Point of No Return Ⅷ
「で、どれだけ時間が稼げた、少尉?」
「ざっと……五分というところでしょうか……」
西部中尉と志願兵達の戦闘は苛烈であった。
セラフィナの魔法で孤立した兵士達を一人また一人と容赦なく倒していく。
彼らが全て倒れた頃には敵には恐怖が蔓延し、一歩前に踏み出すことを躊躇する兵士が大半であった。
まるで関ヶ原の戦いの島津の退き口だ。
一騎当千の兵達のおかげで貴重な時間を稼ぐことに成功した。
味方空中機動部隊到着まで残り十五分。
「……そうか、ならやる事は一つだな」
「大尉、何を……」
心配そうなセラフィナをそのままに俺は味方が固める防衛陣地を抜け出し、敵の目の前へと歩み出る。
咄嗟に剣や槍を構える敵兵達。
まぁ、このままじっとしているだけでも時間は稼げそうだが、ここは一つ派手に行こうと思う。
こう見えて地味なのは苦手なのだ。
「キネロ王国軍将兵に告ぐ! 私はこの要塞の指揮官の吾妻新太郎である!」
「ちょっ!? 大尉、何をやってるんですか!?」
キネロ語で叫ぶ俺に駆け寄ってくるセラフィナ。
心配そうな表情を浮かべる彼女の顔は既に魔力切れで青白く、これ以上負担をかけるわけにはいかなかった。
ここはさっきまで寝ていた俺が頑張らないと西部のとっつぁんに顔向け出来ないだろう。
「まぁ、いいから見てろって。 俺もとっつぁんに負けてられないからな」
そう言って俺は近くに倒れている敵兵から適当な剣を奪い取った。
ーーーふむ、よく分からんが、いけるだろう。
いわゆるスモールソード。
使ったことはないが、まぁ大丈夫だろう。
「それって……まさか……」
「私は貴官らの指揮官との一騎討ちを所望する!」
俺の一言を受けて目の前の兵士達はざわついた。
どうやら少しは効果があるようである。
後は筋骨隆々で百戦錬磨な感じのおっさんが出てこない事を祈るばかりである。
出来れば経験が浅く、武術のセンスもあまり持ち合わせておらず、どちらかというと文官肌の筈なのに家の事情で戦場に出ざるを得なかった線の細い青年あたりが出てきてくれると助かるのだが。
「っ! 大尉、正気ですか?」
「正気も正気よ。 一か八かの賭けだが、これが一番合理的かつ確実な方法なんだ」
味方の兵士の損耗を極力少なくし、時間が稼げる方法はこれぐらいしか思いつかなかった。
最悪一人で敵兵達の前でショートコントをやったり、一発ギャグをやって時間を稼いでも良かったが彼らの笑いのツボが分からない以上、八つ裂きにされる可能性が高かった。
敵は味方の空爆の影響で随分と混乱しているようだし、もし我々を全員倒してしまえば、その空爆の矛先がこの要塞の中にも向くことを、それなりに頭の回る指揮官であれば理解できるであろう。
人質を取るという考えもあるが、もしそれが出来なかった場合はどうなるか。
だから、確実に人質を取るために、又は自軍の撤退に手出しされないように敵指揮官はこの一騎討ちは受けざるを得ないのだ。
もっともこちらもこれ以上味方の損害を出すわけにはいかず、同様に追い詰められていることに違いはなかった。
ーーー無駄な消耗戦を回避する唯一の手段、それが一騎打ちであった。
「それは……しかし、敵が応じない可能性も。 それに応じたとしても敵の指揮官はおそらく貴族。 幼少の頃より武術を嗜んできた猛者揃いなはずです。 大尉は何か武術の心得はあるんですか?」
「まぁ、誇れるもんでもないが、高校の時の授業で剣道を選択していたってのと、士官学校時代の統合軍式格闘術、それぐらいかな」
「なにドヤ顔で言ってるんですか! ほぼほぼ素人じゃないですか! ……特に士官学校の統合軍式格闘術じゃ大して剣術はやりませんし……今からでも銃剣に持ち替えた方がいいんでは?」
「厳しいこと言うねぇ。 まぁ、敵の誇りに賭けた誘いなんだ、正々堂々ってのが先ずは必要なんだよ。 ほら、おいでなすった」
反射神経がいいという自負はある。
だから相手次第ではあるが防戦一方であれば何とかなると思っていたがーーー
兵士達を掻き分け姿を現したのは一人の若い女騎士だった。
「……えぇ、なんかノリノリで来ちゃいましたね。 こんな安っぽい挑発なのに。 冷静に考えたら増援までの時間稼ぎってのが分からないんですかねぇ……」
辛辣な事を言う副官。
まぁ、何というかどこか鼻息を荒くして俺の目の前に来る女騎士はあの……その……おそらく状況を分かっていらっしゃらなかった。
期待に胸を膨らませ、目を輝かせていらっしゃる。
夢にまで見た敵との決闘、という感じであった。
セラフィナが毒を吐くのも無理はない。
「まぁな。 ……安っぽい挑発に乗るぐらいこの戦場は狂ってるのさ。 少尉、下がってくれ。 部下達には盛り上げるよう言ってくれ。 これは見世物だ」
そう、この場が盛り上がれば盛り上がるほど、時間が稼げるはずだ。
ここは今からローマの
渋々『了解』と呟く彼女を見送り、目の前の女騎士を見るとちょうど彼女は名乗りを上げるところだった。
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