第7話 解体

 あれから、フォアウルフの死体をとりあえず家の近くに置いておくことにした。


 もしかしたら皮が素材になるかもしれないし、肉が食べられるかもしれないと考えたからだ。


 ということで、夜が明けると僕は村の人たちに昨日のことを相談した。


「すみません、昨日村の中にフォアウルフっていう魔物が出たんですけど……」

「なに、本当か⁉」


 ダンドと同じ農夫のバンドが驚きを露わにする。

 魔物が村の中に出るのは想定外のようだった。


「こりゃ、柵の整備を改めてしないとなあ」

「まさかフォアウルフが乗り越えてくるとはな」

「……フォアウルフは、魔物の中では大したことないんですか?」


 ダンドとバンドが話し合っていたので、ちょうどいい機会だと思って聞いてみた。


 自分の倒した魔物がどれほどのレベルのものだったのかが分からないと、今後のダンジョン攻略に向けてのめどが立たない。


「あ? まあフォアウルフは魔物の中ではゴブリンと並んで、最弱だな」

「最弱……」


 あれで最弱かよ。

 普通にアリサの助けが無かったら死にかけてたぞ。


 一人で倒せるようになるまでには、少なくとも敏捷や力が10は足りていない。


「まあ、一匹で出たからまだよかったが……」

「あいつらは群れるからなあ」


 そしてどうやら、村の外の森では、群れで行動をするらしい。

 じゃああいつは文字通り一匹狼だったわけだ。


 さすがに複数では手も足も出ないから、早く村の守りを固めてもらわないとマズいな。


「ところで、フィル?」

「なんですか?」


 田んぼとして使われていない畑を耕しながら、ダンドは尋ねてくる。


「倒したフォアウルフはどこやったんだ?」

「えっと、家の前に転がしてありますけど」

「そいつ、よこしな」

「……」


 ダンド、お前そういうやつだったのか……! 人がせっかく狩った魔物を横取りしようとは、見損なったぞ!


「いやいやいや、ちょっと待てちょっと待て。お願いだから人のことをゴミを見る目で見ないでくれ」

「なんです?」

「敵を見るような目で見るのもやめてくれ」

「ええ」


 警戒心を維持したまま、ダンドの次の言葉を待つ。


 コイツハ、アリサノ、テキダ。


「違う違う。せっかく倒したって言うんだから、解体してやるよ」

「え、ほんとですか?」

「ああ。お前はまだ解体のやり方とか知らねえだろ」

「ありがたいです」


 そう、解体をしようにもそこまでの力も道具もない。

 誰かに解体をお願いしようと思っていたところだったのだ。


 やっぱりダンドはいいやつだ。僕はずっと信じていたぜ。


「なんか、とてつもなく変わり身が早かった気がするが」

「気にしないでください」

「お、おお……。じゃ、じゃあ仕事が終わって少ししたら俺の家に来な。そのあいだにやっとくから」

「いえ、解体の仕方を教わりたいので、仕事が終わったらついていきます」


 ダンジョンで生活するようになったら、解体が出来なければ話にならない。

 あっちにあるものを中心に生活することになるからな。


「そ、そうか。じゃあ一緒にお前の家によって死体を取りに行くぞ」

「ありがとうございます」


 案外ダンドはいい奴なのかもしれない。




 ダンドは少し大きめの刃をしたなたのような包丁を持って、皮をはいでいく。


「こいつの皮はきれいに洗ってやればあったかいからな。毛布にでもしろ」


 たしかに剥ぎ取った皮の大きさは、ちょうど人ひとりは入れるくらいの大きさだ。

 アリサに使ってもらうことにしよう。


「あと、フィル。よく見てろ」


 もう後は肉だけでは、と思いつつもダンドの言うとおりにする。


 僕が近くで見ているのを確認したダンドは、フォアウルフの胸だった部分を、手で少し触りながら感触を確かめていた。


「ん? ん……ここだな。フィル」

「なんですか?」

「ちょっとここ、触ってみろ」


 ダンドの指さした部分を触ってみる。


 そこは、ただの肉ではなくて中に硬いもの――そう、何か石みたいな感触だ――があるのを感じた。


 しかも、死んでいるはずなのにほのかに温かい。


「これは?」

「魔石だ」

「魔石?」


 ダンドはその石の周りの肉をそぎ落としていき、石が露わになる。


 不思議な見た目だった。


 太陽光を反射しているのとはまた別の、内側から紫にも赤にも、はたまた虹色にも見える輝きをしている。


「こいつは魔石って言ってな、その名の通り魔力が中に溜まってるんだよ」

「魔力?」

「ああ。魔法を使うときに消費するやつだ」


 魔法はこの世界ではかなりメジャーな技術のようで、こんなへんぴな村にも魔法が使える人間はたくさんいる。


「じゃあフォアウルフは魔法を使うんですか?」

「いや、こいつは使わねえ」

「じゃあなぜ魔力があるんですか?」


 細かく質問をすると、ダンドは面倒くさそうに、だけど丁寧に答えてくれる。


 なんだかんだいっていい奴だ(年上)。


「魔物にとって、魔力は生命の源なんだ。魔力で動いてる」

「え、じゃあもしかして魔物が人間を襲うのは」

「そう、魔力を補給するためだ。あいつらは自分で多少は魔力を作れるみたいだが、地上にはそれよりも手っ取り早く魔力を補給できる方法があるからな」

「地上では……?」


 ダンドの言い方に引っかかりを覚える。


 まるで、地上ではないところには他にも魔力を満たす方法があるような言い方だ。


「ああ、俺もよくは知らねえが、ダンジョンとかだと魔力が噴き出すところとかもあるらしい。ダンジョンの魔物はさしずめそういったもので補給してるんだろうが」

「地上の魔物はそうではないと」

「そう、定期的に人間を襲いに来る。だからこうして柵を作ってるわけだ」


 なるほど。魔物の仕組みとかはなんとなく分かった。


「魔石の使い方は今度教えてやるから、大事にとっときな」

「ありがとうございます!」

「あと、肉の方はしっかり加熱した方がうまいからな」


 貴重な伝言をもらって、家に帰った。


 それからアリサに調理してもらったが、フォアウルフの肉はまあまあだった。


 この世界に来てから肉を食べる機会が無かったので、とても嬉しい話だったけど。



 最後にステータスの確認。


【フィル】

【能力値】

 ・体力 24 

 ・力  26 

 ・防御 10  

 ・魔力 8  

 ・敏捷 25 

 ・運  10  

 ・賢さ 10  


【魔法】


 今日のメモ――どうやら能力値が高くなるほど、それらは上がりにくくなるようだ。もっと筋トレのメニューをきつくしないと。

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