死神の円舞曲 Ⅱ
ーーーそう六年前。
私は両親と姉と共に魔王国のニルサという町で仲睦まじく暮らしていた。
その町を治めるのはもちろん魔族の地方領主達だった。
ちょうど学院に通っていた姉が独立都市『東京』への留学が決まった頃だった。
領主の息子を差し置いて平民である姉が独立都市『東京』への留学の権利を勝ち取ったことが気に入らなかったのか、それとも単に美しい容姿だった姉に欲情したのか、今となっては分からないが、私が住む町を治める地方領主の息子が姉を凌辱したのだった。
いや、達がと言うべきだろう。
後に分かることではあるが、その地方領主の息子だけでなく、屋敷の使用人達や領主まで関わっていたという。
その姉は無残にも犯された後、町で一番目立つ広場のど真ん中で死んでいるのが発見された。
ーーーまるで見せしめの如く。
私達は魔王国に住めども、魔族や亜人ではなく、いわゆる人族。
過去に魔王軍との戦闘で捕虜になったり、帰属した者達の末裔だ。
だからこそ、魔王国内でのヒエラルキーは高くなく、往々にして差別の対象となってきた。
もっとも、魔王国では人種による差別は禁じられていたはずだったのだが、私達家族を助ける者は誰もいなかった。
ーーー姉は私の自慢だった。
容姿端麗、そして平民であり、更に人族であるというのに、魔王様直轄の教育機関である学院で一番の成績を取り、技術や学問分野で最先端をゆく『東京』への留学をその手にしたのだった。
それなのに、いや、それだから無残にも殺されたのだ。
私も両親も必死に犯人を探し、姉と同じく学院に通う領主の息子が主犯者である事がわかった。
ーーーだが、それで終わりだった。
証拠を掴んだところを領主に見つかり、私の両親は証人とともに殺されてしまったのだ。
もちろん、私も殺される予定だった。
町中に指名手配のビラが撒かれ、賞金首にもなった。
偶然、近くの森に薪を拾いに行っていたこともあり、私は領主達の魔の手から逃れることが出来た。
ーーーあの時は自身の命が惜しかった。
燃える家を見て、必死で逃げた。
家の前に吊るされていた両親の亡骸で何が起こったのかわかったのだ。
逃げて逃げて逃げて、辿り着いたのは魔都のスラム街だった。
そこには私達と同じく魔族に迫害された人族や亜人達が多くいた。
その中でも反魔族主義を掲げ、魔族の根絶を悲願とする武装組織が私を保護した。
そして、スラムで二年が経過した頃、件の『東京』の司法制度を導入した魔王国の執行機関により、数多の罪状のあったあの領主達が絞首刑に処せられる事を知った。
執行機関に対して私は彼らを自分の手で殺させてくれと嘆願したが、『被害者は加害者を殺すことは出来ない。 それは法律で定められている』その一点張りで取り合ってはくれなかった。
刑は執行され、私の怒りは行き場を無くした。
ちょうどその頃だった、私の所属していた組織に『東京』と魔王国の間で新しく組織された統合軍なるものに入ってみないかという誘いがあった。
しかも機会があれば戦場で魔族を事故として処理しても問題がないという提案だった。
もちろん、正規の勧誘ではない。
確かCIAとか言う組織のグレイという男が持ってきた案件だった。
もちろん、魔族を殺せるのならと思い私を含め多くの者が統合軍に入った。
その後の彼らの動向は分からないが、私は運良く将校になり、部隊の大半を魔族が占める第二十九歩兵大隊に配属されることになった。
ーーーこれはまさに僥倖だった。
また、さらに奇跡は続いた。
リーズ要塞を拠点とする私達の部隊の増援、第三十二独立歩兵中隊も隊員の大半が魔族だという。
それにちょうどいいタイミングでキネロ王国の大攻勢が始まった。
続々と倒れる兵士達。
その光景に胸が高鳴らずにはいられなかった。
ーーーまさに今が命の賭け時だった。
おそらく、今を逃せば百人単位で魔族を殺せる日は二度と訪れないだろう。
だから始めるのだ殺戮のパーティーを。
「はぁ……大尉には色々教え過ぎましたぁ。 あぁ、そちらの国ではメイドの土産なんて言うんでしたね。 使用人の土産って、よっぽど主人が悪いことをしたんでしょうねぇ。 まぁ、いいです。 死んで下さい」
「がっ……さ……サヴィーノ……」
私は容赦なく、リンメルの両膝を撃ち抜いた。
既に床はリンメルの血で真っ赤に染まっていた。
「私、嫌いだったんです。 リンメル大尉のようなぁ、高圧的な人ぉ。 あの糞のように肥え太った地方領主とその息子みたいな感じでねぇ。 ……楽には殺しませんよぉ! ひひっ! 失血死してくださぁい! 皆さん大尉を助けるほど暇じゃなくなるはずなんで」
私は床に這いつくばり、唸るリンメルをそのままに踵を返した。
彼はもう動けない。
放っておけばじきに死ぬだろう。
助けは来ない、いや来れないはずだ。
ーーーさて、こんな
もっと、もっと、もっとだ。
「えぇーと、先ずは武器庫に、車両倉庫かなー」
そう言って私はもう一つの起爆装置をポケットから取り出し、躊躇いなくボタンを押した。
再び要塞内に轟音が響く。
ーーー私の復讐はまだ始まったばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます