プロローグ Ⅲ
俺は下士官のチェス曹長を呼び出し、率いている二十名の部下に発砲を命じた。
部隊の半数が新兵であったが、随分と人を殺すことがこなれてきたようだ。
彼らはチェスの合図を皮切りに、躊躇いなく引き金を引いた。
まるでドミノ倒しの如く、一人、また一人と王国兵達が倒れていく。
「ちょっ! 少佐っ!?」
驚きのあまり声を荒げるセラフィナ。
しかし、その表情とは裏腹に体は味方が撃ち漏らした敵を的確にアサルトライフルで撃ち抜いていく。
敵の中には盾を構える兵士もいたが、5.56ミリ弾の前には無力だった。
『おい! お前! 何を……』
第三王女の表情は俺からは分からない。
少なくとも深い絶望を味わっていることは確かだ。
もしかしたら彼女は俺のことを慈悲深い青年将校だと思っているのだろう。
だが、慈悲なんてものはとっくの昔に捨て去っていた。
俺達を包囲していたはずの百名近くの王国兵がほんの一瞬で屍の山となった。
「ようやく姫さまも大人しくなったか。 ……残念だったな、俺は正義の味方でも義賊でもなんでもない。 ただの賊だ。 ……それこそ悪の帝国のな」
「少佐、やり過ぎでは……」
「やり過ぎぐらいがちょうどいい。 これは高度に政治的な問題だからな」
そうこれは高度に政治的な駆け引きなのである。
ーーー俺達に手を出したらどうなるかと。
それを国家元首や側近の有力貴族達が自ら体験することに意味があった。
「中尉、王様っぽい奴がなんか喋ってるんだが何て言ってるんだ?」
「はぁ……ロクでもない事を言ってる事ぐらいはわかりますよね? 少佐に対する罵声と呪詛の言葉ですよ」
既にキネロ国王は正気を失っていた。
俺達に対し、そして周囲の側近達にありとあらゆる罵声を浴びせていた。
そして悲しいかな、もうこの場にいないはずの兵士達に俺達を殺せと命令している。
「そりぁいい。 ……ふむ、あの王様の隣にいるのは宰相と次期国王の皇太子か」
そんな国王を必死に宥めるのは宰相である髭面の老人と次期国王である事が決定している第二王子で皇太子のオスヴァルトだった。
「……そりぁいいって。 ……ええ、情報部から送られてきた写真に載っていました。 彼が皇太子のオスヴァルトに間違いないかと」
「……皇太子の方は邪魔だな」
オスヴァルトは単に容姿淡麗な青年であるだけでなく、現国王と異なり内政・外交共に秀でた才能を示していた。
しかもその清濁併せて呑む技量は敵にすると厄介この上なかった。
少なくとも俺が遂行中の作戦の障害になることは明らかだ。
ーーーこの国に優秀な人間はいらないのだ。
「……はぁ、後でどうなっても知りませんよ」
「どうせやるなら徹底的にだ。 じゃないと犠牲になった者達は浮かばれないだろう?」
そう、随分と彼の手法に殺られていた。
だから、見逃すはずもない。
俺はショットガンから持ち替えた拳銃でオスヴァルトの頭に狙いを定め、引き金を引いた。
『なっ! 嘘……兄上ぇぇぇぇぇぇ!』
二度の発砲音の後に第三王女の悲鳴が響き渡る。
ーーー彼女は彼を慕っていたのだろうか。
頭に九ミリ弾丸を二発も撃ち込まれ、その場に崩れ落ちるオスヴァルト。
キネロ王国側の誰もが衝撃のあまり眉一つ動かせない。
これでやっと彼らも気付くことだろう。
既にルビコン川は渡っていたということを。
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