第6話 武器
「なあお前ら! どうやらお姫様と結婚できるかもしれねぇらしいぜ!!」
お目当ての肉を平らげたクラウドさんは、ギルド内にいた名ばかりの
「おい、それって本当かよ!」「一生遊んで暮らせんのかなぁ!?」
一方酔っ払いどもはこのリアクションである。『突然の大声』に対しての反応がないあたり、完全に慣れているな。あまりの慣れ具合に恒例行事にすら思えてしまう。今回が『クラウド・スルガンのターンであった』だけで、『違う人のパターンもある』のは想像に難くない。不確かな情報を不確かな解釈で捉えて騒ぎ合う催しといったところか。とりあえず言えるのは、あの女が妻の時点で『遊ぶ』ことなどまず無理だ。
「なんで俺が説明してんだよぉ! 言い出しっぺのお前から言えお前からぁ!!」
説明したいのは山々なんだけど、あんたの咆哮のせいで奢りメシが喉に詰まってんのさこっちは。なんとか水で流し込み、一呼吸おいて説明フェイズに入る。
「えーと、みなさん! 今から言うことをどうか落ち着いて聞いてくださいね!! 分かりましたか? あーもうダメだこれ! みんな酔ってて分かんないでしょうから後日そこの掲示板に貼りだしときます! もう条件とかもろもろ全部書いとくんでそれ見てください! とにかく『お姫様と結婚できるかもしれない』、とりあえず今日はこれだけ覚えて歯ぁ磨いて寝る!!いいですね?」
いちいち酒飲みの茶番に付き合ってグダるのも面倒くさいし、水を差す真似はしたくない。このヤケクソ説明も一種の宴会芸と化してるっぽいし、隅から隅まできっちり教えたって泡沫の記憶だろう。そこの液体みたいにどうせシュワッと弾ける。何が「イエイ! イエーイ!」だ。こいつらは適正ナシ、審査するまでもない。
王城に戻ると女王様に謁見する際にお世話になったおじいちゃんズのヴォルコフさんが出迎えてくれた。どうやら姫様からお目付け役を任命されたそうで、本人も「
自室に戻り、婿の公募に向けて王家の内情をそこそこ知っているであろうヴォルコフさんの意見も取り入れつつ『とりあえずこれは守ってほしいなぁ~』というふわっとした参加条件を紙に書き起こしていく。
アリシアの策って一見すると自由を奪われて窮屈なんだけど、講じた意味がちゃんとありそうだから突っぱねられないんだよな。あいつもあいつで海の姫として、僕とは違うやり方で自国を護るために考えを巡らせているってことか。
・『海の者』であること
・王女との間に子をもうけること
・海に対して反逆を起こさないこと
う~ん、とりあえずこの三つは最低ラインだよな。
『私女の子だけどお姫様と結婚したいんです!』とか言われてもなぁ。例えば海に『百合ップルでも二人の間に子どもできますよ~!』みたいな技術があれば話は変わってくるけど……一応ヴォルコフさんに聞きますか。
「ヴォルコフさん。これは例えばの話になるんですけど……海って女性同士でも子どもができたり~、なんてことあったりしますかね?」
「ふむ……現状海にそういった技術があるとは考えられませんが、研究次第では実現する可能性はございます。しかし海の技術というのは、過去にもたらされた地の技術を流用または応用したものですので、もしかすると西場様の方が研究者よりも知識に長けているのかもしれませんね」
救世主扱いとはいえ、ダメ元な質問に何もそこまでガチ分析しなくても。
確かに日本には子どもがほしい百合ップルに対しての措置がないこともないけど……いや~、きついっすよアレは。そりゃ
そもそもな話、あの王女は『跡継ぎを産む』という結果だけにしか興味・感心がなく、そこに至る過程に一切のこだわりや流儀といったものが見受けられない。それこそ『結婚』すらも。精神的なストレスを取り除きたいのか、はたまた男嫌いをこじらせているのか。ただただ娘の幸せを願っている女王様が浮かばれない。
アイツの幸せってなんだ?
僕はアイツほど頭は良くできていない。何もかもこうやって人に訊かなきゃスタートラインにすら立てない、空っぽで、愚かな生き物だ。
だけど……そんなことで全部投げ出して諦めることはもっとできない。地がもたらした最も優れた技術は『言葉』なんだ。僕の持つ唯一にして最大の武器なんだ。今が空っぽなら言葉を通して詰めればいい。いくら愚かでも可能性自体が潰えてはいない。そんなことを頭の中でぐるぐる巡らせ、僕は無意識にアリシアの部屋へと歩を進めていた。
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