第5話 動かされた心

俺は子供の頃ヒーローが好きだった。


だが俺が特別好きだった訳ではない。

同じ歳の子は皆揃って同じヒーロー番組を見て

代わる代わるヒーローの真似をして遊んでいた。

所謂年相応とやつだ。


ある程度の歳になるとヒーロー物から離れて

人気の漫画やスポーツを好み

時には女の子を目で追い掛けたりしていた。

至って平凡な学生時代だった。

そんな俺に博士は突然ヒーローに成らないかと尋ねてきた。


俺がヒーロー?死ぬしかないこの体で?


「そうだとも!私の技術が有れば君を生きれる身体を作るなんて簡単なのだよ!」


博士は少年の様な輝きを目に宿しまたしても容器にへばり付く。

俺は困ったようにリナに目配せをすると

呆れたように笑いながら博士を引き剥がしてくれた。


「博士の言い方だと伝わりませんのであたしが説明しますね。」


リナは結構苦労人なのかもしれない。


「一旦取りあえずヒーローは忘れて下さい。」


結構重要な単語だと思っていたがそうでは無いらしい。

博士も目に見えて落ち込んでいる。

そんな博士を無視しながらリナは説明を続けていく。


「正確に言うと協力者に成って欲しいのです。」


協力者?この身体をサンプルとして利用するって事か?


「安心したまえ。サンプルは既に取ってある。」


何を安心させるのだろうか。

むしろ安心できない情報だ。今後も寝てる時に何をされるか分かったものではない。

リナはもどうにもバツが悪そうに笑いながら説明を続けていく。


「私達の本来の目的は転生者のメカニズムを解明することにあります。」

「そして究極的には転生者発生を0件にする事です。」


研究所なんだからその目標設定は解る。

なら尚の事俺に出来るのはサンプル提供ぐらいじゃないのか?


「実は転生者研究以外にももう一つの側面を持ってます。」

「それは対ヴィラン専用警察装備の開発なのです。」

「吾妻さんには研究段階の試作装備を携行して実地演習をお願いしたいのです。」


要は使えるかどうか分からない武器を使ってヴィランと戦え…と?


「…」


要は捨て駒。使え無かった時に現職の警察官が試行していたら最悪殉職のリスクが発生する。

なら一度死んで人で無くなった俺なら後腐れは無いと言うことなのだろう。

国の考えそうなことだと思いながら黙って俯いてしまったリナに視線を流す。


リナは優しいのだろう。

俺みたいな存在にも思い遣りを持てるのだから。

そんなリナを見て博士は呆れたように俺に声をかけてきた。


「何を言ってるか。私が開発する兵器が並みの兵器だと思ったか?」


確かに狂った威力の武器ばかり作りそうだな。


素直な感想だ。

このクレイジードクターは威力を追及するあまり安全性を度外視しそうで怖い。


「使えるかどうかでは無い。使用者が耐えれるかどうかなのだよ!」


やっぱりそっちか。


「そして今の吾妻君には転生者としての回復能力がある!」

「そこに私の夢と技術を詰め込んだボディを提供すれば人間の数十倍の耐久性を与えられる!」

「まさに超人ヒーローの誕生なのだよ!」


博士はまたも踊り出す。

若いなこの人は。踊れる体力もそうだが精神面が本当に若い。

さらりと夢を詰め込んだと言っているし。


「吾妻さん!試用する武器等は安全を考慮し使用段階まで認可が降りた物ばかりです!」

「決して捨て駒なんて…そんな思いはありません!」


リナが真摯な目で俺に声を掛ける。

彼女は本心からそう思ってくれているのだろう。


「吾妻君!今一度問う!」

「超人と成って市民を守る真のヒーローと成らないか?!」


博士が眩しいまでの輝く目で俺に問いかける。


ヒーローか…俺には縁の無いテレビの向こうの世界だと思ってた…。


「じゃあ…!」


リナが満面の笑みをこぼす。


分かったよ。どうせ死ぬしか無い身体だ。誰かの役に立ってから死ぬのも悪くない。


「さすが私が見込んだ男だ!男同士同じ夢に向かって駆け抜けようではないか!」


いつ見込まれたのか分からないが博士は歓喜の声を上げている。

まさかこんな第二の人生が送れる日が来るとは予想だにもしていなかった。

感慨にふける俺に博士が更に声を掛けてきた。


「それではまずは身体を提供しないとな!」

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