死神の円舞曲 Ⅲ
「ふんふふーん、らららー。 吹っ切れるとこんなに気分がいいとは意外だわ。 ふんふふーん」
私、マグダ・サヴィーノは今まで人を殺した事がなかった。
もちろん、先の戦闘でも武装した民間人相手に銃の引き金を引いたが、敢えて当てなかった。
弱気な性格で実技も駄目、ドジすることも多いが人当たりはそれなりに良い。
それがマグダ・サヴィーノという人物であった。
彼女は……いや、やめておこう。
ーーー今は私が彼女だった。
「……っ! 起きろ!アンドレスっ! しっかりしろ! 衛生兵! 彼を頼むっ!」
正門に近づくとそこはまさに戦場、いや地獄と言うべき場所であった。
飛び交う怒号、響き渡る悲鳴。
統合軍の兵士達は崩壊した防壁を乗り越えて要塞内に侵入する敵を銃で撃つも、数という圧倒的な暴力の前になす術もなく、徐々に戦線を後退している。
時には近接戦闘にもなるらしく、負傷した兵士達が続々と後送されている。
ーーーちょうどそこに顔見知りがいた。
同じ小隊のベラスコ曹長だ。
彼は負傷した部下を背負い、衛生兵にその部下を引き渡すところだった。
「ベラスコ曹長!」
私は鼻歌を歌うのをやめ、ベラスコに声をかける。
「なっ! サヴィーノ准尉! 何故ここに!?」
「ちょっと、こちらがかなり危険な状態だと聞きまして、一人ではありますが応援に来ましたぁ」
「……それはありがたいです。 現在、部隊の指揮を出来る者が少なく、将校の方に来ていただけると助かります」
「そうですかぁ、それはよかったです。 曹長、状況は?」
「はっ! まさにこの世の地獄とでも言いましょうか。 状況は最悪のさらに一段階悪い状態です。 先程の原因不明の爆発で虎の子の榴弾砲部隊が全滅、そして防壁の守備に当たっていた多くの兵士を失いました。 また、その際、吾妻大尉が負傷、指揮が取れず後送され、次席指揮官のジルド少尉が指揮を取ってます」
「そう……。 そのジルド少尉はどこに?」
とりあえず、指揮官の吾妻大尉でも殺そうかと思ったが、既に指揮が取れない状態ならもうどうでもいい。
私の目的はあくまでもこの基地の混乱。
指揮官さえ殺せれば誰でも良かった。
「あちらの建物の屋上で戦線への指示を出してます」
彼が指差すのはプレハブ工法で建てられた二階建ての建物。
正門から一番近い建物であり、防壁の歩哨に立つ兵士達の簡易宿舎だった。
その屋上にはいくつかの機関銃が設置されており、ジルド少尉はそこを拠点に防備を固めるつもりのようだった。
「了解。 彼を殺せば更にこの場は混乱するのね」
「こ……殺せ? 准尉何を言ってーーー」
「ご苦労様、ベラスコ曹長。 もう寝ていいわよ」
情報さえ得られればもう彼は用済みだった。
抱えていたショットガンで彼の頭を吹き飛ばす。
「さてもう一仕事行きますかぁ」
ーーー祭りは始まったばかりだった。
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