第2話 加護
「坂本、龍馬……?」
いくつか奇妙なことはあれど、まず真っ先に口にしたのは、つい最近まで僕がいたはずの世界での偉人の名前だ。
日本の明治維新に貢献し、文明開化を促した幕末の重要人物。
たしか、僕の知っている記憶ではこのようなものだったはずだ。
その坂本龍馬が、なぜこの世界に……?
もしかして、異世界転生などしておらず、どこか知らない国に飛ばされたのか。
いや、でも周りにいる人間はアリサも含めみな
日本語がヨーロッパで話されているという話は聞いたこともない。
とにかく、空からゆっくり落ちてきた石板と紙を両手で受け止める。
虚空から生まれたものたちは不思議なことに質量を持っていた。
まずは石板の方に目を通してみる。
【加護 坂本龍馬】 レベル1
【スキル】――【型破り】レベル1
石板に刻まれた文字には、このように書いてあった。
それは、何の脈絡もなく、それでいて僕の知っているRPGに近い経験だった。
(レベル……? なんだスキルって。それに加護とあるけど……)
知らないことは山盛りで、そこにはRPGのように説明があるわけでもなかった。
今読み取れる情報は全くないので、諦めて次に降ってきたわら半紙のような紙を手に取ってみる。
【フィル】
【能力値】
・体力 10
・力 7
・防御 8
・魔力 7
・敏捷 8
・運 5
・賢さ 7
【魔法】
そこには、僕の読み取れる情報がたくさんあった。
「え、僕の名前、フィルっていうの⁉」
だが、一番最初に思うのはそこだろう。
そういえば僕には名前が無いことを思いだした。
村の人も僕のことを『この子』だとか、ありふれた名詞で呼んでいた記憶がある。
だが、どうやら僕には名前があるらしく、名付け親は不明だ。
というか自分の名前をこうやって知った人間は人類史上初だろうな。
そしてその下には【能力値】
これは僕も良く知っているやつ。
ゲームによってはステータスとか呼ばれ方は変わるのだろうけど、とにかく自分の力がどれだけあるのかカテゴリー別に書いてあるやつだ。
察するに体力と言えばHP、つまりどれだけの攻撃に耐えられるのかを指すのだろうし、力と言えば物理的に出せる力の大きさを示しているのだろう。
運や賢さのように具体的にどのような効果があるのかは分からないものもあるが、先ほどの石板よりはいくらか情報が多かった。
そして、どうやら魔法が使えないみたい。
いずれ使えるようになったりするんだろうか。
まあ、そんなことも今は些細なことだ。
それより……。
「この世界は一体何なんだろう」
こんなゲームみたいな仕様はなんだ。。実は異世界なんかではなく、ゲームの世界に迷い込んでしまったような感覚に陥りそうになる。
たしかにゲームの世界と言われれば、日本語に対応している理由も想像できるし、色々とつじつまが合うように思えるが。
「異世界転生も、ゲームの中に入り込むのも、本質的には変わらない、か」
僕がゲームの中に入っていると分かっているのなら、この二つには大きな違いが生まれる。ゲームを生きるのと、本当の現実世界に生きるのでは話が変わってくるから。
だが、分からないのであれば関係ない。
そもそももとより、この命を無下にするわけにはいかない。
アリサに救われたのだから、彼女のために使わなければならない。
この加護やら能力値だったりが、転生してきた僕限定のチートスキルというのなら、それを存分に活かしてアリサのために使おう。
僕の生きる価値はそこにしかないのだから。
その後、加護というものが降りてきたことをアリサに説明した。
彼女は僕の話を聞いて、目を丸くして驚いていた。
加護というものを知らないわけではなかったので、転生特有のものでもないらしい。
たくさんの人間が転生してる可能性は否定できないが。
それから、アリサは加護というものを知らない僕のために説明をしてくれた。
なんでも加護とは、才能のある人間に天から降りてくるもので、年齢はまちまちだが彼女によれば天から認められたときに受け取ることができるものらしい。
ちなみに10歳で手に入れるというのは異常な速さで、よっぽどのことがない限り15歳かららしい。
加護の大きな特徴は一人の人間に対して一つ。
複数の加護を持つことが出来た人間はいないらしい。
そして、加護を得た人間は能力が飛躍的に向上することになり、また専用のスキルというものを手にすることで専門性の高い職業に就くことが多いのだとか。
約10人に1人の割合で加護を受けることが出来るらしく、加護を得るこが出来た人間の多くは学校に通ってより上の職種に就こうとするものらしい。
僕の場合はアリサの兄という職業に永久就職を希望するので関係ないけど。
また、加護を受けたことはすぐに村の人に報告した方が良いといわれた。
10歳で加護を受けるという快挙がもし国の人に伝わったら、すぐに農民から平民に変わることが出来るかもしれないと言っていた。
ただ、加護を受けた際に手に入れた石板――
見えないということで、加護を受けたと嘘をつく人間も多くいるらしい。
「アリサは、信用してくれるの?」
「もちろんだよ。うそいってもしょうがないでしょ?」
キョトンとした顔で言うアリサ。
本当に賢すぎて、この子も転生したんじゃないかと言いたくなるくらいだ。
さすがに喋り方が幼いから違うと思うけど。
というわけで、明日アリサと一緒に村のみんなに加護を受けたことを報告することになった。
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