第27話 ミウ視点その2

 ミウ視点その2



 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


 思った事全部伝えたら恥ずかしくて、泣きそうになって走って逃げてきちゃった…


 全速力で逃げたミウはどこか思いを伝えた事によって晴れた顔をしていた。


 「けど私の思いちゃんと伝わったよね…」


 兄さんともっと一緒にしゃべりたい…今までちゃんと話せてなかった分今度こそ、向き合いって、ちゃんと兄さんと普通に話したい。


 今まで私も兄さんの事を意識しすぎて少し避けていた事はたしか(恥ずかしくて)…だけど避けられるのがこんなにも辛くて悲しい事なんて私知らなかった。

 

 (私変わらなきゃ…ちゃんと向き合わなきゃ兄さんと…いつまでも兄さんの後ろを歩いている妹、白金ミウじゃなくて…)


 今までの私の甘い考えじゃ兄さんを傷つけてしまうだけかもしれない…こんな風に思えたのは兄さんが私のために身体を張って、危険を顧みずに私の事を助けてくれた事…ずっとずっとこのままじゃイケないと思っていたけどようやく本当の意味でわかったような気がする


 その時ピロンとメールの着信音がなった。兄さんからだった。


 すぐそのメールを開くとそこには


 『今日はドク男の家に行くから遅くなる。夕食は先に食べてて。兄より』


 「…」


 私兄さんに本当に嫌われちゃったのかな…そう思いながら午後の授業を終わらせ帰路につく…


 


 




 白金家




 授業が終わるすぐに帰ってきたミウ。家に帰ってすぐに向かった先は兄さんの部屋であった。

 部屋を開けてすぐさまベッドに大の字でダイビングするミウ。ボヨンと3回程跳ねてからようやく落ち着きを取り戻すベッド。

 無駄に大きいベッドに横たわり兄の枕を探してギューっと抱きつく。


 「…兄さんのバカ!!!」


 せっかく私が勇気を出して、震える脚に喝を入れて兄さんとドク男という兄さんの友達の前に行き想った事を赤裸々に話したのに…今日は遅くなる!?!?ひどい!!


 バンバンバンっと


 抱きしめた枕をベッドに叩きつけるミウ


 「はぁ…」


 兄さんの枕に全てのストレスをぶつけて冷静になる


 「兄さん早く帰ってこないかな…」


 ベッドの上で制服姿のまま体育座り兄さんの枕を足に絡めて抱きしめる…


 兄さんの不器用で少し挙動不審な仕草で話しかけてくれる兄さん。私が話しかけたら少し嬉しそうな顔をして、だけどちょっとどもって話し返してくれる兄さん。私の入れるコーヒーをおいしい。と言って毎朝飲んでくれる兄さん。私の小さい頃夢だった家を建ててくれた兄さん。そのために毎朝早くからお金を稼ぐために働いて、それを私にバレないように、心配かけないように毎日気を使ってくれてる兄さん。…私の大事な兄さん…


 一人でそんな事を考えていたら無意識のうちに心のうちが漏れていた


 「さびし…」


 枕に顔を押し付けて息を吸うと兄さんの匂いがする。その匂いはミウを落ち着かせてくれる唯一の匂いであった…


 「兄さん…」


 そのまま横になって兄さんの匂いに包まれたままミウは眠りについてしまった。






 「う…うぅ…」


 目が覚めると兄さんの部屋で枕をギューっと抱きしめたまま寝てしまっていた。


 「あっ…」


 カーテンの隙間からもう外は暗くなっている事がすぐにわかった。


 急いで部屋着に着替えてリビングに向かう…リビングの明かりは付いておらず、まだ兄さんは帰ってきてない。時刻はとうに7時をまわっていた…


 「遅いなー兄さん…お風呂入ろう」


 風呂に湯をためて湯船に浸かる。髪の毛をひとまとめにしてゆっくりと足から浸かる


 「んっ…はぁ〜」


 一日の全ての疲れを癒やしてくれるお風呂。ミウの一番の楽しみはお風呂に浸かりながら色々思いにふける事であった。湯船に浸かりご機嫌になったミウは


「フッフーン〜♪兄さんまだっかな〜まだ帰って来ないかな〜♪ミウは寂しい♪っけどお風呂はきもちぃ〜〜♪フッフフ~ン♪」


 この通り上機嫌である。今までの兄さん…(悲しい)的な雰囲気はどこへやら。普段は兄さんがいるから鼻歌を抑えているが兄さんがいない今。この時は自由で開放的であったミウは今まで鼻歌など歌った事もないのに鼻歌を歌う。


 (はぁ〜極楽〜♪)


 しっかり温まったミウがお風呂から出たのは午後8時過ぎ…髪の毛も乾かして寝間着に着替えてからリビングで夕食にする。今夜は一人なので簡単なサラダとフルーツのみで軽く済ませた。


 兄さんの部屋で至福の一時を過ごし、寝てしまったミウが遅い夕食を終え、その皿を洗い終わった頃、外で誰かの声がした。


 「ーーーーーった事ない!!!」



 (!!?今の声…ヒカリさん??)


 うちまで響くヒカリさんの声にミウは驚きを隠せなかった。


 (今外から聞こえたよね…どうしたんだろう…)


 リビングのカーテンの隙間からミウは外の様子を伺う…



 そこには兄さんとヒカリさんが手を繋ぎながら玄関の前で話しているのが見えた。


 (兄さんとヒカリさんが手握ってる…ズキッ)


 心臓付近がチクリと痛む


 (わかってた事じゃない・・・兄さんとヒカリさんが付き合ってた事は…)


 自分の胸に手を当てて押さえつけるミウ…


 (だけどなんだか言い争ってる感じがする)


 困った顔をした兄さんにヒカリさんが色々言っているのが見えた。だけどしばらく色々言い争った後お互い落ち着いたらしくそのまま話をしている。


 (良かった…ケンカじゃなかったのね…)


 チクリとまた胸が痛む…なんで?兄さんとヒカリさんが仲直りしたのにどうして痛むの…


 そんな事を想っていたらヒカリさんが兄さんに向かって顔を…


 (え?)



 それは恋人同士だったら当たり前に通る道であり、愛し会う二人なら当然行う行為…『キス』



 

(う、嘘…)



 見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない…



 だけど目が離せなかった…



 私のファーストキスを捧げたいと想った相手、私の事を一番に想ってくれていると思っている相手、私の人生全てを捧げたいと思っていた相手…それは同じ想いだと勝手に思っていた…だけど違った。



 「あ…ぁ…」




 

 ミウの瞳には二人が口づけする姿がはっきりと映し出され、その瞳から大きな涙が一粒こぼれ落ちるのであった。





 




 


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