プロローグ Ⅴ
ーーーその都市は全てを飲み込む都市だった。
人々の思い描く夢や理想、そしてその先にある栄光や絶望、醜く歪んだ欲求まで全てを満たすことの出来る場所だった。
大都市『東京』、清濁併せ呑む世界有数の都市は八年前突如として、魔族と人族が長きにわたり争い続ける異世界『ゼロ・フロンティア』に召喚された。
その原因は魔族を率いる魔王国が行っていた大規模戦略魔術実験であったと言われている。
転移当時の『東京』は平日の昼間、住人や通勤・通学者およそ千八百万人。
彼ら彼女らは否応なしに異世界転移に巻き込まれたのだった。
ーーーしかしここは異世界。
元の世界の道理が通用するはずもなく、いくつかの人族の王国は未知の資源や領土を獲得する目的で『東京』へ侵攻した。
不足する生活物資、襲いかかる残虐な異世界人。
混沌とした社会的混乱の中で既存の権力は廃れ、新たな統治機構が登場する。
その名も独立都市『東京』。
野心的なその都市はいつしか『ゼロ・フロンティア』で覇権を唱えるまでの存在となっていた。
友好的であった魔族の国、魔王国を実質的に配下に治め、領土を侵す人族の王国を併合した。
その原動力となったのが、『生き残るため』そんな名目で設立された『統合軍』と呼ばれる軍事組織だった。
現代兵器を駆使する『統合軍』はその技術的優位に基づき、東西南北、四方を囲む人族の王国をほぼ一方的に蹂躙、占領を繰り返していた。
原油や鉱石など生活に必要な物資をその占領地から手に入れることで『東京』は僅か数年で今までと同じような生活水準が送れるようになった。
しかし、敵だけでなく、『東京』の中にもそれを快く思わない者達もおりーーー
『統合軍』の若き将校である吾妻新太郎は今、北方の大国キネロ王国との戦火が交わる地に赴こうとしていた。
ーーーその先に何が待っているかも知らずに。
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