第1話

~2年前の夏 全国大会~


10人がスタート台に構える

「Take your mark」


集中……俺は誰にも負けん!


号砲の音と同時に水に飛び込む


そしてあっという間に100メートルを泳ぎ切り、電光掲示板を見る。


「よっしゃぁぁぁぁ!!!」


目に入ったのは、


水無月 治也 1位


という表示だった。


これから1年、誰にもトップを譲ったことはなかった。だが、挫折の時は突然訪れる


~1年前 全国大会~


慣れた動作でスタート台に登る。

聞いたことの無い歓声、聞き覚えのある声

色々な声が耳に入る。


「Take your mark」

俺は無敵だ。誰にも1番にはさせん!


号砲と同時に水に飛び込む


50メートルのターンの時、視界の端にありえないものが入った


(なに!?……っ!置いてかれてる………

クソ負けてたまるか!)


…………………

……………

………



「な………………」


電光掲示板を見るとそこには無慈悲にも現実が突きつけられていた。


水無月 治也 2位


この時、治也の心の柱は音を立てて崩れて行った。


~1ヶ月後~


クラスにて


あいつ、負けたんだってよ

え、まじ?あいつ全国大会優勝してくるって言ってたよなー

大見得張って負けてくるのかよ、だっさ。

ださいよなー



と、色々言われ、俺の周りには誰もいなくなった……………



いや、1人だけ居た


その子はクラスでも目立たない黒縁メガネでお下げの女の子、百瀬結衣だった


そして、俺はその大会を境に練習はおろかプールにすら行かなくなった。



「で、今に至ると」


「そうなんだよなぁ、てかなんで急に俺の事聞いてきたん?」


「いや、だってさっきのホームルームで自己紹介した時に、水泳やってまし”た”って言ってたよね?そりゃ、気になるでしょう

…………………………

あんまり言いたくなかったんじゃない?」


「ああ、今までなら言いたくなかったなでも、和翔には隠しきれなさそうやからね」


「あはは……」


「エスパーすぎて怖いわ」


「エスパーじゃなくて、治也がわかりやすいだけだよ」


「…………チッ」


「おい、今舌打ちしたよな?そうだよな?」


「なんの事かな?」


「確信犯!」


「まぁ、そんな事は置いといて」


「おいとくのかよ!」


「和翔は部活とかどうするん?」


「あー、水泳部行こうかなーって思ってるよ。一応、県大会で準優勝とったこともあるし、なんと言っても百瀬さんが水泳部のマネージャーしたいって言ってたからね」


「和翔も百瀬さん狙いかよ。まぁ、確かに可愛いかもな、しかも文武両道だろ?俺には高嶺の花すぎるわ」


「確かにステータス高いよねー」


「そうだよなぁ」


「あーー治也、後ろ……」


「ん?なんだよ…………………って

えぇぇぇぇぇ!!なんで百瀬さんがここに!?」


「居ては悪いのですか?クラスにいるのは当然ですし、席が近いのですから当然ですよね?」


「アッハイ」ヤッベジライ、フンダカモ


「ところで水無月くん………コホン

ちょっとお話しても宜しいですか?

ここではなんですから場所を変えて」


「え、ちょっちょっと耳貸してください」


(待って!そんなことすると俺が主に男子に嫉妬の炎で焼き殺される!!)


(え!?なっなんでですか?)


(百瀬さん、自分の評判をしらないんか?)


(え?)


(あんたはともかく人気者やから!いいな?)


(は、はい…)


(こっからは質問や、あんたは俺が知ってる百瀬結衣か?)


(ご想像にお任せします)


(は?じゃあ、出身校は?)


(勢州立皇陵中学校です)


(……やっぱりか)


(やっぱりとは?)


(俺の知ってる百瀬結衣なんやな?)


(…………そうですよ。私、前は目立たない地味な子だったでしょ?高校に上がったからお下げもやめてメガネもコンタクトに変えたんです)


(へぇー、なぜに?)


(あの学校の人達が嫌だったのともうひとつは秘密です)


(そうか…………

あっ、マジで周りが殺気立ってるから…な?

またにしような)



(分かりました。)


「では」

…………………

……………

………


「マジで誤解解くの大変やったわ………」


「治也おつかれー」


「助けろや」


「いやぁー、修羅場を遠目から見てるの楽しいねぇ」


「和翔なかなか性格悪いな」


「さすがにあそこに助け舟は出せないなぁ」


「そうかい、1日目から疲れたわ」


「マ○クいくかい?」


「お、いこーぜー」





「………………」

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