第5話 聞き込み調査

 それから、具体的に目標を決めるため、村の人たちにダンジョンについて色々と聞いて回った。

 熱心に相談を聞いてくれたのは、ダンドだ。

 僕とアリサについていつも気にかけてくれているいいおっさん。


「ダンジョンって、もうすでに誰かが住んでるとかあります?」

「ん? なんでそんなこと聞くんだ?」

「なんとなくでいいんですけど」

「まあ、この村にあるダンジョンにはいねえな。つーか、あんま好き好んで住むようなところじゃねえしな」


 メモメモと。


「この村の、というとダンジョンは色んなところにあるのでしょうか?」

「まあそうだな。大体世界に1000個くらいあるって聞いたぞ」

「ありがとうございます」


 1000個もあれば、どこか繋がっていそうなものだけど。


「どこまでも深くまで行けるって聞きましたけど?」

「ああ、らしいな。と言っても10階よりも下に行った人間なんてまずいないみたいだけどな」

「え、そうなんですか?」


 10階というとずいぶん浅いように感じる。

 まあ、人気がないと言われていたからそういうものなのかもしれないけど。


 それより、深さが無限というのはどういうことなのだろう。


 地球とかであれば、いずれ海に出てしまったり、運よく海に当たらなかったとしても岩盤やその下の高温地帯に入ってしまいそうだ。

 異世界だから地球ではないのかもしれないけど、無限というのはどうもつじつまが合わないように思える。


「なんでも、ダンジョンって神がお作りになった、ようは遊びみてえなもんらしい。あんま気にすんなよ」

「はあ」


 細かいところは全て神の仕業になるのは、どこの世界でも共通らしい。

 そういったところは、妙に安心する。


「すみません、ありがとうございました」

「ああ、いいってことよ」


 ダンドさんにお礼を言ってからまた仕事に戻る。


 草を抜きながら、思考を巡らせる。

 頭を使わずにできる仕事は、こういう面では有用なのだ。


 さて……と。


 まずダンジョンに潜るために何が必要だろう。


 多分今の能力値ではダンジョンで命を落とすことになるだろう。

 まだ自分は10歳ということもあり、能力値は平均以下だ。それは周りの男たちを見ていれば分かる。


 じゃあ能力値を上げるというのならやはり気になるのは加護のレベルだが……。

 そのレベル上げには魔物を狩る必要がありそうな気がする。


 とりあえずできることは、毎日鍛えて少しずつでも能力値を上げていくことになりそうだ。


 とりあえず周りの成人をした男たちと同じくらいの能力値になってから、ダンジョンに入るくらいでちょうどいいのかもしれない。

 少しでも早く入りたいが、命には代えられないからな。



 というわけで、その日から筋トレを始めた。


 上半身を中心に、プッシュアップ、腹筋、背筋、プランクなど前世でやったことのある筋トレを一通り。

 下半身の方は筋トレというよりは実際に走ることを中心にトレーニングをした。


 また、仕事中に暇になるのは避けたかったので、無理やり重心を落として下半身に負荷をかけた。

 これは敏捷の能力値上げというよりむしろ体力につながるかもしれない。


 始めのうちは腕立て腹筋背筋×10とプランク30秒、それにダッシュは50メートルくらいを10本、1000メートルのランニングと軽めにした。

 いや、軽めといってもどう考えても10歳の子供がやるトレーニングの量じゃないけど。

 早く能力値を上げるためには仕方ない。


 トレーニングをするのはアリサが寝た後の夜。

 誰にも見られないようにトレーニングをした。意味ははっきり言ってない。


 まあしいて言うならアリサの警護ということで。

 自宅警備員(自宅よりアリサの方が百億倍大事)です。


「はぁ、はぁ……」


 いやもう、きっつい。ぶっちゃけ吐きそう。

 こんなん死ぬ。


 筋トレ自体得意ではないから、苦痛に耐えきれずに弱音を吐きそうになる。


 ――いや、でもこれくらいしなきゃだめだ。


 仮にもダンジョンで生活をしようと考えている身。

 そこら辺の魔物など片手間で倒せるくらいにならなくては、体がもたない。


 それに――こんな生活をアリサに長くさせるわけにはいかない。

 お金に不自由して、好きなことができない生活などアリサにはしてほしくない。


 それに比べて、ダンジョンは力さえあればどれだけでも楽になる。

 やろうと思えばお金だって稼げるはずだ。


 さっさとダンジョンに潜って、安全な家を作る。

 そして出来たらアリサをダンジョンにある家に迎え入れて、おいしいものを食べて暮らす。


 そんな理想の実現のためには、ここで多少は無理をしなければならない。


「ふぅ……あと少し」


 死ぬ気でやらないと。死ぬ気で。




 トレーニングを終えて家に帰ってくると、アリサが何度も寝返りを打ちながら寝ていた。


「ふふ、えへへ」


 何か寝言を言いながら、相好を崩すアリサ。


 天使だ。天使。

 可愛すぎる。


 ただ、時折寝返りを打つと、体が家を作る石材に当たってうう、と唸る。ああ、痛そう。

 大事なうちの妹の顔に傷がついたらどうすんだ、この石め。


 とりあえず壁に当たっても仕方がないので、壁とアリサの間に入って寝る。


 ああ、アリサはかわいいなぁ……。

 

 やっぱりこんな子にこんな貧相な生活は似合わない。

 早くなんとかせねば。



 最後にステータスの確認。


【フィル】

【能力値】

 ・体力 12→13

 ・力  9 →10

 ・防御 8

 ・魔力 7

 ・敏捷 9 →10

 ・運  5

 ・賢さ 7


【魔法】


 今日のメモ――アリサはかわいい

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