CASE:08 GO TO HEAVEN.
目の前に広がるのは血生臭い戦場で、彼ら狂人は踊るようにただ武器を振るう。
加賀美と名乗った男は釘付きバッドで
皆、本当に楽しそうに
危ういところを助けてもらっている。
もちろんそれは感謝したい。
でも、そのあまりにも常人離れした行動に僕は恐怖を覚えた。
彼らは忘れてしまっているんじゃないか?
いや、なんだったら今現在もなお、寄生植物による被害者なんだってことを・・・・彼らは忘れてしまっているんじゃないか。まるでゲームの敵を殺す時みたいに簡単に彼らは
加賀美と名乗った彼が、多くの
そしてにっこりと微笑みかけてきた。頬には返り血をしっかりと浴びながら。
「やあ!君を、助けにきたよ♡」
目の前に広がるのは地獄絵図。多くの死体が転がる血の海。そんな中で彼は微笑む。
「・・・・あ、ありがと」
「いいんだって!そんな、お礼なんて。俺たちは正義のヒーロー、ヴィジランテなんだから。人助けなんて当たり前のことをやっただけさ!」
そう言いながら腰にぶら下げていたナイフを一本手に取り、そして一体の
『ヴィジランテ』
聞いたことがある。
「さあ、行こう。俺たちと一緒にホーム、レジスタンスへ」
そう笑顔で手を差し伸べる加賀美に僕は少し嫌な感じを覚えた。
僕はその手を取る。
「あ、でも待って」
「うん?」
「弟を連れて行かないと」
「・・・弟?」
そう言って加賀美は覗き込む。
身動きができない弟は声だけで挨拶する。
「深月 福って言います」
「・・・どうも」
「僕は兄の深月
「ゆう?君もゆうっていうの?」
「も?」
「俺もなんだよ!俺の名前は加賀美、加賀美 悠。悠久の悠っていう字なんだ」
さっき名前を名乗ってたから知ってる。
自分のカラーは赤だとかなんとか。あれ、恥ずかしくないんだろうか。
「僕は優しいっていう字で優です」
「そうか!同じ『ゆう』って名前なんだ。なんだか親近感湧いちゃうね」
すごい距離感が近い・・・というかなんだか馴れ馴れしい男だ。まあ、助けてもらっている以上、特別文句はないけれど。
「じゃあ、行こうか!」
「あ、ま、待ってくれ!」
「・・・何?まだ何かあるの?」
「ここに・・・・
僕がそう言うと、彼は一瞬目を丸くして周囲の匂いをクンクンと嗅ぐ。
「・・・あ、確かに。甘い匂い」
頭部に巨大な真っ赤な花を咲かせた奴の力は非常に強く、自動車程度なら軽々とひっくり返す様を僕は何度か見てきている。あんな危険な怪物がこの近くにいることに気づかないなんて迂闊だった。
「・・・まあ、でも大丈夫でしょ」
「え?」
「こっちには・・・・阿久津ちゃんや左京くんがいる」
そう言って加賀美はニヤリと微笑んだ。
と、同時に巨大な叫び声が辺りを揺らした。
**********
こいつはさっきまでの有象無象とは訳が違う。
真っ赤な花を頭部に咲かせたこのゾンビ。
そしてあの花から発せられる匂いを長時間嗅いでいると全身の神経はやられ身動きが取れなくなり、身動きが取れなくなったのをいいことにその怪力で捕食対象をひきちぎって細かくしてから捕食する。そんな非常に厄介な敵が今、目の前にいる。
こういう強い敵と真剣勝負で命をかけた死闘。
刀を握る手が震える。いや、全身が・・・これは恐怖じゃない。そうとも。これは武者震いだ。そして侍と呼ばれることを憧れる身としては一度は言ってみたい台詞があった。
それは・・・
「押して参る!!」
それを言う機会がこうも簡単にやってくるとは。
俺は勢いよく間合いを取り、そして腰に差した刀を引き抜いた!
しかし・・・
真剣白刃取り。
まさかゾンビにそんな技術があるとは。
いや、それよりも・・・・
「おい・・・離せ!離せよ!ゾンビ!」
そんな俺の声も虚しく、ゾンビは受け止めた刀に力を込める。
(・・・!??いや、まて?まて?やめろ!?)
そんな俺の思いも儚くゾンビは力の限り刀を握り、結果、呆気なく握り砕かれる。俺はあまりの衝撃に息を飲んだ。とその直後に奴はその人間離れした怪力をそのまま拳に乗せてきた。咄嗟に防御行動をとり、なんとか数メートル吹き飛ばされるだけで済んだ。
が。
「ふざけるなよ。お前」
俺はキレていた。
「お前なぁ。日本刀、高いんだよ」
そうとも。一振りいくらすると思ってるんだ?
100万はするんだぞ?こんな世界になる前、そんな稼いでいる訳でもなかったから、なけなしの給料でやっとこさ買ったんだ。あの日本刀は。
それを。
それを。
あいつは・・・・
「・・・・許さん。その腕から叩っ斬る」
俺は憤怒に燃えていた。
**********
一仕事終えた後は趣味の映える写真タイムだ。
うわー、たっくさん転がってる。選り取り見取りだ。
「私・・・・困っちゃう♡ウヘヘ♡」
どの子も捨てがたい。
あ、この子なんて多分加賀美さんがやったんだ。
いい感じに頭ぐちゃぐちゃになってる。
・・・可愛い♡
パシャッ
うん。
いい感じ♪
あ、この子なんて左右パックリ割れてる。
多分、あの左京って時代錯誤なサムライオタクがやったんだ。
こーゆーの頼んでも、あんまりやってくれないのでレアな死体だ。
うん。
これも撮っとこう。
「・・・おい、ゴスロリ娘」
突然、呼ばれた。私は横目で彼を見る。
汗まみれで、返り血も浴びていて・・・・なんだか臭そう。
いつもの尖った目つきがより尖ってる。悪人面がより強みを増していた。彼は刀身の砕かれた刀を投げ捨て、私の方をギロリと睨んでこう言った。
「手を貸してくれ。あいつの腕を叩っ斬る」
そう言われて私は彼が指差す方を見た。
頭部から真っ赤な花が開くゾンビはピクピクと体が震えてながら、のしのしとこちらに向かっている。死体の体に咲いた花。なんともバイオレンスな様相だが、私の趣味とはちょっと違っていた。
「いやよ。私、今撮影に忙しいの」
「そんなのあとでもできるだろ!」
「そんなのって何よ!私の唯一の心の癒しなの!」
「なんて悪趣味な!」
「あなたに言われる筋合いはないわ!」
そんな私たちの言い争いを遮るように花ゾンビ(勝手に命名)はその辺にあった樹木をへしおって、そして槍投げのような勢いで投げてくる。
咄嗟に身をかわした私たち。
(・・・・あ、
そう思って私はスマホをスカートのポケットに入れようとする。
「ん?」
あれ?スマホ、どこいった?
さっきまで持っていたはずのスマホがない!!
一体どこへ?
必死に探す私の目はさっきまで自分が立っていた場所に向かう。
そこにはバキバキに画面が壊れ、明らかに中の部品が飛び出ている哀れなスマホの姿がそこにはあった。
「・・・・はい?」
血の気がひいた。
私、まだパソコンにバックアップしてない写真あるんだよ?
あとで鑑賞しようと思って、まだ見てない写真だってあるんだよ?
あんな写真や、こんな写真が、私の秘蔵の・・・・お宝写真が・・・・・。
「化物か!あいつは!!」
そうか。サムライオタクは生きてたか。
「よかったね。気が変わったよ」
「・・・ん?」
「私、手伝うよ。あいつをぶっ殺すの手伝えばいいんだよね」
「本当か!恩に着るよ」
「ただ・・・・・腕を叩っ斬る?生温い」
そうだ。
腕如きで済ませるわけがない。
私は中指を立てながら怒りのままに宣言する。
「あの真っ赤に染まったでっかい花弁、毟り取ってそこら辺の芋虫どもの餌にしてくれる!!!!!」
この私を怒らせた。
その罪は重い。
「・・・・お、おう。心強い」
**********
悪趣味なサイコパスなあいつらと、ゾンビどもの戦いはそろそろ終わりを迎えようとしている。
左京は道場秘伝の無名の妖刀とやらを取りにやってきた。あの刀にそんないかがわしい力があるのかは不明だが、確かに刀身から放たれる妖しげな輝きは人を惹きつけるものがある。その魅力に取り憑かれ、争い合った歴史があるとかないとか。それが妖刀と呼ばれる所以なのだそうだ。
その妖刀のおかげなのか、はたまたブチギレた左京の剣術に寄るものなのか、はたまたその両方か。
彼は宣言通り
そんな弱り切ったゾンビに対して阿久津は全く容赦がない。
満面の笑みを浮かべながら彼女も宣言通り、頭部に咲いた花びらを切り刻み、毟り取っていく。当然、ゾンビだって殺されたくはない。
必死に抵抗するゾンビは叫び声をあげる。
「うるせええええんだよ!!!!」
そう言って包丁を首元にぐさり。
「私のスマホの!!!!!!う!!!!ら!!!!!み!!!!死ねよ!!!!!死ね!!!!死ね!!!!!死ね!!!!!!」
怒りのまま包丁で滅多刺しにする阿久津。
「・・・・本当、ネジ飛んでるわ。あいつ」
撮影しながら俺は思わずそう呟いた。
でも、おかげで再生回数が爆上がりだ。
みんな、刺激的な映像が大好きなんだ。
しかも、あーゆーゴスロリサイコパスが猟奇的なことをやっている映像は特に絵になる。数字が取れる。何気に見た目の悪くないのがポイントなのかもしれない。まあ、危険だから友達にもなりたくないけど。
「・・・・はぁはぁ。そこ、なんか言った?」
一通り満足したのか、それでも握った包丁を離さずに息を切らしながら阿久津は俺に問いかける。ゾンビは完全に事切れていた。
なんだよ、あいつ。地獄耳かよ。
「いや、何も」
「・・・・あ、そう。そうだ。こいつ丸焼きにしよう。チャッカマン、どっかになかったっけ?あとガソリン。ガソリンスタンド襲撃したときのまだ残ってない?」
まだ物足りないか、こいつ。
そう思いながらスマホの画面を見る。
今までのことは当然、全部ライブ配信している。
視聴者の数はとうとう1万人を突破しており、投げ銭の数も非常に多く、その数字に思わずにやけるのを抑えられない。そしてそのほとんどがあのゴスロリサイコパスの人気なのだから、世も末だ。ちなみに本人にそのことは黙っている。
日本人は特に刺激に飢えている。
俺たちのように封鎖都市内にいる人間にとってはゾンビが当たり前になった新しい日常でも、都市の外にいる人間からしたらどうやらどこか遠い異国の・・・・いや異世界の物語のように思えるのかもしれない。だからこんなに奴らは盛り上がっているんだ。
まあ、そのおかげで俺の懐は温まるわけだけど。
「さあさあ、みんな。ゾンビどものお片付けは済んだかな?」
そう言ったのは加賀美。
気持ち悪い笑顔を浮かべる彼は事切れた
「うわぁお!すっごい楽しそうなことになってるじゃない♡ 何それ、うける♡ ねえ、楽しかった?」
そう楽しそうに尋ねる加賀美に対して、阿久津と左京はジトっとした目で恨めしそうに睨んだ。
「んー?どうしたの?」
「「・・・別に」」
二人とも自分の大事なものを壊されたのだ。楽しいもへったくれもない。
一人だけ能天気な彼を恨めしく思ったのは、当然といえば当然か。
「・・・で、そいつは?」
俺がそう尋ねたのは加賀美の後ろについてきている若い男についてだ。
「ん?ああ!紹介するよ。彼は深月 優くん。俺と同じ、名前がゆうくんなんだ!!」
「「「ふーん」」」
俺を含めたみんながそんなことどうでもいいと思った。
「彼は迷える子羊だ。俺たちの手でしっかりと・・・・彼を無事レジスタンスまで送り届けよう。さあ、いくぞ!我が仲間たちよ!」
**********
あの加賀美という男を筆頭にした、このヴィジランテというやつら。
全員が曲者揃いといった感じだった。
そんな人々に囲まれながら僕は今、レジスタンスへ向けて走っている。
「さあ、急げ!ゾンビどもに囲まれちゃうぞ♡」
そう急かす加賀美の言葉はどこか楽しげだ。
走り始める前、僕は彼から手渡されたものがあり、ポケットに入れたそれを手で感触を確かめる。
拳銃。
多分、本物。元法治国家のこの日本のどこでこの拳銃を手に入れたのか。
それはわからない。この男は一体何者で、どういった理由で僕を助けてくれようとしているのか。親切心なのかもしれないし、それ以外の理由なのかもしれない。
けれど––––––
「・・・ねえ、兄ちゃん。大丈夫?」
僕の命と弟の福の命が助かるなら例えどんな人格の持ち主であったとしてもその手に縋るまでだ。
「大丈夫だよ。兄ちゃんは鍛えてるから。福は心配しなくて平気だって」
「・・・・ごめんね。何もできなくて」
「何いってんだよ。兄弟だろ。そんな寂しいこと言うなよ」
「・・・・でも、僕がいなかったら・・・きっと・・・・もっと・・・」
それはもしかしたら今に始まった話ではなく、ずっと。生まれてからずっと弟の中で抱えてきた言葉なのかもしれない。両手両足を持たずにこの世に生を受けた福。福は一人では何もできない。できないからこそ、誰かに守ってもらわなければ生きていけない。それはずっと、誰かに申し訳なさを抱えながら生きていくと言うことで・・・。それはずっと福から感じてきていたけれど、気にしないでいて欲しかった。だって僕は彼の家族で、兄貴なんだから。
「お前がいなかったら・・・・僕はこの街で一人ぼっちだったよ」
そうとも。それは間違いなく、心の底からの本心だった。
「ねえ。その弟くんはずっと・・・・そうなの?」
そう遠慮なく踏み込んでくるのは加賀美だ。
「そうだよ。生まれつきでね」
「・・・ふーん、なんだか大変だね」
あまり興味なさげに加賀美はそう返した。
そんな僕たちのやりとりを阻むような巨大な咆哮が聞こえた。
それは一本の巨大な樹木。しかし、よく見るとその枝のようなものは人の腕であり、そしてかろうじて輪郭がわかる乳房から、母体は人間の女性に寄生した
あれは間違いなく・・・・
「––––––––
僕は思わず呟いた。
もっとも厄介で、もっとも凶悪な
それが
そもそもこの寄生植物は
つまり、あの巨大な一本木の周りには
「こりゃまた・・・やばいのがいたもんだ」
流石の加賀美も
「迂回したいけど・・・レジスタンスに行くためにはあそこは通らないといけない。さてどうしたものか」
加賀美は呟く。
方針を考えているのか、しばらく悩む彼はふと、僕の方を向いてハッとする。いや、彼が見ているのは僕じゃない。
一体何を?
「・・・そっか。あいつらの習性は種の存続。つまり、目の前に餌があれば、それを取り合って、奪い合って殺しあう」
「・・・・?」
僕は加賀美は口にする独り言の意味がわからなかった。
そして彼は満面の笑みを浮かべる。
「そうか。そうだとも。競争させればいいんだ。そうすれば、その間は俺たちは難なくあの道を素通りできる♡ 俺ってやっぱり天才だ♡」
「・・・つまり?」
僕の問いかけに加賀美はにっこりと微笑む。そして次の瞬間、僕が背負っていた弟をヒョイっと持ち上げて笑いかける。
「君は大いに役にたつ♪サイコーだ♪」
血の気が引いた。
静止する間もなかった。
加賀美は砲丸投げでもするかのようにヒョイっと弟を投げ飛ばした。
宙に浮かぶ弟、福。福は自体を把握していなかった。目を丸くして、何も言葉を発することがなかった。
その時間は1秒にも満たない時間だったけど、僕には永遠に感じた。
「ふくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!」
地面に叩きつけられ、福は血を流す。
仰向けになっていて、後頭部が血を流していた。
痛みで声をあげることもできず、手足がないのでもがくこともできない。
「やめろ・・・やめろ・・・・やめろおおおおおおおお!!!!!!」
僕の言葉は虚しく響く。
それが弟の最後の瞬間。
「僕らはみんな生きているー♪生きているから歌うんだー♪」
歌が聞こえた。
能天気な、頭の悪そうな歌声。
「真っ赤に流れるー♪僕の血潮ー♪」
何歌ってやがる?
何指揮者ぶってパフォーマンスしてやがる?
こいつは一体、何を考えてやがるんだ?
「みんなみんなー♪生きているんだ♪友達なんだー♪」
生まれて初めて芽生えたこの感情。
初めて殺してやると心に決めた。
僕はその殺意のままに、
「カガミイイイイイイイイ!!!!!!!キサマアアアアアアア!!!!」
言葉にならない叫びと共に僕はやつに向けて拳銃を向け、そして引き金を引いた。
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