第6話 初めての魔物との戦闘
あれから1か月、毎日トレーニングを欠かさずやることで、能力値は少しずつではあるが確実に伸びていった。
現在のステータス
【フィル】
【能力値】
・体力 12→22
・力 9 →23
・防御 8
・魔力 7
・敏捷 9 →20
・運 5
・賢さ 7
【魔法】
さすがに最初のように伸びてはいかなくなってしまったが、それでも順調に伸びている。
大分筋肉がついてきたことを実感したし、今まできつかった農作業が徐々に楽になってきて、その分夜のトレーニングが増えた。
今では腕立ては30回を2セットできるようになったし、ランニングはいつもの1000メートルコースを三周している。
どんどん楽に走れるようになり、スピードが出るようになってとても楽しいのだ。
ちなみに、夜トレーニングをしていることはあっさりアリサにバレてしまい、ビンタを食らいました。
いやー、痛かったけど気持ち良かったです。はい、変態。
それでもトレーニングをやめるわけにはいかないので、少し不安はあったけどウソ偽りなく説明をしたら、なんとか納得してくれた。
無理はしないように、という約束と、僕が帰ってくるまでアリサも寝ないという条件付きになってしまったが。
「アリサは本当に優しい子だなあ、僕の帰りを待ってくれるなんて」
「ねがおがみられたくないだけ」
「兄にまで寝顔を見られたくないのか……⁉」
などとショックを受けることもあったが、無理もない。
まだ兄妹になって同棲してから1か月。慣れろと言われても難しいのだろう。
ただ、もうすでに乙女心を持ち合わせているというのは、本当に驚きだったけど。
嫁にはやらんぞ、絶対に。
まあそんなこんなでトレーニングもアリサの公認となったので、こそこそとやらずに済んでいる。
あまり妹相手に隠し事をしたくなかったので、結果としては良かったのだと思う。
「よしアリサ」
「なに?」
「僕の背中の上に乗ってくれ」
「背中に?」
「いいからいいから」
いつものトレーニングをアリサが見学するようになったので、せっかくだから手伝ってもらう。
「いいの?」
「だいじょうぶ」
「じゃあ、しつれいします」
背中に柔らかな感覚が伝わる。
アリサが僕の背中を椅子のようにして座ったのだ。
か、軽い……。
「アリサ」
「なに?」
「軽すぎて負荷がかからないんだけど」
「…………っ‼」
なんか背中の上で抗議している。
どうやら兄ちゃんの助けになれなかったことに腹を立てているらしい。
それにしても、体重が軽すぎると言われて怒る女の子がいるとはね。
「この、この……っ!」
「ああ、ちょうどいいちょうどいい」
いい感じに力をかけてくれるから、その分重心が不安定になりそれを維持するために筋肉を使う。
これは腕立てで体幹も鍛えられて一石二鳥だ。
そんなことを呑気に考えていた僕だったが、突然――異変に気が付く。
「ウウ……、ガウガウッッ‼」
「――きゃっ!」
オオカミのような見た目をした犬が一匹、目の前に現れた。
「ウーーッ、ワウワウッ‼‼」
「きゃーーっ‼ フォアウルフ……!」
そのオオカミを見て、アリサが叫ぶ。
アリサを背中でかばうようにして、牙を向けてくるオオカミと対峙する。
たしかに、これはやばい。
明らかにこちらに敵意を向けてきているし、口から鋭くて頑丈そうな牙が見えている。
「アリサっ! お前は村の人を呼んできてくれ!」
「う、ううっ……」
泣きだしそうになりながら、膝から崩れ落ちるアリサ。
怖くて動き出せないのだろう。
いくらいつもの言動が大人びているからと言って、こういったところは年相応だ。
僕だってアリサの為じゃなかったら、逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
アリサがいるから少しばかり冷静でいられるだけで、もう既に汗はびっしょり。
恐怖で動けないアリサ。それを見てアリサに標準を絞るフォアウルフ。
これは、僕が何とかしなければ……!
ちょうど足元にあった木の枝を見て、決心を固める。
――大丈夫、この時のために僕はこの1か月、死ぬ気で鍛えてきたじゃないか。
心もとない武器を片手に、僕は雄たけびを上げながらフォアウルフに突っ込んでいった。
「うぉぉおおおおおお‼‼」
「兄さん⁉」
アリサの悲鳴が聞こえたが、僕はこう見えて冷静だ。
フォアウルフの動きを窺いながら、アリサに注意が向かないように立ちまわる。
「ウウ、ガウゥゥゥゥ‼」
僕の注文通り、フォアウルフは僕の方へ体の正面を向ける。
「よし、いい子だ……!」
手に汗を握る。これが傍観者なら盛り上がるところだが、あいにく僕は出演している側だ。
むしろ冷めてしまうくらいだ。
お互いに相手の隙を窺いながら、威嚇をする。
「ウォォォ‼」
やがて我慢をできなくなったフォアウルフが突っ込んでくる。
は、速いっ!
突っ込んでくるタイミングを狙って反撃をしようと考えていたが、それどころではない。
全力で回避する。
左に横っ飛びして、何とかぎりぎり躱す。
体のすぐ横をフォアウルフがすり抜けていった。
「ウウゥゥゥ……」
フォアウルフも避けられたのを認識して、もう一度こちらを見る。
ふう、危なかった。次も避けられるかは正直わからない。
攻撃に転じないと。
隙さえあれば。隙さえあれば、仕留められるのに……。
そう思っていたタイミングに。
「えいっ!」
「……ゥウ?」
アリサがフォアウルフに石を投げつけた。
刹那、フォアウルフの意識がアリサの方へ向く。
「今だっ!」
その隙を僕は見逃さなかった。
頭より先に体が反応し、走り出す。
フォアウルフに切迫し、木の枝を喉元に突き刺した。
「ウワォォォォォン‼」
真っ赤な血がどぶどぶと湧き出てきて、そのうち意識を失って横に倒れた。
「た、倒した……?」
緊張が一気に解かれるとともに、体から力が抜けた。
どうやら、自分でも気が付かないくらい力が入っていたようだ。
そういえば。
「アリサ?」
「たおした……の?」
僕の横に現れたのはアリサ。不安そうだが、僕と同じように安心しているように見えた。
「ああ。アリサのおかげだ、ありがとう」
「うん。あ、でもごめんなさい……。兄さんの言ったこと、できなかった」
「いやいや、上出来だよ。よくやったね」
頭を撫でてあげると、子猫のようにくすぐったそうにするアリサ。
嬉しそうだ。
それから、振り返ってフォアウルフの死体を見る。
すると突然――フォアウルフの体から光の粒がたくさん出てきた。
「うわっ、なんだ?」
まぶしくて思わず目を閉じてしまう。
「アリサ、なにこれ?」
「え?」
光の粒を指さしてみるが、アリサが返してきたのは疑問だった。
「この、光るやつ、なに?」
「光るやつ?」
「見えて……ないのか?」
どうやらアリサには見えていないらしい。
この暗闇の中で、これだけ光る粒が見えていないというのはありえないからな。
そう思っていると、光の粒が移動を始める。
空中で収束して、そしてから一気に流れ込む。――僕の
「む?」
神託石は肌身は出さず持っているようにしている。ちょうど僕の胸のあたりに光の粒が吸い込まれていく。
神託石を見てみると、加護のレベルのところが光っていた。
【加護 坂本龍馬】 レベル 1→2
【スキル】――【型破り】レベル 1
なんと、まさかのレベルアップ。どうやらさっきの光る粒は経験値のようなものらしい。
だから、神託石が見えないアリサには、その経験値も見えなかったということだ。
ということは?
興奮を抑えながら
【フィル】
【能力値】
・体力 22 →24
・力 23 →26
・防御 8 →10
・魔力 7 →8
・敏捷 20 →25
・運 5 →10
・賢さ 7 →10
【魔法】
来たァァァ、能力値の上昇だ!
やっぱり、加護のレベルの上昇によって、能力値も上昇するんだ!
これはテンションが上がる。
ダンジョン攻略の道が大きく開けた。
まだ魔物一匹狩るのに、これだけ苦戦してるけど、そのうち手ごろな魔物なら狩れるようになるはずだ。
さっさと能力値を上げて、ダンジョン攻略をできるようにしないと。
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