第12話フォークロア・後半

「さてみなさん。いまからわたしフォークロアが衝撃の事実を発表いたします。なんと、月は球体ではなく平面だったのです」


「なんだってー。そうなんですかフォークロアさん」


 ううう。あのあとフォークロアにさんざん地球平面説について長々と話をされたうえに、月平面説なんてものを提唱する動画の作成づくりを手伝わされる羽目になっちゃった。


 月が球体だってことは、月に着陸する前に周りをぐるぐる回っていたから十分わかっているのに。なんでこんなことに。


「いいですか、みなさん。みなさんが地球から見ている月面はいつも同じ表面ですね。これをみなさんは月の自転周期と公転周期が同じだから、月はいつも同じ面を地球に向けていると思われるかもしれません」


「はい、あたしもそう思っていました」


「そのあやまった考えをいま、このフォークロアが訂正しようではありませんか。いいですか、みなさん。月は平面なんです。実際に月面にいるわたしたちが言うんだから間違いありません」


「しかし、フォークロア。あたしたちが月面にいることをどうやって証明したらいいんでしょうか」


「いい質問だ、サバイブ。まずは軽くジャンプしてくれたまえ」


「はい、フォークロア。えいっ」


「見たかい地球の視聴者諸君。今ジャンプしたサバイブの動きがゆっくり上昇してゆっくり下降するのを見たら、サバイブが地球より低い重力に影響されたのは明らかだ」


「確かに地球でジャンプしたよりもふんわりした感じでした」


「しかしだね、これは平面の月面がゆっくり加速していてもあり得ることなんだよ。つまり、平面の加速している月面の上で地球や太陽がぐるぐる回っているのがこの世の真実だったんだ」


「そうだったんですか、フォークロア」


「そうなんだ。わたしは試しに月の端っこに行こうとした。月が平面ならばどこかに端があるはずだからね。そうしたら、月の端には氷の壁がそそり立っていたんだよ。サバイブ、君が毎日飲んでいる水はそこから掘り出したものだったんだよ」


「衝撃の事実です、フォークロア」


「いいかい視聴者の皆さん。月の裏側にはナチスの残存が秘密基地を建設しているとか、地球外生命体のUFOが飛び回っているとかそんな都市伝説は数限りないが、そんなものはでたらめだといまここのこのフォークロアが宣言しよう」


「月に裏側なんてそもそもなかったんですね」


「そういうことだ、サバイブ。この事実をNASAはひた隠しにしていた。アポロ計画の宇宙飛行士はいったいなんで月は球体だというでたらめを言っていたのだろうか」


「なぜなんでしょう、フォークロア」


「それは、ひょっとしたらアポロ計画そのものが捏造だったかもしれないからだ。というわけで、このフォークロアが実際にアポロ11号が着陸した静かの海に行くことでそれを確認したいと思う」


「現場に行くことで事実を確認するわけですね、フォークロア」


「そうだ。しかし、それには多くの物資がいる。なにせ、わたしたちがいる居住基地は月面の端っこにあるのに対し静かの海は月面の中央付近にあるからな。そういうわけで、視聴者の諸君。物資の輸送費を工面してもらいたい。真実の探求のために」


「それでは」


「みなさん」


「「ご視聴ありがとうございました」」


……


「どうだい、サバイブ。動画の反響は」


「いい感じだよ、フォークロア。視聴者数もスパチャも順調だよ。それにしても、月平面説なんてでたらめをよくもまああんなに得意げに話せるものだね」


「はっはっは。なにせ最終試験の面接官をけむに巻いたくらいだからね。視聴者に投げ銭をあたえようって気にさせるくらいわけないさ」


 世が世なら、フォークロアって歴史に名を残す詐欺師になってたんじゃないのかな。それも一流の。一部の熱狂的な信者がつきそうな。


「それじゃあサバイブ、資金も稼げたし静かの海への遠征計画を進めようか」


「本当に行く気なの、フォークロア」


「もちろん。あれだけ月平面説をあおっておいて、実際に静かの海に行ったら月着陸船もアームストロング船長の足跡もありました。やっぱりアポロ計画は捏造じゃなかったんだ。月も球体でした。ちゃんちゃんってのがオチになるんだから」


「それはいいけれど、フォークロア。しっかり下準備するんだよ。あたしはサバイバルには慣れているけれど」


「平気だって、サバイブ。最終試験に合格したあとでみっちりトレーニングしたんだから」


 そうなんだよね。月面へ行けるメンバーに選ばれたら宇宙飛行士になるためのトレーニングを散々させられたんだから。あたしはお勉強方面でこってりしぼられたし、逆にフォークロアはサバイバルの特訓でひいひい言ってたし。


 地球への帰還でどこに落下するかわからないから、最低限のサバイバル技術は必要だってことだったな。もっとも、その地球への帰還がいつになるかさっぱりわからなくなっちゃったけれど。

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