死神の円舞曲 Ⅳ


「引きつけるな! 敵の影が見えたら撃つんだ! 近づかれたら数で押しつぶされるぞ!」


 そう屋上で怒鳴るのはジルド・マドリガル少尉。

 ここに来るまでに二、三人ほど頭を吹き飛ばしたが、どうやら彼は私とそう変わらない新任の将校らしかった。

 確かに、あのラミロ少佐や吾妻大尉などと比べると動きや言動に余裕はない。

 ーーーそれに、見るからに育ちの良さそうな顔が気に食わない。

 ショットガンで頭を吹き飛ばすにはちょうどよかった。


「……っ! 佐藤分隊、前に出すぎだ! 下がれ! 死にたいのか!」


「さて……ほいっと!」


 先ずは敵を牽制する機関銃兵を片付ける。

 ショットガンではなく、拳銃を取り出し、屋上の端に一列に並んだ兵士達の頭をリズミカルに撃ち抜く。

 数は五人、距離は約十メートル。

 私には寝ぼけながらでも撃ち抜ける距離だった。

 それに彼らの背後をとっており、反撃の心配も無い。

 前のめりになっていた兵士達は突然のことに悲鳴もなく、続々と地上に落ちていく。

 最後の男を撃ち抜いた頃に件のジルドが異変に気づき振り向く。


「……なっ! 何が起こってーーー」


「しいて言うなら感謝祭かな」


 再びショットガンを構え、彼の頭を狙い引き金を引く。


「っぅ! ……あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「あれ? 外しちゃったぁ」


 響き渡るジルドの悲鳴。

 私の放ったスラッグ弾は彼の頭ではなく左腕を吹き飛ばしていた。

 風が影響したのだろうか。


「でもまぁ、ラッキーかな。 君の苦しむ顔は最高にス・テ・キだよ!」


「っあ! あぁぁぁぁぁぁ!」


 彼は魔族。

 苦しんで死んでもらうにはちょうどよかった。

 それにどうやら彼は痛みに過敏らしい。

 ーーーいい悲鳴を上げる。

 泣きじゃくる彼の姿は最高だった。


「さって、さてさて。 次は何処を撃ち抜こうかなぁ。 右腕、右足、左足……うーん、股間なんてどうかなぁ」


 次弾を装填しながら、彼のどこを撃とうか見定める。

 魔族は楽に殺しはしない。

 どうせ直ぐに味方がこちらに来ることはないだろう。

 それにこれで私のは終わりなのだ。

 多少、楽しんだっていいだろう。


「うがぁぁぁぁぁ! あっ! あぁ!」


 腕を押さえて転がり回るジルド。

 涙と脂汗がぐちゃぐちゃに混ざり合う彼の表情は中々そそるものだった。


「それにしても君はいい声で鳴くねぇ。 私も殺しがいがーーー」


 再び彼にショットガンを構えたその時だった。

 胸に違和感を覚える。

 そして急に呼吸が出来なくなり、視界が歪む。


「っ! ……あぁぁぁぁ!」


 どうやら次に悲鳴を上げるのは私の番だったらしい。

 私は力なくその場に崩れ落ち、最後の余力で体を反転させる。

 胸からは大量の血が流れていた。

 撃たれたことは理解していたし、覚悟もしていた。

 だから、せめて最後に自分を撃った奴の顔ぐらいは覚えておきたかった。


「あぁ……リンメル……」


 後悔はしていない。

 逆に清々しかった。

 やられたらやり返す。

 その私の信念がこの世界で認められたような気がしたのだ。

 だからこそ、私は彼をのかもしれない。


「……終わりだ。 サヴィーノ」


「ふっ! ふははぁ! はははぁ! ははぁ……」


 この世界に、そして不条理に。

 私は屈するつもりはなかった。

 だから、最後は笑ってーーー

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