プロローグ Ⅱ


「ひいぃぃぃー! やっはぁっー!」


 ここは異世界、通称『ゼロ・フロンティア』。

 数ある人族の王国の一つ、キネロ王国の王城だった。

 統合軍の兵士である俺、吾妻アズマ新太郎シンタロウは少数の部下を引き連れてその王城の最深部は踊り出ていた。


 周囲にはプラスチック爆弾で吹き飛ばされた堅牢な大扉がくるくると舞い、その爆発の威力を物語っていた。

 目を丸くするのは王城の持ち主であるキネロ国王を始めとした側近や護衛の兵士達。


 ーーー無理もない。


 彼らは俺達の兵器、いわゆる『現代兵器』の威力を見るのが初めてだった。

 例えば、この部屋の扉であれば彼らの基準からすると、破城槌はじょうついを用いて何度も叩いてやっとこじ開けられるほどの堅牢さを持ったものだ。


 それが爆音と共に一瞬で吹き飛んだのだ。

 彼らの常識を考えれば到底理解できる状況ではない。

 それに俺が抱えているにも大きな問題があった。


「はっはぁ! いいねぇ!」


 ショットガンを片手に周囲を威圧する。

 気分はさながら大航海時代の海賊、それもスペイン王の財宝を奪い取って海軍中将にまで登り詰めたフランシス・ドレイクの気分だ。

 金銀財宝に、女まで盗みまさにやりたい放題。


 ーーーまぁ、その時代にショットガンなんて物は無かったのだけど。


 一方の迎え撃つ王国兵達が装備するのは剣や槍などの旧世代の武器であり、ショットガンやアサルトライフルを始めとした現代兵器を装備する俺達に敵うはずもなかった。


「……はぁ。 おそらく少佐は生まれてくる時代を間違えたのかと思います」


 ため息一つ。

 苦言を呈するのは隣に立つ副官のセラフィナ・マドリガル中尉だった。

 翠玉色エメラルドの瞳とその尖った耳が特徴的な彼女はどうやらこのノリはあまり好きではないらしい。


 ーーーまぁ、こんな状況だ。

 それに彼女は女性だということもあり一家言あるのだろう。


 一方の古参の部下達はやりたい放題、既に堅気では無いオーラを出している。

 ーーーおい、誰だ。 侍女を担いでいるのは。


「はっはぁ! そいつは心外だな。 異国の姫をさらって金銀財宝を盗み出す! これに心踊らない少年はいないさ!」


「少年って、いい年して何言ってるんですか……」


 今年で三十になる。

 男は、いや漢はいつになっても心は少年なのだ。


『ぐっ! このっ! 離せ!』


 俺の肩で担ぎ上げられている鎧を纏った騎士姿の少女が喚く。

 その言葉は今俺達が話している日本語とは異なり、この国の言語であるキネロ語だった。

 士官学校時代にキネロ語とほぼ同じ言語体系のルーラクス語をそれなりに学んでいたため、彼女の話す言葉の大半は理解できた。


「へいへへーい!」


『ひゃぁ! やめっ! 何をするっ!』


 そこにケツがあるのなら叩かない奴はいないだろう。

 まさに山登り理論と一緒である。

 スカート上の鎧を捲り上げて叩き込むこの平手打ちは何とも背徳的である。

 ちなみに彼女は先程、失神するほどのスタンガンの電流を受けて反抗できる状態では無かった。


「いいねぇ! 可愛い声上げちゃって! 続々するなぁ!」


「少佐、それはかなり不味いのでは……」


「問題ない、問題ない、無問題モウマンタイ。 いやぁ、楽しくなってきたなぁ! ほれ! ほれ! ほれ!」


『あっ! ダメっ! やめぇ!』


「少佐……言い難いのですが敵の親玉の目の前ですよ。 むしろその人の親の前と言いますか……」


 目の前の玉座に座るキネロ国王は憤死する一歩手前じゃないかと思うほど顔を真っ赤にしていた。

 まぁ、無理もない。

 今俺が担いで尻を叩いているのはこの国の第三王女。

 彼の娘であった。


 王を囲む周囲の側近達は気まずさを感じているのだろう、大半は出来る限り彼女を見ないように必死に目を逸らしていた。

 ただ一部熱心な眼差しを向ける下卑た男共もいる。

 ーーーまったく、クズ共め。


 取り囲もうとする護衛の兵士達も、俺をヤバい奴と認識したのか、一定の距離を置き、それ以上近寄ってこなかった。

 ーーーまぁ、それが狙いでもある。


「大丈夫、大丈夫! ヤバい奴だと分かってもらった方がこちらとして都合がいいから。 へいへへーい!」


『あっ! このっ! あっ! くっ! 殺せっ! あっ!』


 いい悲鳴を上げる。

 これはこれで癖になりそうだった。

 ちなみにこんななりでも俺は軍人。

 今は重要な作戦、『夜明けの乙女』作戦の遂行中だった。


 その作戦の肝が、このくっ殺姫騎士と目の前にいるキネロ国王。

 作戦目標の一つはほぼ達成。

 もう一つはキネロ国王に俺がヤバい人物であると思わせる事だった。


「充分ヤバい奴ですって! 親の前でその娘をスパンキングするなんて……」


「確かにな。 だが、もっとヤバい奴だと思ってもらわないとな! ……そうだな、チェス! ここにいる近衛共を全員始末しろ!」


「はっ!」


 これは誰も死なない笑い話で済むような喜劇ではない。

 ふざけているように見えて歴としただった。

 ーーーだからもちろん人は死ぬ。

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