嚆矢の行先 Ⅵ
「流石は姫様です。 ご名答」
「やめろ、ここでの称賛は皮肉にしか聞こえん。おびき寄せる……か。 つまりは私を一度王都に戻らせ、貴様らの大義となる私の奪還のために、敵を王都に招くということか」
「左様で」
敵が動かぬなら動かしてやればいいそれだけの事だった。
今回の戦いで敵もそれなりに損耗していると聞く。
今までの敵の状況を考慮すると、一大攻勢に出る可能性は限りなく低かった。
だが、敵には『鉄の鳥』がある。
王都を急襲する程度、造作もないはずだ。
それこそ『第三王女』の確保ぐらい容易いだろう。
「……貴様らも大概、有力貴族共と変わらないな。 だが、賊軍とするには勿体ない」
「それはありがたいお言葉ですな」
「……はぁ。 もうため息しか出ん。 私も軟弱なフランシスなんかの嫁にいくよりもあの男の方が数倍マシだからな。 ……それにシュペルヴィエルを断絶する訳にもいかんからな。 ーーー乗ってやろう」
ーーー未だ解けぬ、猛毒が彼女を蝕む。
まぁ、予想はしていたが、これは意外にも難題かもしれないな。
私はこの国で反乱を起こすにあたっては『第三王女』であるミレーヌを担ぎ上げること、そして敵である統合軍と協力関係を結ぶか、最悪彼らに降ることで十分であると考えていた。
ーーーおそらくこれは条件。
ミレーヌの笑みを浮かべた表情を見れば明らかだった。
確かに、敵の統合軍との繋がりが強固になるのは良いことだ。
下手な貴族を『第三王女』の引き取り先に指定するよりも数倍マシだ。
だが、件のアズマ卿が彼女を口説いたのは単なる時間稼ぎのための策略だったとしたらどうなるか。
まぁ、事が事なだけで、向こうにその気が無くても無理矢理彼女を押し付けるという方法も可能だろう。
ただ、彼が独身であるという保証はどこにもなかった。
やはり属国となったとしても、キネロ王国という国体は民の為に必要であろう。
アズマ卿が独立都市『東京』や魔王国でどの程度権力を持つのかはわからないが、一軍の将である以上、それなりの貴族であることが明らかだ。
そんな彼の『正妻』という地位にうちのじゃじゃ馬を上手く納めさえすれば、我々は安泰。
しかし、『側室』や『第二夫人』とかでは我々、いや我が国の地位は著しく低下することになる。
キネロ王国の完全な属国化だけはどうしても避けたい。
せっかく民の為に立ち上がるのだ、その民の利益を全て彼らに吸い上げられるなんてたまったものではない。
ーーー場合によっては『正妻』の座を降りてもらう為の説得も必要か……。
これは骨が折れそうだ。
「では、王都に?」
「ーーー行ってやる。 ギャイエ卿の件はとりあえず、先程ウスターシュが述べたような事故であると王宮には報告しよう。 それに貴様らの家族も奴らが来るまで私の名において保護する。 それまで目立った行動をするなよ。 ……はぁ、私もついに現実と向き合う時が来たか」
そう言ってミレーヌは近くの壁にもたれかかる。
その瞳は言葉とは裏腹に野心を感じさせるような鋭さがあった。
キネロ王国の始祖は彼女の家、シュペルヴィエル家ではない。
彼らは始祖のパラディール家から王権を簒奪した野心的な一族なのだ。
「お覚悟が決まったようで何より。 アズマ卿の名に誓って姫様を王宮より救出しますとも」
「そこは自分の名を使って誓ったらどうだ?」
「さぁ、そこまでは責任持てませんから。 ウスターシュ、馬と護衛の兵士を用意しろ! このことは機が来るまで内密だ」
「承知いたしました。 直ぐに用意いたします」
ーーー願わくば彼女が次代の王を導く女神であらんことを。
そう思い、私は部屋から出て行く彼女を見送り、手近な椅子に腰掛けようとしたその時だったーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます