新たな一歩の行進曲(1)

数年前の夏休み少年はリビングでアイスを食べていた。すると突然天羽流風の姉である星歌がやって来て「舞台観に行かない?」と誘ってきた。


(友達と観に行くと言っていたのにどうしたんだろう?)


流風の考えていることがわかったのか説明してくれた。


「急に予定が入っちゃったらしいんだ。チケット余らせるのももったいないから、流風くんと行きたいなって。あ、もちろん予定あるなら無理にとは言わないよ」


言葉では遠慮気味で言っているが、顔は一緒に行きたそうにしている。きっと終わったあと感想等を語り合いたいのだろう。


「いいよ。その日何もないし。どんな劇なの?」


すると星歌は目をキラキラさせ劇のホームページを開いてくれた。


「えっと…?『狐面の日常』?」

「そうそう!公演前からファンの間で話題になってたんだよ。ステレコ…Stella Record所属している人がほとんどみんな出演してるって」

「へーそうなんだ~」


星歌はホームページのキャストの部分を開いて説明してくれている。話を聞いていると、二人のキャストに目が止まった。そこには「暁星陽奏」と「朝輝舞星」と書いてあった。


「あ…」

「この二人のこと好きなの?」

「へ?あ、いや…ちょっとね。人違いじゃなければ小さい時の知り合い…かな」

「え…あ……ご、ごめん」


星歌は少し気まずそうに目を伏せた。


「気にしないで。僕今はここにいられてとても幸せだから」


流風は星歌に向かって笑顔で答えた。

彼は生まれたときに実の親に捨てられ数年前まで施設で育てられていたのだ。それからここ天羽家に引き取られ暮らしている。


「宿題やってくるね。劇観に行く日までに終わらせたいし。せっかく観るんだから宿題なんて気にしないで観たいし」


そういうと彼は部屋に戻っていった。


(本当に気にしてないんだよな。実の親の顔なんて覚えてないし。今さら会ってもどうしたらいいかわからないから。でも今僕は幸せですって見せつけたいかな…ま、そんな機会ないと思うけど)

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