第11話フォークロア・前半
「サバイブ。あたしたちが月面にいるということ自体が壮大なやらせだといううわさがネットで飛び交っていることを知っているかい」
「またフォークロアが大好きな都市伝説のお話なの? あきないねえ」
フォークロアはオカルトとか超常現象とか言ったものが大好きでよく怪しげな話をしている。実際に月面にいるのに『アポロ計画は捏造だったかもしれないんだよ』なんて嬉々として話すのはどうなんだろう。
選考試験でも試験管に『この話がやらせやいんちきでもわたしはいっこうにかまいません』なんて言って、どうすれば実際に月面に行かずに女子高校生が月面にいるかのような動画を配信することができるかを説明したらしい。
その結果、こうしてフォークロアがあたしといっしょに月面にいるんだからわからないものだ。
「いやね、サバイブ。わたしはいまでもここは月面じゃあないかもしれないと疑っているんだよ。手の込んだどっきりじゃないかってね」
「いくらなんでもそれはないでしょう、フォークロア。配信動画をみている人ならともかく、あたしたち本人まで騙されているなんて。だいたい、それじゃあこの低重力はどう説明するのさ」
そう言ってあたしは軽くジャンプして見せる。ちょっと力を入れただけで地球では考えられないくらい高く飛び上がる。
「それはだね、わたしたちが実際は眠らされてバーチャルな世界を現実だと思い込んでいるとかさ」
「それだったら、あたしだって実在しないバーチャルな存在かもしれないじゃない、フォークロア」
「お、野生児のサバイブにもそのくらいの発想はできるんだ」
「あのね、あたしたちはスパチャで生活物資の輸送費を稼がなきゃならないんだよ。そういうくだらない話だったらつきあいきれないよ」
まったくフォークロアったら。怪しげな都市伝説ばっかり話すんだから。
「ごめんごめん。でも、まじめにサバイブに頼みがあってさ。実際にアポロ11号が着陸した場所に行って、月着陸船やアームストロング船長が月に残した足跡を撮影しようと思ってさ」
「アポロ計画が捏造かもしれないって言うのなら、実際にその着地した場所に行って確かめようってこと?」
「そういうこと。『人類にとっては偉大な一歩だけれどアームストロング船長にとっては小さな一歩』をこの目で確かめたくてね。でも、アポロ11号が着陸した静かの海は月の赤道近くなんだ」
「そうなの、フォークロア」
「そうだよ。月に着陸した後また月面から地球に戻らないといけないからね。そのためには遠心力を利用できる赤道付近が理にかなってるってこと。でも、わたしたちが居住しているこの月面基地は極付近だろう」
フォークロアの言う通り、あたしたちがいる月面基地は高緯度の場所に設置されている。なぜなら、ここの地下には氷があるからだ。極地だから日光がほとんど当たらない。だから気温が上がらずに、地下に氷がある。
おかげであたしたちは月面でも生きていられるのだ。さすがに生活に必要な水をいちいちロケットで運んでいてはお金がいくらあってもたりやしない。
「そういうわけで、サバイブ。ひとつ月面を大移動するのに知恵を貸してほしいんだ。さすがにちょっとしたお散歩っていうわけにはいかないからね」
この月面基地から赤道のあたりまでいくのかあ。モトクロスの月面一周よりは手間がかからなそうだけれど、それでもやっかいそうだなあ。
「いやあ、『地球からは観測できない月の裏側で驚くべき大発見を!』なんてうさんくさい動画で再生数を稼いでいたけれど……そろそろドカンと大ネタをやりたくてね」
「それはいいけれど。月の外周がだいたい10000キロだから。極から赤道の往復だとだいたい5000キロかあ。結構時間かかっちゃうよ。月面移動用の探査機もそんなにスピードでないし」
「だからそのあたりの荷物をどうするかとか、日数がどれくらいかかるかとかをサバイブ先生に教えていただきたいなあと思いまして……」
「まあいいけれど。ちなみに、月の裏側にはどんなものがあるかもしれないってことになっているの」
「それはもうたっくさん怪しげな話があってね。ナチスの残党が基地を作っていて再度地球を侵攻する準備をしているとか。火星人が前線基地を作っているとか」
「ほんとそういう話好きだよね、フォークロア」
「なにせこれで最終試験に合格したんだからね。最近では地球平面説にならって月面平面説も提唱しようなんて考えているんだ」
「地球平面説? なにそれ?」
「え、サバイブ。地球平面説も知らないの? しょうがないなあ、教えてあげちゃおう。長くなるから覚悟してね」
あちゃあ、フォークロアの変なスイッチ入れちゃった。フォークロアが『長くなる』って言うからには相当長くなるんだろうなあ。まあでも、ここ月面基地から赤道まで大移動するよりは気が楽かなあ。
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