第30話 ビッグウェーブ


ミウにおやすみのキスをされた後の記憶はなく、たぶん風呂に入り、気づいたら自分のベッドに横たわっていた。


 どのくらいの時間暗い部屋で横になっていたのかはわからない…ただふと気がつくと俺は大の字で横になっていたのだ。


 濃厚で濃密な一日を過ごして、ようやく自分のキャパシティーを超えた出来事が『二度』も起こり白金アキラの脳はオーバーフローに陥りようやく意識が覚醒する。

 そうして少しずつであるが今日一日に起きた出来事を冷静に思い返す。


 「なんという日なんだ…」


 そうしてなんとか絞りでた感想がこの一言である。


  「ヒカリと…ミウと…キスしたのか…俺は…」


 ふわふわとした心で二人との出来事を思い返す…


 「う…うぁああ…あぁあああーーー(声にならない)」


 枕に顔を押し付けて叫ぶアキラ。ヒカリと「さよならのキス」もそうだがミウに俺の全てをぶつけた事、そしてその後ミウから「おやすみのキス」をされた事を思い出した途端、冷静な心は失われて行き場のない恥ずかしさが全身を駆け巡り、なんとか枕に大声を出し脚をバタバタとベッドに打ち付けてどうにかむず痒い気持ちを鎮めさせる。そういったシンプルなストレス発散方法でアキラは心を冷静にさせた。


 「はぁ…はぁ…」


 まだ息遣いは荒いが心は少し冷静になれた…思いっきり脚をベッドに打ち付けてバタバタしたため少し痛みが残るがその痛みで時間と共に頭がクリアになっていく…


 当然ミウが俺にした事の意味を考えざるを得なくなり、むず痒い心を押さえつけながら冷静に考える。


 「なんでミウが…俺に…」


 当然の疑問である…いくら仲直りした後とはいえ何の感情もなくキスなど出来るものか?


 もちろん俺はしたかったよ?大好きで大好きで大好きなミウだもん。だけどそれをするなら俺からだと思っていた…綺麗な夜景が見えるレストランを貸し切りにし、ミウの好物ばかりをたらふく食べさせ、食後にノンアルコールのシャンパンを注いだグラスを二人手に取り見つめながら俺がこう言う…


 「ミウ…二人でこの景色を見ながら食事出来るなんて俺は本当に幸せ者だ(少し眼を伏せながら沈黙した後)………だけど可愛そうだな…」

 「なにが可愛そうなの…兄さん?」


 疑問に思いミウは真意を探ろうと更に俺への意識を向けて眼を向けるはず…そしてミウの眼をまっすぐ見つめながらこう言う


 「ミウがいるからこの景色が可愛そうって事さ…」

 「ど、どういう事??兄さん…私がいるからこの景色が台無し…って事?」


 意味がわからないという風に俺を見ながらあたふたしながら意味を尋ねるだろうミウ


 そして俺は渾身の決め顔とイケボで言ってやるのさ


 「逆だよミウ。だって…(ここで溜める)ミウが綺麗すぎてこの100万ドルの夜景すら霞んでしまうから…この景色が可愛そうってさ(キラッ)」


 「に、兄さん…(うっとり)」

 

 「ミウ…(キラッ)」


 二人は見つめ合い、互いの顔が近づいて行き…そして…


 ってさ…はぁーうまく行かないもんだなぁ世の中。なんてミウとどんなキスをしたら最高にかっこいいかと妄想した中の最も有力候補だった1つを思い出しながら思いにふける…


 と同時に、同じ日に、二人の女性からキスをされた事を疑問に思った。


 「あれ…………もしかして…」




 ここで一つ。人間というのは非現実的な物事に出会った、目撃した、体験した場合、その現実が受け入れられずに自分を納得させられる最大公約数的な言い訳を考えてそれが現実に起こった事なんだと、今見た、聞いた、体験した事は勘違いで、本当に起こった事は実は違うんだ・・・と自分に言い聞かせて記憶を捏造させる。

 そうしなければもし、本当に非現実的な物事に出会ってそのまま受け入れてしまうと心が壊れてしまうからだ。

 白金アキラもその考えに至った一人であり、今日起こった出来事をそのまま受け入れてしまうと心が壊れてしまうという無意識の拒絶反応から白金アキラはこう結論づけた。



 

 「今JKの間であいさつにキスするのって流行ってるのかな…」




 たった一つ。一つだけでも自分が納得のいく理由が頭に閃いた時、その考えはもう疑えない。真実とは違っていたとしても白金アキラはその考えを『軸』にして今日あった出来事をもう一度思い返す。


 するとどうだろう…


 「JKの間で流行っているあいさつだけど…恥ずかしかったから俺に眼を瞑らせた…逃げるように去って行ったのも頷ける…ふむ」


 古今東西JKの流行など知っている男子がどこにいるか。否いないだろう。

 彼女たちは何を考え、何を思い、何がおもしろいと感じているかさっぱりわからないのだ。すぐ近くにいるヒカリやその友達のアカネ、ましてや一つ屋根の下で暮らしているミウですら何が今流行っているのか俺にはわからないのだ。


 『今JKの間で流行中「あいさつキッス!!!」〜これをしなきゃJKじゃないッ♪〜』

 

 なんて雑誌の拍子にデカデカと書かれていても俺はたぶん気づかずスルーしているはず…もし、万が一そんな事が流行になっていたら?今日起こった出来事はJKの間で少しの間話題に上がる程度の流行で、深い意味などないとしたら?


 それをヒカリとミウがビッグウェーブという名の流行でやっていたとしたら?それに踊らされていただけだよな…俺…


 グルグルグルグルと思考しやはり見当違いな結論にいたるDK(男子高校生)


 「やっぱりあいさつ程度の事なんだこれは…」


 一度腑に落ちた出来事はそう簡単には覆せない。たとえそれが間違っていた事、真実でない事だとしても本人がそう納得してしまえば他の人達が何を言おうと覆ることは簡単ではない。


 そうして今日の出来事を一つ一つ当てはめて考えていくと全て辻褄が合う事、そして重大な危険事態に陥っていることに気づく。


 「他の人にミウがあいさつでキスしたらどうすんだ!?!?」


 沸々と怒りが込み上げてきた…


 「あいさつだとしても!!許せない!!!」

 「ヒカリもだ!!簡単に他の男子とあいさつ感覚でキスされたんじゃ俺の恋人として、愛しの妹であるミウの評判が下がる!」


 アワアワアワと焦りだし、居ても立ってもいられなくなったアキラはスマホを取り出しヒカリとミウにメールする。


 『今回の事は気にしないから。だからもうしないで』


 「あ、他の人にしないでって書こうとしたけど…めんどくさいからもういいや送っちゃえ」


 二人にそれぞれメールを送り、ようやくアキラは心から安堵した。

 ヒカリもミウもただJKの流行りってだけで俺にキスしちゃったなんて思い返したらなんであんなことを…なんて眠れない日々を過ごしてしまうかもしれないからな…俺はもう気にしてないよって言っておいたほうが良いような気がした…



 ふぅ〜なんだかすごい疲れた…あれ?安心したら…瞼も重くなってきて…ね…むい…


 意識が薄れていく中、ヒカリとミウにキスされた唇にふれる。

 

 「ふふっ…」


 


 理由はどうあれ二人からはじめてキスをされて嬉しかった…良い夢が見れる様な気がする…と薄れゆく意識の中思う…






このメールによってまたしても溝が広がってしまうとは夢にも思わぬアキラであった。


 


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