第25話 「ナニカ」が…

帰り道


 「…」

 「…///」


 手を繋ぎながら俺とヒカリは帰路に立っているのだがお互い何も話さないで歩いている。


 (うぅぅ気まずい…なんでヒカリなにも話さないんだよ…)

 (ど、ど、どうしよう!!本当にアキラくんと手繋いで歩いてる!!)


 顔が熱くなり、心臓の鼓動がずっと高鳴っているのがわかる。手が汗ばんで嫌な思いしてないか。自分のこの鼓動が手から伝わってしまっているんじゃないかと様々な事を考えてヒカリの頭は絶賛キャパオーバー中である。


 (し、しょうがない。ここは男である俺から話題を振るしかないよな…)


 そう意を決してヒカリに話しかける


 「あのさ…改めてありがとうなヒカリ…」

 「えっ?」

 「いや…ミウの件もそうだし、今日だってヒカリに助けられて…俺って本当しょうもないよな…」



 自分で言っててまさにその通りだと思った。妹一人とまともに話せず、友達にまで迷惑かけて、それをヒカリは全て解決してくれている。


 なぜそこまでヒカリがそこまでしてくれるのかとふと思い


 「ヒカリはどうしてこんな俺にここまでしてくれるんだ?」

 「どうしてって…「彼女」だから…」

 「それはミウの気を引くためにヒカリが作戦を考えてくれた一つの案じゃないか」

 「それは…そうなんだけど…」



 下を向くヒカリ…あれ?俺なんか変な事言ったか?ヒカリが悲しい顔をしているような気がする…



 「ヒカリのためにも俺はミウとちゃんと向き合わないとな…俺甘えてたのかもしれないわ」

 「えっ?」

 「俺とミウとの関係に行き場のない悲しみを感じて…ヒカリならどうにかしてくれるってさ…そんな思いで意を決してヒカリに相談したんだ。そしたらヒカリは一つ返事で「私にまかせて」って言ってくれて…だからさ…」


 そう思い今まで俺に接してきてくれたヒカリを思い出す…どうしてそこまでして恋愛マスターのヒカリが俺みたいな男に良くしてくれるのか…幼馴染だから?それともただ相談されてほっとけなかったから?

 色々な考えが巡ってくる…どうして俺ヒカリがこんな良くしてくる事に真剣に向き合ってこなかったんだろう…



 (いや違うか)


 俺がここまでヒカリの迷惑になってるのに嫌な顔ひとつせず付き合ってくれてる事がヒカリの負担になってるはずだ…もしかしたらヒカリ本人は気づいていないのかもしれないな…





 だから…



 だからこそ…





 「『恋愛マスター』の力を頼るのは今日までにしようかな…」







 そう言葉にした瞬間ヒカリの歩く足が止まった。

 どうしたんだろうと思うともうそこは俺の家の前で、リビングの明かりがカーテン越しに明るくなっているのが見えた。



 (ミウ…)



 きっと一人で食べるご飯は寂しかっただろ。一人で家でにいるのは寂しかっただろ。「ただいま」って言って誰もいなくて返事がなくて寂しかっただろ。俺もミウと一緒にいれなくて寂しかった。どうしてうまくミウの前だと言葉にできないんだろう…


 そんな事を考えながらリビングの明かりを見ていた俺。その時ギュッと俺の手を握るヒカリの手に力が入った…


 「今日までにしようってどういうこと?まだ何ひとつ解決できてないじゃない」

 「さっきも言っただろ?俺がミウに一人で向き合わないとこの先ダメだと思うんだ…ヒカリにこれ以上迷惑をかけられ…」


 「ない」と言おうとした瞬間


 「迷惑なんて思ったことない!!!!!!!」



 静かな住宅街に響く予想以上に大きな声を出したヒカリに思わずびっくりした。

 俺の記憶ではヒカリがこんなに大声出したことなんて一度もないぞ…


 「私が!…私がアキラくんのためにやりたくてやってるの!!!だから…私のためとか言ってこの関係をやめないでよ…」

 「でもこのままヒカリに甘えっぱなしっていうのもさ…」

 「いいの!!それでいいの!!!アキラくん私との約束ちゃんと覚えてる!?」

 「え、えっと…なんだっけ…」


 どうして覚えてないんだ俺!!頭を回せ!大事な事で覚えているはずなのにヒカリの迫真に迫る勢いで思考が追いつかない


 「恋愛マスターの言うことは何よりも最優先…って言ったわよね」

 「あー…たしか…に」



 そういえば言ってた。相談したその時に。俺とヒカリが『恋人』として人前に立つ前日に…


 「だから…私から言わせたらアキラくんはまだまだなんだから!今一人でミウちゃんと向き合っても少し良くなるだけで何も変わらないと思う」

 「う…そうなんですか…?」

 「そ、そうよ!だから…まだまだ私から学ばないとイケない事がたくさんあります。だからさっきの言葉は聞かなかった事にします。それに…」



 ボソっと嘆くように




 「やっとアキラくんと友達以上になれたんだから…」


 「え?それに…なんだって?」


 小さい声でヒカリの声が聞こえなかった


 「な、なんでもないわ!とにかく!まだミウちゃんとアキラくんはちゃんと向き合って話せてないんだから!私がちゃんと解決方法を用意してあるから安心して!アキラくん」

 「お、おぉおお!!!!!!!!!!本当かヒカリ!さすがヒカリ!!天才ヒカリ!!!いや〜ぶっちゃけどうしようかと思って…がんばるって言ったけど…死ぬ気でミウに体当たりして突っ込むしかないかなと思っていた所なんだ…」

 「ふふ〜んでしょ?伊達に恋愛マスターやってませんから…それにそんな事したらミウちゃんは家を出ていきます」

 「うっ…(良かったやらなくて…)で!?どうすれば良いんだ??」

 「そ、それは…」


 下を向き脚をモジモジさせる。




 「じ、じゃあ…」


 「うん」



 こちらを向いたヒカリは少し眼に涙を溜めているのかウルウルさせて頬を赤らめている。

 その顔を見た俺意外の男子だったら悩殺されているに違いない…



 「もう一つだけ恋人らしい事をしたら…明日教えてあげる…」

 「え?本当か!?ぜひやってくれ!」



 俺はこれ以上ミウとギクシャクした関係は終わりにしたい一心でミウのその提案に乗った。




 「じゃあ目を閉じて…」

 「ん?あぁ…」



 目を閉じてどうするんだろう…何かびっくり箱とかこの間に用意されていて、この箱をミウちゃんにプレゼントしたら全て解決します!とか…そんなわけないか…などとバカな事を考えていたら…









 ………………チュッ




 !!!!?????


  唇に暖かく、プルプルした「ナニカ」が触れた…


 「え?」


 手を振りほどき、クルッと踊るように反対に向いてモジモジするヒカリ…


 チラッと俺の方を向きそして


 「恋人ならこういう事だってするんだから…」

 「え…」


 りんごくらい顔を赤らめたヒカリがそう言った。そしてすぐに


 「それじゃ…おやすみ///」



 そう言って物凄い速さで帰って行ったヒカリ…



 思考が追いつかない


「え…これって…」


 呆然とその場に立ち尽くす俺…







 その姿をリビングの明かりが漏れるカーテンの隙間から何者かが見ていた事を…この時の俺はまだ知らなかったのであった。






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