第9話 M式診断魔術

デスマーチの日々は続く。

そんな中にも癒しの時間はある。シャルが来ている時は特に2人を買い物に連れ出す。超高級ブランドでフルオーダーメイド。もちろんアクセサリーも抜かりなし。ただし指輪は二人で用意してもらった。その理由を知っている二人にはそのことに不満はなかった。今、不満があるとすればあけすけな男性の視線。柔らかくシャープな二人のドレスは際立っていた。連れの男はあきらかに若造。あるグループのリーダーが仲間に目配せをする。


「その女渡しな。そうすれば見逃してやる。」

10人ほどの男たちが迫る。

「それ以上近づくな。臭いが移る。」

「粋がっていられるのも今のうちだぞ。」

負けることはないと思っているリーダーは嗤う。

「うーん、追いかけられても面倒だから両足の骨を砕きましょうか。この2人に不埒な考えを持ったバカにはお似合いの罰でしょう?」

「ふざけるな!やるぞ!!」

10人の男たちは慣れているようで巧みに陣形を作って攻めてくる。

しかしジークには効果はない。

「はぁ。」とため息をつくと、男たちの右端に向かい両足のすねを粉砕する。

「ぎゃあ!!!」「うわあ!!!」ジークはリーダーを残し9人のすねを粉砕した。

ジークは静かにリーダーの前に行き言い放った。

「お前は他と同じというわけにはいかない。」

この言葉を聞いた瞬間リーダーは逃げる・・・無理。謝るしかない。絶対的な暴力に出会ったことのなかった愚かな男はここで教訓を得る。勝てない相手はいる。土下座をして

「待ってくれ、俺たちが悪かった。二度とこういう事はしないから許してくれ。」

「僕が制裁を加えているのはあの2人を襲おうとしたからだ。他は関係ない。」

次の瞬間あごと歯にすごい衝撃と痛みが走る。その衝撃で体が持ち上げられる。そして次に来るのは左右太ももへの衝撃、続けて左右すねへの衝撃。この時点では体は宙に浮いていたが、蹴りが終わった次の瞬間体が着地する。

「ううう!!!」「あうう!!!」

あごも砕かれているのでまともに声が出ない。

「弱すぎるよ。軟弱者。」

10人の男たちは痛みでジークの言葉は聞こえていなかった。


「ジークって私たちのための時は冷徹になれるんだ。」

愛情が一層深まる1人だった。

もう1人はストリートギャング壊滅を見てるだけに微妙な表情であった。


だいぶ落ち着いてきた中央治癒院。ほぼどこからも援護を受けられず運営を続け、他では類を見ない24時間診察、ただし料金は5倍

そう言っておけばそんなに来ないだろう。なんて思っていた自分が恥ずかしい。実際には郊外から魔導車飛ばして担ぎ込まれる患者、魔導車をもっている人に魔導車を出してもらって駆け込んでくる人。多い時は一時的に15人を超えるようなこともあった。なにはともあれよかったと死者0で乗り切った。一度に10人以上はあれが初めてだった。軽く考えてた。あの日ジークの意識が確実に変わった日でもある。

それも今は昔。国立の治癒院は24時間の患者受け入れを義務化された。考案者のジークは衛生長官から表彰を受けた。

これに異論を唱えたのが北の街キシリムの中央治癒院の院長だった。キシリムは眠らない町、そんな都市で24時間受け入れしたらやっていけない

しかし、首都は一つの治癒院でやりきれた。他ができないとは言えないはずだが。キシリムは何故そんなことを・・・すぐにばれた。

キシリムはランカーの街だからランカーギルド直営の治癒院がある。24時間受け入れ。治療費は10倍。でこの元老院命令には焦った

そこでキシリムの治癒院長に泣きついて、キシリムの利権を守りたかっただけ。キシリムのランカーギルド治癒院の夜間診療料金は7倍。つまり差額は着服。

キシリムは眠らない街だから夜間の利ザヤも大きいらしい。結果、懲戒免職。罰金5000万ギール(円)もう公職には着けない。治癒院を開いても・・・


治癒院に来て20年目。

今日うれしいお知らせをもらった。今使っている診断魔術の有用性について検証が終わり、特に優秀な魔術と認め「魔術士協会特別大賞」を授けます。

つきましては以下の日時に・・・思わず走って院長(いつの間にかなってた)の所へ。

「どうした」手紙を見せる「おおおおおお」もらうのはジーク。

このことを二人にも知らせた。そして来てほしいと。正直シェリルは来やすい。弟子と言っていい存在の晴れの舞台、来ていて当然。

それに比べるとシャルは理由が弱い。でも今回は理由の強弱じゃない。ジークは自分の恋人として参加することを求めた。


あんな凄い席で恋人宣言・・・教え子に手を出したって言われる。それ早いか遅いかだから。俺の方がキツイ。この二人だからね。

「でも、我慢できないんだ。二人はすごく魅力的にすごくきれいになっていく。誰かに取られるんじゃないか心配で・・・

だから、俺の者だ誰も手を出すなって宣言しておきたい・・・」

最後は小さな声だった。ふふふ、ははははは、ここは笑ってあげないと可哀そう。

「大丈夫だよ。私たちはあなたの物よ。誰にも指一本触らせない。私たちが魅力的に、きれいになっているなら、あなたを好きだからよ。

しかし何心配しているかと思えば、まさかこんな子供じみた理由で恋人宣言?どうする?」「お願いします。」「しょうがないか。」笑いあう二人。

ちなみにだが、「魔術士協会特別大賞」とは、まさにグレート、特別凄い賞である。この賞の表彰式には国家元首はじめ元老院議員。各種経済団体などなどお偉いさんもたんまり来ている。そんな中表彰式が始まる。壇上には3人の男女。司会者が事前に女性のことを確認する。


そして気づいた。

「お一方はバチサレム高等学園治癒学科の首席教授では?」

「そうです。この二人は僕を支えてくれた恋人です。」

驚きつつもさらに質問を、

「教授もこの魔術の作成に貢献していますか?」

「被検体はかなりやりましたが、魔術に関してはしていません」。

「そちらの女性と同じく、あくまで恋人として被検体以上の協力はせずに彼を見守ったということですね。」

「はい、そうです。」

ジークの目論見の一つは崩れ去った。ジェリアを共同開発者にしようと思っていたのだ。そんな事はお見通しのジェリアから断りを口にした

壇上の片方は身元が分かった。すごく若いのに相当な高い地位。魔術士協会に入れば理事クラスに椅子を用意しなければならない相手。


さてもう一人はこの娘もまた美しく、可憐、それでいて生命力にあふれている。最初に気づいたのはランカーギルド、グランドギルドマスター。

美しさ、格好良さ、女性ランカーの魅力全開の彼女をマスコットキャラクターにギルドはしていた。おかげで彼女は常に人気ランキング上位だ。

「情報がもたらせました。彼女の名はシャル・フローレンス。ランカー鉄の6でバチサレム高等学園での彼の同級生。卒業席次は彼が首席、彼女が次席です。」

司会者の方の話が終わった時から、シャルへの評価が激変していく。バチサレム高等学園の効果こわい。今後気を付けよう。

その後の表彰式は予定調和どおりだったけどジークが下がった後二人が前に呼ばれて感謝状が手渡された。これでも魔術師にとって延髄の的だそうだ。

「私は治癒学会所属なんだがいいのか?」

シェリルが言えば

「まだ治癒に関係するからいいじゃない。私なんて恋人表彰だよ。」


そして、予想通りの治癒魔術士協会最高貢献賞。この賞は部門の表彰式なのだけど、治癒は命に密着しているから格式と評価は高い。

今回は一人で行くつもりのジークだったが、ぜひ二人もという表情が気に入らなく、気になったので調べさせたら、特別な賞を用意して賞の説明が必要なので別室で、そしてそこには質の悪い男たち。そこで暴行し言うことを聞く女にする。そこまで聞いたジークは切れた。


契約精霊に命じた。そいつらに生き地獄とはこういうものだ。というものを見せ全ての傷を残し治癒不可に。死ぬよ?生き残れたら大したものだ。

そういうことで今回は見逃す。あとランカーの装備、マジックバックもすべて二度と使えないように。でも直りそうと思うように。」

契約精霊たちは3日間で腕の良い治癒士5人集めれば何とか助かるようにした。契約者の怒りを感じ可能な限り契約者の意に沿うよう愚か者を罰した。


罰が進行中、式典が行われていた。司会者がそっとお二人の賞もあるのですが。受賞することが危険な賞はお受けできません。

待ちますので3階の奥の会議室確認したほうがいいですよ。もうすぐ主犯へのお仕置きのようです。見えない何かが動いている。

それはわかる。しかしそんな存在・・・精霊。これは精霊による処罰

「精霊様気をお静め下さい」「なにとぞご慈悲を」の所で仕置きは終わった

警備員による3人の主犯への手当、そして見つかった3階の惨状。情報が裏で錯綜しつつ式典は進む。どうかお二人も。ジークは考えた後うなづいた。

拍手の中、壇上に登る。ジークは予定通り治癒魔術士協会最高貢献賞。さて二人は?お二人には特別貢献賞が授与された。特に反対はないみたいだ。


この後のパーティ、何事もなかったか?。少し過敏すぎるか。でも後悔はしたくない。契約精霊に聞く彼女たちに護衛チームは付けられるか?

ジークは必死に聞いている。茶化しちゃいけない。

報酬は?「ありがとう」笑顔、そして声・すべて制限なしで。それと身体くらいの魔力です。

そんなのでいいのか?今回のも?じゃぁ「ありがとう」そして魔力少し練ってるから。「!!!ジーク様これからも魔力は練ったので。」おねだりが飛ぶ。

存在感が増した気がした。これは変なのを付けられない。4人は3人1チームの護衛を用意した。上級精霊1人中級精霊2人?過剰戦力と感じるが愛する二人を守るため致し方ない。先に、「前払いの報酬を彼女たちに」

「わかった。まずは報酬だね。よろしくね」

3連コンボはもうお約束。問題の魔力。やはり存在感が増す。精霊王様に報告された。


護衛の任務はその者の護衛。危険を察知したら即殺せるように待機。スプラッタにならないよう脳内を損傷るか完全に消失させお陀仏いただく。本来人間と精霊が触れ合うことはない。ジークが触れ合えるのはひとえに使徒の称号故。


ちなみに護衛に着いた精霊、護衛なんて生易しい存在ではない。中級精霊で15000人規模の国軍の師団を8から10個師団は壊滅できる。上級精霊は1人で貴族の国ならば100か国前後、超大国のうちどちらかを瞬殺できる。つまり護衛がついたこの二人が世界を回るならば、その時点で国の危機になる。なにせ彼女たちは美しい、まさに絶世の美女を体現している。そんな彼女たちが立ち寄った国で王子クラスが

「一夜の栄誉を与えてやるから黙って抱かれろ」

などとやった時は国の崩壊の始まりとなる。依頼人というよりも命令者に近いジークの希望は、よこしまな感情で彼女たちに近づく者たち、ジーク自身から何かを奪うために彼女たちに近づく者たち。主にこれらの者が護衛を依頼された精霊の主目標となる。どう見てもオーバーキルである。

この後公認の恋人シェリルそしてシャル、この二人とも仲良くラヴラヴな日々を送り、治癒院内でも研修師でありながら指導治癒士の役を務めさせられ、指名治癒士第1位を続ける充実した生活を送ってきた。

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