第4話 ダンジョンの仕組み

 能力値の上昇は肌で感じられるほどだった。


 昨日は作業を始めて30分くらいもすればもうへとへとになってしまっていたが、今日はもう少し平気だったように思う。

 まあまだ作業自体が草取りなどの大変なものではないから、まだまだ全然なのだが。

 おっさんたちは笑いながら作業してるくらいだし。


 日光が照り付ける中、吐きそうになりながら仕事をし続けて3時間、お昼の休みでいったん家に戻った。


「にいさん、おかえりなさい」

「ただいま!」


 家に帰ってくると途端に体力が回復したような気分になる。まあ間違いなく錯覚だけど。


「にいさん、おしごとのほうはどう?」

「ああ、けっこうきついな。田んぼが広すぎる」

「このむらにはたんぼしかないからね」


 アリサがさりげなく酷いことを言っている。

 おいおい、もうちょっとオブラートに包んだらどうなんだい?


 いつか、『にいさんも、ちからしかありませんからね(訳:脳筋でしょ?)』みたいに言われるのだろうかやめて死んじゃう。


「……? どうしたのにいさん……そんないまにもすてられそうないぬのようなかおでこちらをみて」

「いや、なんでもないんだ」


 せめて人権だけは確保しておかないと。

 アリサにペット扱いされるとか、情けなさすぎる。


「そ、そういえばアリサ。この世界にはダンジョンみたいなものとかないのか?」

「だんじょん……ですか?」

「そう、ダンジョン」


 ご飯を食べながら話を変えてみる。

 魔物とかはいるらしいし、ダンジョンもあるかもしれないと思ったのだ。


「だんじょんなら、このむらにもあるけど……」

「ほんとか⁉」


 ダンジョンといえばお金が稼げることで有名なやつだ。

 喜んで飛び跳ねてしまったが、アリサはあまり嬉しくない顔をしていた。


「だけど」

「だけど?」

「だんじょんって、いつひらいて、いつしまるのか、わからないの……」

「……なに?」


 どういうことだ。


「1にちでまたひらくこともあれば、1ねんしまらないこともあるの。ひらいてるじかんも、そのときどきで、1じかんしかひらかないこともあれば、1にちくらいずっとあいてることもあるの」

「ふむ……」


 たどたどしく説明してくれたアリサの言葉を、自分なりに整理してみる。


 例えば、明日ダンジョンへの階段が開いたとする。


 すると、まずその階段がいつまで開き続けるのかが分からない。1時間で閉じてしまうこともあれば、長くて1日中開いていることもある。


 そして、閉じ込められてしまったら、そこからが大変だ。


 1週間で開いて帰ることが出来るかもしれないが、1か月、はたまた1年は閉じ込められてダンジョン内で生活しなければならないこともあるという。


 つまり、ダンジョンに入るときには1年出られないことを覚悟してから、というわけだ。


「ダンジョンから、別の方法で抜け出すことはできないのか?」

「むずかしいと、おもう……。そんなはなしはきいたことない」


 となると、普通にダンジョンに入ったら詰みそうな気がするが。


 むむむ、と考えていると、納得していない顔をしていることを察したのか、説明を付け足してくれた。


「だから、ぼうけんしゃはにんきないの。あぶないし、わりにあわないから」

「へえ」


 たしかに、1年もダンジョンで拘束されるなんてお金稼ぎとしては割に合わない気がする。


「じゃあ、どういう人が冒険者になるんだ?」

「うーん、きいたはなしだからくわしくはわからないんだけど。たとえば、おおにんずうでぱーてぃをつくったりとか」


 なるほど。たしかに大人数で冒険すれば、一人当たりの負担も軽くなるのだろう。


「あとは、たまにだんじょんにいえをつくっちゃうひともいるらしい」

「家?」


 ダンジョンに家? それはまた奇抜な。

 まあでも、確かに1年とかいる可能性もあることを考えれば、家を作るのも選択肢としてはアリかもしれない。


「だんじょんのなかは、そととちがってぜいきんがかからないから。いくらでもおおきくできる」

「――ほう?」


 言いことを聞いたような気がする。いくらでも大きくできる?

 その言葉に、元ゲーマーの血が騒ぐ。


 元来、僕という人間は限界のあるゲームが嫌いだった。

 例えばレベルに上限があったり、出てくるモンスターの強さに限界があったり。


 マップの大きさが決まっていたり。


「じゃあ、どこまでも大きくすることができるんだ?」

「うん……って、え? どうしたのにいさん、わるいかおして」

「いや、べつに? なんでもないさ?」


 ということは、ばかみたいに広い家を作って、アリサに住んでもらうことが出来るということだ!

 素晴らしい!

 選択肢の一つどころの話ではないな! ダンジョン住み確定。


 ダンジョン生活待ったなしだ!


「よし、ダンジョンに住もう」

「で、でも、だんじょんって、あんまりさいしょはひろくないし、ふかくにいけばいくほどまものはつよくなるよ?」

「上等! それだけ僕が強くなればいいんだろ?」


 ダンジョンの深さにも限界はないらしい。


 相当深いところまで行って、でっかい豪邸でも建ててやるか。


「よし、そうと決まれば」

「きまれば?」

「――特訓だ!」


 となりで、叶いもしない努力に呆れているアリサが見えたが、僕は絶対に成し遂げる。


 目指せ、アリサ邸の建設!



 最後にステータスの確認。


【フィル】

【能力値】

 ・体力 11→12

 ・力  8 →9

 ・防御 8

 ・魔力 7

 ・敏捷 8 →9

 ・運  5

 ・賢さ 7


【魔法】


 今日のメモ――練習メニューにダッシュを加えてみたが、見事に敏捷を上げることに成功した。

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