忍び寄る悪夢 Ⅺ
「大変です! アッシュフィールド中尉及びチェス軍曹より、リーズ要塞正面に敵兵力あり、その数……十万!」
「なっ! じゅ、十万だと!?」
真っ青な顔で告げるセラフィナ。
おそらく俺の顔も同じ顔色だろう。
ーーーありえない。
キネロ王国側は連日のリーズ要塞攻めで既に十万近くもの兵力を失っているはずなのに、どこから兵士をかき集めてきたというのだ。
まさか、国軍のほぼ全てをこのリーズ要塞に持ってきたとでも言うのか。
ーーーそんな馬鹿な。
この要塞には、そこまでして落とす価値は無い。
ここは単に独立都市『東京』の戦力を誇示する為に作られたに過ぎないのだ。
攻めず、攻められる待ち、それを撃退し相手に無力さを痛感させ交戦意欲を無くす、そのための要塞だ。
だが……やり過ぎたのか、いや、やり過ぎたのだ。
あまりにも一方的に力を見せつけたせいで、キネロ王国側のプライドをズタズタにしてしまったのだろう。
あまりに犠牲を払いすぎて引くに引けなくなったということか。
だからこそ、この要塞は彼らにとって奪われた聖地……そう彼らにとってこれは聖戦なのだ。
ーーーくそっ! これは貧乏くじどころではない!
「……はい、先頭には武装した民間人の集団。 そして後方の河川周辺には総勢二十万……の軍勢が控えてるということです!」
「ご……合計三十万もの軍勢がこの要塞を狙っているのか……」
膝から崩れ落ちるリンメル。
そうだ、この要塞には彼らを向かい撃つだけの戦力はおそらく無い。
いくら現代兵器があるからといっても数の暴力の前には無意味だ。
このままでは無慈悲な死が待っているのは明らか。
ーーー撤退。
ダメだ、輸送ヘリに全員は乗り切らない。
今ある輸送ヘリは第三十二独立歩兵中隊をこのリーズ要塞に運ぶためのものだ。
この要塞に配備されている二機の汎用ヘリコプターを合わせても八機のヘリで定員は三百名強が限度、いくら敵の攻撃で人員が減ってるとはいえ到底乗り切れる数ではない。
それに敵が迫って来ている状況では八機同時に離陸するのは難しいだろう。
誰かが敵を迎撃し、足止めをしなければ安全に離陸することは出来ない。
この要塞に配備されてる二機の攻撃ヘリでも敵の数を考えれば不十分だろう。
ーーー車両を使うか?
いや、これだけのスピードで三十万もの兵士を展開した相手だ、策士と言っても過言ではない。
そんな相手がみすみす俺たちを逃すと思うか。
少なからず、撤退する方面に伏兵を配置しているに違いない。
迂回するという選択肢もあるが地の利はあちらにあるため、それを逆手に取られる可能性もある。
そうだとすると、最善の策は増援が来るまでの防衛戦。
しかし、敵の先頭集団の武装した民間人達はおそらく件の『呪術』の生贄。
撃てば撃った者が『呪術』により死ぬ。
『呪術』の余波の影響を考えると足が出るかもしれない。
それに合計三十万の敵軍の中から敵の魔術師をピンポイントで特定し、始末することは至難の技だ。
民間人達の数が少なければ、兵士を選抜して彼らに撃たせるか。
そうすれば、犠牲は最小限でーーー
あぁ、何を考えている俺は!
ダメだ! 全員が生き残る事を考えろ!
俺は指揮官だ。
皆の命は俺のこの手にかかっているのだ。
考えろ、考え抜くんだ。
諦めるのは死んでからだってできる。
だから今は頭を回せ!
「至急作戦本部に連絡! 増援の手配を! 一個師団、いや二個師団だ! それに……空爆要請! 至急だ!」
「りょうか……大尉……」
声だけでなく、手も震えているセラフィナ。
まさかーーー
「南ブロックで捕虜が反乱……西部中尉が至急救援を求むとのこと……」
「分かってはいたが……これはキツいな」
ーーーやはり敵は既に内部に潜り込んでいた。
もうやめてくれ……。
可能ならばこの場から逃げ出したかった。
どうやら今日は人生で一番最悪な日らしい。
ーーー自らの頭に引き金を引きたくなる気分だ。
もしかしたら俺は既に敵の『呪術』による攻撃を受けているのかもしれない。
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