第24話 略して「ドクカレー!」

 シュッ


 音も気配も消してヒカリの背後に立つ。

 そして肩をトントンした


 「きゃ!いつの間にアキラくん私の後ろに!?」

 「ほぉ〜こりゃすごいな!!」

 「へっへ〜ん!でござる!」


  あの後ドク男から



 「あ〜そこはもっとシュッと脚を引くでござる!」

 「ちがうでござる。顎がですぎでござるよ?」

 「そうでござる!移動する時はスカートを覗き込むような姿勢で!!」

 「ちがうでござるよ!!覗き込むような姿勢でござるが相手に悟られてはいけないでござる!!そこにこの技の真髄が込められているでござる!!」


 等々2時間に渡り指導してもらった結果俺はドク男命名「ストーカーの極」略して「ストキワ」という技を伝授してもらった。


 「いや〜しかしアキラ殿の運動神経にはびっくりでござる!まさか3年間試行錯誤して編み出したこのストキワを2時間でモノにするとわ!」

 「ドク男…いや、師匠の指導が良かったおかげです。ありがとうございました!!」


 俺は100度のお辞儀をして「ストキワ」を伝授して貰った感謝をした


 「そんな技覚えてどうするのよ…まさかとは思うけど…」


  ビクッ


 「ち、ちがうよヒカリ。純粋にドク男の技がすごかったから俺も習いたいと思っただけさ。それ以上でもそれ以下でもない。男なら技の一つや二つ持ってないといざという時にだな…」

 「私の思い違いじゃなければいいけどアキラくんはそんな事しないもんね。私のはやとちりだったわ」

 「そ、そうだよハハハハハ」


 背中にじんわり冷や汗をかいた。ヒカリに俺の考え全てバレてるんじゃないの?ってくらい感が鋭い時がある…「ストキワ」をするタイミングを考えなくてはな…てかなんでずっと俺の制服で顔を隠してるんだろう…と考えていたら


 「ささ!アキラ殿の「ストキワ」会得祝に拙者が晩御飯を用意するでござるよ!少し時間がかかるでござるからお茶でも用意するでござるね!」

 「えっ?そんな悪いよドク男くんの家にお邪魔して晩ごはんまでなんてさ」

 「いえいえ!拙者いつも一人でご飯食べてる故誰かとこうしてご飯を食べるの楽しみなんでござるよ?それにアキラ殿のお祝い事も兼ねてるから遠慮しないで拙者にまかせるでござる!」


 毎日一人でご飯…そりゃ寂しいよな…今度ドク男もミウが家にいない時に誘うかな…ミウの家着姿など俺しか拝ませるつもりはない!!!


 とにかくこんな楽しそうなドク男はあまり見たことがないので遠慮するのは逆に失礼だと思い



 「なら遠慮なくドク男の言葉に甘えるとするかな」

 「アキラ殿ならそう言ってくれると思ったでござる!じゃ準備するから待つでござる〜ドロン!」


  一瞬でドク男の姿が消えた…


 「すごいなやっぱドク男は」

 「私ドク男くんの事あまり知らなかったけどすごい人なのかもしれないわね…」


  すぐにドク男が麦茶をテーブルに置いてくれて俺とヒカリは席に座る


 「好きなだけフィギュア見てよいでござるからね〜あ、でも触っちゃダメでござるよ?」


 と言われた。誰がこんな大事そうにショーケースに飾ってあるフィギュア触るかよと思ったが冷静に見回すと本当にすごいな。


 二人であらためてフィギュアを見回すとそこでヒカリが「ご飯食べてくるって連絡してくるね」と席を外した。






 (それにしてもドク男は何者なのだろうか?こんな広いマンションに一人で住んでてそれにこのフィギュアの数、謎に武術に通じてる所を見るとただの金持ちの家とは思えない…)



 そんな事を考えながら部屋を見合わして居たら一つだけ隙間の空いたドアがあった




  「ドアくらいちゃんと締めてあげるか…」


 ふとそう思い俺はその部屋へと近づきドアを閉めようとドアノブへ手をやった。

 決して故意じゃない。気になって中を覗き込んだとかそういうことじゃない。本当にたまたまその時隙間から見えただけなのだが俺はその部屋にある物に驚愕せざるを得なかった


 (な、なんだこれ…)


 そこはウォークイン・クローゼットだった。


 百はくだらない程の衣類が丁寧に整理整頓されかけられている。問題はその種類だった


 (フィギュアで女の子が着ている衣装がいっぱいある!!)


 その部屋には女の子のフィギュアが着ている服装や高級ドレスといった衣類が部屋一面にかけられていたのだ。


 (うん)


 ガチャリとドアを締めて何食わぬ顔をして席へ戻るアキラ


 「見なかった事にしよう」


 まさかドク男にこんな秘密があったなんて…普段学校では想像できないとんでもない秘密を隠していたとは…


 「ま、まさか女装趣味とは…」

 「え?アキラくん何?」

 「うぉ!!」


 突然電話から戻ってきたヒカリが俺の独り言を聞いていた。この事は絶対に秘密にしておいた方が良いと本能的に感じたアキラは何食わぬ顔をし



 「い、いやドク男の作る料理ってどんなだろうなってさ」

 「そうね。まさかドク男くんの家でご飯食べると思わなかったけどね〜料理楽しみ」

 「そうだね」


(あっぶねぇ〜〜いつの間にか声にだしてた!?!?ドク男の秘密10秒も死守できないところだったよ!!だけど安心してくれドク男。俺は女装とかコスプレとかに偏見はないからな。お前はお前でその道を謳歌してくれ)



 眼閉じさっきの部屋の事は心に閉じ込めておく事を固く誓う


 すると突然キッチンからおいしそうな匂いが漂ってきた。



 「お!この匂いは」

 「カレーみたいね!おいしそうな匂い〜」


 そう言ってヒカリと俺はキッチンから漂ってくる匂いを嗅いで空腹を満たそうとする…


 「所でさ…」


 俺はヒカリの顔をじっと見つめる


 「な、何?アキラくん…」

 「いつまで俺の制服抱いてるの?」

 「え…あ!!!…ごめんなさい」


  顔を赤らめながら俺に制服を手渡すヒカリ



 「お、おう」

 「//////」



 そこへドク男が俺たちのカレーを持ってきた



 「出来たでござるよーー!!拙者オリジナルカレー…名付けて「ドク男オリジナル!アニメに出てくる具材ゴロゴロカレー!」略して「ドクカレー」でござる!!」

 「変な略しかたするな!食欲が失せる」

 「ひ、ひどいでござる!!」

 「ふふふ。名前はともかく、本当においしそうなカレーね!」

 「ささ!カレーは熱いうちに限るでござる!召し上がれ」


 そうして皆で席に突いてドク男が作ってくれた「ドクカレー」を目の前にし



 「「「いただきます!」」でござる!」


 食事を終え、おかわりまでした俺の腹は満腹となった。

 味は言わなくてもわかるだろ?超絶品。「ドクカレー」を店のメニューに加えたいくらいであった。見た目のインパクト、そして大きい具材が食べづらいかな?と思うがスプーンで撫でるだけで切れてしまう肉と野菜。そしてルーの味は見た目のインパクトが霞むほど繊細且つ大胆な味であり、どこまで手を込めばこの領域に達するのか想像出来ない程手間がかかっていた料理であった。


 俺の食べたカレーの中で胸を張って『NO.2』と言える。

 もちろん『NO.1』はミウが作ってくれたカレーだ!


 「本当においしかったよ。この味はたぶん一生忘れないと思う」

 「口に合ってよかったでござるよ!」

 「良ければだけどまた作ってくれないか?」

 「私も〜こんなおいしいカレー初めて食べたわ!」

 「ふふふヒカリ殿も気に入ってもらえてうれしいでござる!また機会があればいつでも作るでござるよ!」

 「やった♪」


 こうして他愛のない話をしていたらすっかり夜遅くなってしまい、今日はここでお開きとなりドク男家から直通のエレベーターに乗り込む


 「短かったけどこれで師弟関係も終わりだな!」

 「アキラ殿の筋が良くてびっくりでござったが拙者の見る目は間違いなかったでござるな」


 ガシッと握手を交わす


 (あれ?ドク男の手ってこんな小さかったんだ…)


  そんな事を思いながらドク男の手を見る 

  その視線に気づいたドク男がすぐに手を離し…


 「男同士そんな長く握手するもんじゃないでござるよ!それに…」


 ドク男はヒカリを見て


 「そんなに手を繋ぎたいなら恋人のヒカリ殿と帰り道たっぷり繋ぐと良いでござる!!じゃ!気をつけて帰るでござるよ〜ハハハ」

 「なっ!」


 ピッと閉じるボタンを押されてドアが閉められる。その隙間から手を振りながら笑って見送るドク男の姿が見えた。


 「あいつあんな事いいやがって〜」

 「///」



 ヒカリが黙って下を向いている



 「どうしたヒカリ?」

 「…ドク男くんにも言われたし…手、繋ごうよ…」

 「え?どうしてだよ!?」

 「な、なによ!ドク男くんとは繋いで私とじゃ嫌…なの?」

 「手を繋ぐっていうか…握手しただけっていうか…」


(まぁヒカリのおかげで今日無事過ごせたわけだし、今まで付き合わせてしまった分ヒカリの少しのわがままくらい聞いてあげないでどうするんだ…そういえばお礼もまだ言ってなかったっけ…俺)


 「わ、わかった。それに今日はありがとうヒカリ。わざわざこんな時間まで付き合ってくれてさ」

 「い、いいのよそのくらい…だって私…」


 そこで顔を赤くするヒカリ


 「一応まだ皆の前じゃアキラくんの…その…「彼女」なんだから。困った事があればすぐ助けに行くんだから…」

 「そ、そうか…ありがとうヒカリ」



 一応「彼女」だから…ドク男に言われたからヒカリもしょうがなく手を繋ぐわけだし、そうじゃなければ俺と手を繋ぎたくなんかないはずだ。恋愛マスターのヒカリにとって手の一つや二つ握るくらいわけない・・・か。



 そう思ったらなんだか色々考えるのがアホらしくなり心がフッと軽くなった…

 そして一人、家で待つミウの姿が脳裏に浮かぶ。




 ミウ…早く家に帰りたくなってきた…






 「とりあえず、家に帰ろうか。ヒカリ」

 「う、うん…」





  一階のホールでピンッとエレベーターが降りてきた合図を告げる。


  エレベーターの中から出てきた二人は、まるで絶世の美男美女。


  二人の手はギュっと握られ、マンションの外へと消えていったのであった…








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