第4話 ヒーローに成らないか?
やや怒気をはらんだ声の主がこちらに駆け寄ってくる。
女性だ。
歳は20代なかばだろうか。
かなり慌てた様子だ。
「博士!彼が目を覚ましたら直ぐに私を呼ぶようにお願いしていたじゃないですか!」
「あぁ。そうだったね。でも君居なかったじゃないか」
「席を外すから呼ぶようにお願いしたんでしょうが!」
何やら俺の目の前で漫才が始まった。
だが話の分かりそうな相手が来て少し落ち着いた。
君は?
「あっ!失礼しました。私はクリストファー・エメリッヒ博士の助手を努めております。姫宮リナリアと申します。」
姫宮さん…俺はどうなるのでしょうか…。
「リナで構いませんよ。現状としては選択肢が2通りご提示可能です。」
「ですがまずその前に状況説明から行いたいと思います。それを聞いた上で選択肢を選んで下さい。」
リナから簡単な状況説明を受けた。
俺は蟹の転生者に赦しを乞うたが結果としてはロケットランチャーを撃たれ絶命したらしい。
かの青年の様に銃で撃たれたと思っていたのだが
想像の斜め上だった。
そして転生者として覚醒するが遺体の損傷が激しく
再生能力が追い付かず特に暴れるといった事は無かったらしい。
そのまま警察に確保され今の研究所に運び込まれたらしい。
そしてこの研究所自体が警視庁の中にあるらしく
現状としては俺は拘留に近い状況らしい。
そして一番ショックだったのが俺の体の状況だ。
回復した箇所は脳と顔の左半分。
そして左肩から心臓と胸椎のみらしい。
首が動かせないと思っていたが
動かせないのではなく動く部位がほぼ無いらしい。
「以上が吾妻さんの置かれている状況となります。」
何も返答が出来なかった。
覚醒した所で既に死を待つだけの身体。
唯一の救いとしては他人を襲わずに済んだ事ぐらいか。
なんでも転生者が覚醒した直後は自我が無く
そのために周囲の人を襲ってしまうのだと教えられた。
返答が無い事をリサは分かってくれている様子で
なんとも言えず悲しそうな表情を向けてくれている。
「で?次からが大切だろう?黙っとらんと説明せんか」
何故この男はこうなのだろう。
「吾妻さんのお気持ちを考えて下さい!」
リサは博士を睨み付ける。
「言いにくいなら私が言おう。要は生きるか死ぬかだ。」
生きるか死ぬか?
死ぬ以外の選択の余地など無いように思えるが
博士は生きる選択も用意していると言うのだろうか
「まずは死ぬ方だが。ようはこのまま殺処分される事だな。」
「博士!言葉を選んで下さい!」
リサが相変わらず怒声を上げているが
博士の言う通りなのだろう。
俺をこのまま生かすメリットが彼らには無いのだから。
「吾妻さん。貴方は覚醒時に罪を犯していません。それはとても大事なことなのです。」
「罪を犯した転生者は人類の敵。ヴィランとしての認定を受けます。」
「そしてヴィランとなった転生者は特殊部隊や自衛隊の手によって文字通り殺処分として扱われます。」
「しかし吾妻さんの場合はヴィラン認定が降りません。名実ともに人として扱われます。」
こんな姿でも俺は人なのか?
「人です。転生者は元々人です。姿が変わっても人で在ることは変わりません。」
リサは凄い人なんだと思う。
こんな姿の俺や蟹の転生者を人と言い切れる人間が今の社会にどれだけいるだろうか。
俺は無理だったと思う。
「吾妻さんは人としての尊厳を維持したまま天寿を全うすることが出来ます。」
人として…。少し前までは当たり前だった事が
今の俺にはズシリとのし掛かってくる言葉である。
「さて?ここまでは理解できたかね?」
俺とリサの物憂い空気を知ってか知らずか博士は次の選択肢を投げ掛けてくる。
まぁ何とか…。
「よろしい!ではもう一つの選択肢なんだがね?実はこいつが本題だ!」
「先程も言ったように生きる事が出来る唯一の選択肢だ!」
博士は今にも踊り出しそうなほど興奮して俺の入った容器にへばり付く。
近い。
リナがへばり付けば喜んで見ていられるが
初老の同性がこの距離は近すぎる。
そして離れたかと思うとクルリと一回し
俺に指差し想像し得ない一言を投げ掛ける。
「吾妻健君。ヒーローに成らないか?」
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