第3話 能力値の上昇

「おお、すげえな! まじか! 10歳でなんて、史上最速じゃねえか?」

「この村に横になって倒れていたのも、うっかり神様が産み落としてしまったんじゃねえか?」

「あはは、それだったらこんなボロい村じゃなくて、スチール王国の方にするっぺ」


 二人で緊張しながら報告したのだが、村の人たちは案外あっさりと信じてくれた。


 もちろん同じように加護を受けたことのある人はここに居ないため神託石を見ることが出来る人間はいなかったが、それでも信じてくれた。

 あまり他人を疑うという習慣が無いのかもしれない。

 どちらにしても、いい村だと思う。


「いやー、俺たちに金があったら宴とかをやるんだがな」

「がっはっは、酒が欲しくなるな?」


 まあ、もしかしたら、本気にしていないだけかもしれないけど。


「それは別として、今日からアリサのために働こうと思います」


 そして、村人が多く集まっている機会に僕は自分の立ち位置を明らかにする。


「アリサに頼ってばかりでも良くないので……。なのでみなさん、色々と教えてください!」


 隣でアリサが驚いているのが分かるが、僕は構わず頭を下げた。

 アリサに説明はしていなかったが、アリサの代わりに僕が働くことが出来れば彼女の負担も減らせることが出来る。


 それならば、手伝うのは必然だろう。


「おお、おお……」

「ええ子や……ええ兄妹や……」

「アリサぁ、良かったなぁ」


 泣きながら鼻水を垂らしてアリサに抱きついている村人もいた。

 どうやら村の人たちもアリサの現状に心を痛めていたようだ。


 まだ9歳で体も強くないのに、畑の手伝いをする姿に思うところがやはりあったみたい。


 大体、9歳で一人暮らしというのは、普通では生きていけるものではない。

 いくらアリサが賢いと言ってもさすがに不可能だ。


 これまでも村の人たちのサポートがあったのだろう。


 そしてこれからは僕も一緒にアリサを支えていきたい。




 その日から畑仕事について僕がアリサの代わりにすることになった。


 アリサはといえば、家の仕事に精を出すようになった。水を運んだり、ボロボロの家の手入れに時間を割くようになったり。

 まだ肉体労働をやめさせることが出来ない自分の無力さが情けないが、それでも一番きつい仕事はさせずに済んでいる。


 畑で育てているのは主にコメばかりだった。だから畑というより実質田んぼだ。

 コメがあることに感動しつつも、他の野菜や穀物は作っていないのかと質問をした。


 すると気前のいいダンドという30代半ばくらいの男が教えてくれたのだが、村によって作る作物は決まっているらしい。


 村によって土が違うことが多いらしく、その土地にあった作物しか作れないのだとか。


 だからこの村では春から秋にかけてコメを、冬には芋を作るらしい。


 ちなみに今は季節でいうと春から夏に移り変わるタイミングらしく、そろそろ暑くなってきた。


「えっほ、えっほ」

「よく働くな、フィルは」

「ええ、妹にちゃんとしたやつを食べさせたいですから」


 仕事の出来によってもらえる作物の量が違う。

 妹の分ももらわなければいけないから、人一倍働いておきたい。


 他の家では、男が畑仕事をしている間に女性は狩りで手に入れた革や毛などで服や小物をつくるらしい。


 ただ、ウチにはその技術も道具もないので、アリサはお金を稼ぐことが出来ないのだ。


 だから僕にできるのは、こうやって田んぼの草を抜いてより作物が実るように祈ることくらいなのだ。




「はー、ただいま」

「おかえり、にいさん」


 家に帰ると、床の中央に土器を置いて待っているアリサがいた。


「お、もう料理できたのか」

「そろそろかえってくるとおもって」


 器の中にはコメを水でかさまししたものが入っていた。


 どうやら味付けも何もなく、火を通しただけらしい。


「ごめんね、こんなものだけで」

「ううん、いいよ。食べられるだけでありがたい」


 不安そうにこちらを見るアリサの頭に手を乗せる。


「あっ……」

「大丈夫。僕はアリサが作ってくれるっていうだけで――何杯でもいける」

「……」


 あれ、決まってない? 決まってない? ジト目でアリサがこっち見てくるんだけど。


 ダメか、ダメみたいだな。


「にいさん……」

「な、なんでしょう」

「明日は2倍働いてきてね」

「……はい」


 なんとなく、未来の関係図が予想されるようなやり取りだったが、まあ尻に敷かれるくらいなら仕方ないかな。




 寝る前、自分のステータスが書かれたわら半紙――識書しきしょというらしい――を眺めていた。


【フィル】

【能力値】

 ・体力 10→11

 ・力  7 →8

 ・防御 8

 ・魔力 7

 ・敏捷 8 

 ・運  5

 ・賢さ 7


【魔法】


 これからわかるように、一部の能力値が上昇していた。


「うーん、やっぱ今日の仕事のおかげかなあ」


 今日やったことと言えば、中腰の状態で延々と草を抜いていた記憶しかない。

 能力値が上がったのは、よほどそれが理由だろう。


 ただ、僕は能力値が上がったことに意外感を覚えていた。


「加護のレベルで、能力値が上がるわけじゃないのか」


 前に、加護によって能力が伸びるという話を聞いたことがあった。


 だからてっきり、能力値を上げる方法は加護のレベルアップなのかと思ったけど、どうやら裏道があるようだ。

 どちらかといえば、加護のレベル上げで能力を上げる方が裏道かもしれないが。


 それなら、自分で鍛えて能力値を上げるに越したことはないな。


 能力値が上がれば仕事できる量も増えるし、できる仕事の種類も増えてくるはずだ。


 魔力や運、賢さの上げ方は分からないが、体力、力、敏捷ならば簡単に上げられそうだ。


 防御は……アリサに殴られればいいかな。

 でもアリサは暴力とか振らないか。


 それはおいおい考えていくことにしよう。

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