダンドから気を付けるように言われた点だ。
当初村の外で狩りをすると言ったときはアリサをはじめ多くの村人に反対されたが、僕が『加護持ち』であることと、フォアウルフが減ることは村の安全につながるというメリットを考えて、十分注意しながらやるようにと言われた。
具体的には、湖を越えた先に行ってはならないということと、フォアウルフ以外の魔物を見つけたらすぐに逃げること。
森にはフォアウルフ以外にも太った鳥の形をしたファットコンドルやゴブリンなどがいた。
ファットコンドルは見かけによらず素早く、ゴブリンは知性を少し持っていて危険だということだった。
まあ、僕も死にたくはないので無理はせず、じっくりじっくりレベルを上げるのに専念した。
大体一日に2匹か3匹。あまり効率がいいとは言えないけど、群れはまだ相手にできないことを考えると、ゆっくりでも確実に狩りをしていく。
「よし、今日はこんな所か」
フォアウルフ2頭の死体を持って、村に帰還する。
一応血抜きはしてあるが、解体に関しては家に帰ってからである。
「ただいま~」
「お、おかえり……! けがしてない?」
「大丈夫だよアリサ。アリサは心配性だなあ」
「だって……、あたりまえでしょ!」
膨れてそっぽを向いたアリサの頭を撫でてやる。
すると静かになるが、手を離すと少し名残惜しそうな顔をする。かわいい。
「大丈夫。僕はアリサを置いて死んだりしないから」
「……しななきゃいいっていうことじゃないの!」
アリサが心配してくれるのは嬉しい。
この世界では魔物と戦って命を落とす者も多いから、心配になるのも無理はないのだろう。
できるなら、心配をかけないほど強くなりたいけど。
最後にステータスの確認。
【加護 坂本龍馬】 レベル 2→4
【スキル】――【型破り】レベル 1
【フィル】
【能力値】
・体力 30 →35
・力 34 →41
・防御 12 →14
・魔力 8 →10
・敏捷 32 →37
・運 10 →18
・賢さ 10 →16
【魔法】
今日のメモ――スキルの【型破り】ってなんだろう。
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