忍び寄る悪夢 Ⅹ
どうやらセラフィナの表情を見る限り、彼女も同じ結論に至ったようだった。
俺は確認のため、彼女に尋ねる。
「……少尉、これは確認でもあるんだが、『呪術』は既に因果を与えている媒介物に限られるのか? それともこれから因果性を与える媒介物でも構わないのか? たとえば媒介物となるものに『呪術』の術式を事前に組み込んでおいて相手が因果性を与えたときに発動するということは出来るのか?」
「出来ます! 通常の『呪術』よりも大幅に難易度は上がりますがその方法は可能です。 要塞内でこれだけの死者が出ているんです。 相手は成功率を高めるそれこそ生贄を用意しているはずです」
「なら媒介物の予想はついた。 ……だが、もし彼らが媒介物だとしたらその破壊は可能なのか?」
俺の予想が正しければ、生贄、まさにその通りである。
何故、キネロ王国側は武装した民間人をリーズ要塞に突撃させたのか。
ーーーそれは彼らが単なる『呪術』の生贄だったからだ。
『呪術』の媒介物を彼らの命だとする。
そうすると彼らを殺すと言うことは、相手がその命に死という因果を与えた事になる。
今問題となっている『呪術』は、その彼らの命を媒介にして敵を殺すのだ。
「おそらく、その場で失ったモノを破壊するのは困難かと……」
「もう一つ確認だ。 『呪術』は媒介物が術の発動中に無くなったとしても継続して発動するものなのか?」
「そうですね……。 本来であれば媒介物が無くなれば呪術も効果を失います。 ただ、その媒介物と相手との因果性が高ければ高いほど、余韻、とでもいいますでしょうか。 多少の時間は効果が残り続けるという研究結果があります」
「大隊の連中の
「……おそらくあり得ないことではないかと。 ただ今回は媒介物の因果性があまりに強いモノなので確証はありませんが……」
敵の魔術師を殲滅するとしても、その特定や戦闘を考えると現実的に三十分では難しいと言わざるを得ない。
「とりあえずは妥協出来るシナリオがあるってだけで救いだ。 最悪になる前に急いでジルドに知らせろ!」
「了解!」
「ちょ、ちょっと待て! 話の整理だ。 あー、お前達が言ってることは要するに私達が先の戦闘で戦った民間人達が今回の『呪術』の媒介物ということか?」
困惑した表情で確認を求めるリンメル。
無理もない、俺も頭の中が混乱しそうなぐらいだ。
彼や俺にとって魔法というものは、こちらの世界に来て八年経っても理解に苦しむものだった。
「その通りだ、リンメル大尉。 その前に確認だ、サヴィーノ准尉。 ラミロ少佐や他の将校たちは先の戦闘に参加したか?」
ただ、この説を裏付けるためには一つ確認しておくべきものがある。
「……はい、自分たちが率先して引き金を引かねば隊の士気が落ちるという理由で将校たちは皆引き金を引きました」
「やはりな……。 要するにこういうことだ。 敵は事前に突撃する民間人達に自身を殺した者を殺すような『呪術』を仕込んでおいたんだ」
「……それで我々は彼らを殺し、まんまと敵の術中にハマったわけか」
苦虫を噛み潰したかのような顔のリンメル。
彼はここに至るまでに何人の仲間の亡骸を見てきたのだろうか。
無念さは理解できる。
「そうだ。 サヴィーノ准尉、君は先の戦闘で引き金を引いたか?」
「いえ、その時はラミロ少佐の指示で隊の半分とベラスコ曹長とで正門が突破された際の足止めをするべく、正門後方で陣地構築の上待機してました」
「ということは先の戦闘で敵を誰も殺してはいないんだな」
「申し訳ないですが……そうなります」
「任務を果たしたんだ、謝る必要はない。 今は、そうだな運が良かったと思っておけばそれでいいさ」
「そう……ですね」
「少尉、ジルドに連絡はーーー」
俺は各部隊と連絡を取り合っていたセラフィナに話しかけようとしたが、その時ーーー
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