第20話 師匠と弟子
「ハッ…ハッ…ハッ…」
一定の呼吸とリズムで毎朝の日課であるランニングを行っているアキラ
第三者から見れば見惚れてしまう程鮮麗されたフォーム・スタイル・フェイスの三拍子を兼ね揃えている
すれ違う他のランナー達は彼をひと目見たいがために走っていると言っても過言でもない
だからアキラとは逆方向つまり向かい合ってすれ違うように走っている。その数推定30人朝5時台の公園とは思えないほど栄えている。
そんな事も気づきもしないアキラは今日も今日とてトレーニングに勤しむ
そのアキラの50m後方をぴったりと着けて走るランナーがいた。
深くフードを被り顔はよく見えないだがアキラと同じく一定の呼吸とリズムでアキラの後を追いかけるように走る。
「ハッ…ハッ…ハッ…ハッ!!」
突然アキラが全速力とも思える速度で走り出した
(バレた!?)
追走者は急いでその後を追う…が差は開く一方
「ハッ!!!ハッ!!!ハッ!!!」
アキラはその速度を維持したままランニングコースを走り普段の倍近いスピードで一周すると帰路についた。
(ゼェ!!ゼェ!!!ゼェ!!!)
500m程差を着けられた深くフードをかぶった追走者は肩で息をするように汗だくのままうなだれる。
「まったく…すごいでござるなアキラ殿…」
「拙者の追走に気づいて速度を上げたのでござるか?はぁはぁ…」
ふーっと大きく息を吸う。深呼吸するために手を広げ上を向く
その時フードがズレて顔が見えてしまう
「おっと!」
すぐにフードを深く被り直すドク男そこにいつものメガネはなかった
「今日は追いつこうと思ったのにな…」
そうしていつものペースで無事帰路につくドク男
だがしかし偶然にもアキラ目当てで走っていたランナー(推定50歳おっさん)がドク男の顔をすれ違いざまに見ていた。
後に彼はこう語った。
「天使は実在した」…と。
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ゴタゴタが終わりその記憶も皆の中から薄まってきた頃
下駄箱で上履きに履き替えた後アキラが廊下を歩いていたら
「おはようでござる!アキラ殿!」
ドンッと背中を叩くドク男
「うぉ!相変わらず気配を消して背後から叩くな!心臓が止まる!」
「ふっふっふ。この技伝授してあげても良いでござるよ??ただし身体で支払ってもらうでござる…ジュルリ」
指をうねうねさせながらこちらに近づいてくるドク男
「いらんいらん!ん!?いや待て…」
俺の脳裏に電流が走る。
この技を会得できればいついかなる時でもミウの背後にいれるって事じゃないか?しかも誰にも気づかれることなく…
0.000001秒でこの技の真の極意に気づいたオレはすぐさまドク男に向き直って
90度…サラリーマンが見たら拍手喝采が起こるほどの綺麗なお辞儀をし
「先生!!!このオレを弟子にしてください!!!」
「え!?アキラ殿!?どうしたの急に?」
まさか弟子にしてくれなんて言葉が出てくると思っていないドク男は急に素に戻ってしまった。
だがドク男にとっても悪い話ではなかった…
「その技の真の使い道に気づいたのさ…だから頼むこの通り!!」
まさかの90度超えお辞儀。地面に頭が付きそうな程頭を下げるアキラにドク男は本気を見た気がした。
「わ、わかった!わかったから頭を上げるでござる!」
「じゃ、じゃあ弟子にしてくれるのか!?」
普段からキラキラしている眼をさらにキラキラさせたアキラの眼がドク男を貫く
「う…良いでござるよ?だけど弟子になるからにはちゃんと師と弟子の関係を結ぶでござるよ?この技は一子相伝…生半可に覚えようとすると命に関わるでござる…それでも良いでござるか?」
「あぁ!構わない!!命を賭けるほどの価値をオレは見出した。この技を会得するためならばなんでもする!」
「ほ、ほーなんでもでござるか??」
「あぁ。オレに出来る事ならなんでも。」
まっすぐ嘘偽りの無い眼にドク男はぐるぐるのメガネレンズ越しにこれは本気と書いてマジなやつだと悟った。
「わかったでござる。そこまで言うなら教えるでござる…さっそく今日の放課後は空いてるでござるか?」
18時から会議があるがそんな事はもはやどうでも良い…この技を会得するためならば…俺は!!
「大丈夫だ!さっそく今日から修行させてもらえるのか?」
「そうでござる。膳は急げでござる。じゃあ早速今日拙者の家に来てもらうでござる。もう逃さないでござるよ?アキラ殿」
「お、おう!!ありがとう!ドク男師匠!」
「じゃ、じゃあ教室に向かうとしまうでありますか…ここじゃなんというか…」
ドク男が困ったように当たりを見渡すと俺とドク男を中心に円を書くように人だかりができていた。
ここは教室へ向かう途中の学校の廊下
90度お辞儀を繰り広げた当たりから人が集まってきたらしい…ミウに見られたら恥ずかしい…
「そうだな…それじゃ行こうか師匠」
スタスタと教室へ向かうアキラ
その後ろをドク男は着いていく…
「いつも追いかけてばっかりだったのに…師匠とはねフフッ」
「ん?なんか言ったか??」
「なんでもないでござる!」
バシッとアキラの背中を叩くドク男
「!?…だからそれやめろって!!」
そうして二人は笑いながら教室へと向かっていった。
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