第14話ジオグラ・後半
「こうしてみると、日本が海洋国家だと言うことがわかりますね。日本の国土はこの程度ですが、領海はこのくらい。経済水域になるとこんなに広くなるんですね」
ジオグラはそう言いながら、日本の北海道本州四国九州あたりをレーザーポインターでぐるぐる示した後にその周囲をレーザーポインターで囲んでいく。すると、あらかじめプログラムした通りに日本の経済水域が空間スクリーンに投影される。
「このあたりだけ経済水域が丸くなっていますね。中心部には日本の最東端である南鳥島があります。南鳥島は島そのものは小さな島ですが、その南鳥島があるだけで広大な経済水域を日本が有することができるんですね。そんな南鳥島には自衛隊員や気象観測員、国土交通省の方々が働いています。いま、その方と動画通信をしますね」
手はず通りに、空間スクリーンに南鳥島の人たちの動画を投影っと。
「こんにちは、ジオグラさん。ご紹介ありがとうございます。われわれは南鳥島でお仕事をしています。ジオグラさんが言う通りいま真夏の真っ昼間ですから非常に気温は高いです」
「そうなんですか。やっぱり南国だから日本の本土よりもずっと暑いんですか?」
「気温の上ではそうですが、湿度が低くカラッとしていますからね。日陰だと結構涼しかったりするんですよ」
「そうなんですか。月面でも湿度が低くてですね、宇宙服がなかったらあっという間にひからびちゃうんですよ」
いかにも前もって打ち合わせておきました感がある会話をジオグラと南鳥島の人がしている。なにせ、あたしたちがおこなっているのは月面での動画配信と言うビッグプロジェクト。
普通ならコンタクトが取れそうにないステータスの人たちと簡単にお話ができてその動画を配信できる。もちろん商業利用の許可も取っているので、この動画を見た視聴者がたくさん投げ銭をしてくれるのだ。
「大変ですね、ジオグラさん。あれれ、おかしいな。ジオグラさんが地球に映している経済水域が少しばかりずれているような気がするんですが……」
思いっきり台本を読まされている感じで南鳥島の人がそう言うと、ジオグラはさもこれはしまったというふうに大げさに驚いて見せる。
「これはいけない。この地球は本物の地球だから自転をしているんだった。自転しているからあなたたちがいる南鳥島も動いて見えるんだ」
「なるほど。ジオグラさんからはわれわれがいる南鳥島は動いて見えるんですね。これはいけない。このままでは昼休みが終わってしまう。われわれはお役人だから、そうなったら税金泥棒としかられてしまうね。それじゃあ、ジオグラさん。お話はこれくらいで」
「はい、ありがとうございました」
こうして打ち合わせ通りに南鳥島のひととのお話が終わると、あたしは空間スクリーンに投影された南鳥島の人の動画を消す。
「こうして月面からは地球の自転が確認できるんですね。日本が東経135度だとすると、東経45度の所ではいま日の出が見られるんだね。おはようございます。そして、西経135度の地点では日の入りだね。こんばんはってことになるのかな」
経度の測り方は0度の子午線から東と西に180度数えていくから、東経135度のところから90度西に向かった地点の経度はいくつでしょうってけっこうややこしいんだよね。
ジオグラが前に解説していたからあたしもわかるけれど。
そんなジオグラの言葉にいろんな言葉でコメントがついていく。
『Доброе утро』
『صبح بخیر』
「ロシアとペルシャの人からおはようのコメントが来たね。そこでは午前6時だね。スパシーバ。アッサラーム」
ひゃあ。あたしには何語かもわからないコメントにきちんと返事をしている。まあ、この配信は全世界に向けているんだからそのくらいできないといけないんだけれど。あたしができるのは日本語と英語くらいだからなあ。
ジオグラって何国語しゃべれるんだろう。
『Bonne nuit』
『Good night』
「西経135度はアラスカとカナダを通るからフランス語と英語でおやすみなさいのコメントが来たよ。メルシー。サンキュー」
それにフランス語に英語かあ。
「西経45度のグリーンランドやブラジルは午前0時だね。真夜中の皆さん。月面からは正反対で見えないけれど、この動画を見てくれたらありがとう。それではご視聴ありがとうございました」
……
「やれやれ今回もうまくいった。サバイブ。手伝ってくれてありがとう」
「いやそんな。それにしてもジオグラ、何国語しゃべれるの?」
「日常会話ができるとなると少ないよ。基本的なあいさつはいっぱい覚えたけれど」
「やっぱりあいさつくらいは何国語もできないとダメかなあ」
「やっぱり見てくれる人のことを考えないとね。見てくれる人に飽きられたら、そこでスパチャをされなくなってあたしたちが月面でのたれ死んじゃうから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます