第3話 吾妻 健

「吾妻 健(アズマ タケル)君。27歳。意外に若いね?」

「職業はサラリーマンか…。何とも特徴の無い経歴だね。」


謎の声は勝手に俺の個人情報を読み上げながら無遠慮な感想を述べている。


声の主は誰なのか?

ここは何処なのか?

俺はどうなったのか?


聞きたいことが沢山あるが声が出ない。

口が動かないのだ。


「えらく質問が多いね?どれから答えようか?」


俺の考えたことが伝わった?


「伝わるよ?君の能力を利用すればこれぐらい動作もないよ」


能力?

いったい何の事を言っているのか全く分からない。


「ん?あぁ…そうか。スクリーンを掛けたままだったね。」


そう言うと急に視界が開けてきた。


目に飛び込んできた光景は無機質で飾り気の無い壁に

見たこともない機械がズラリと並んでいた。


そして俺は、本当に水の中に居るらしい。

幾つもの管が上へと伸びている。

俺自身の身体を確認しようと思うが動かせるのは目だけで

手足はおろか首すら動かせず確認のしようが無かった。


「どうだい?我が城は?殺風景なものだろ?」


嬉しそうに謎の声がすると俺の視界に初老の男性が映りこんできた。


「だが、そこが良いと思わないかね?男の夢に華やかさは不必要なのだよ!」


妙な持論を展開させている謎の声の主が彼なのは間違いないらしい。

とても目が輝いている。


ここは?


「見て分からないのかね?私の研究所。ラボだよ。」


彼はやや不満そうに紹介してくれた。


研究所と言うことは俺は生きているのか?


「yes!その通り!残念ながら君は死ねなかったのだよ!」


何と嫌味な人だろうか。

人の事を死んだ方が良い様に言うなんて非常識甚だしい。


しかし何故生きているなら病院では無く

この変人の研究所なのかが分からない。


「変人とは失礼だな?」


聞こえる事を忘れていた。


「まあ、みんなそう言うけど」


そう言うと彼は一人笑い出した。

やはり変人だ。


変人だが取りあえず彼から話を聞かないと何も分からない。


医者は居ないのか?


「医者?そんなもの此処にはいないぞ?」


だが俺は怪我人なのだろう?治療して下さった医者が居るはずだ。


「治療?そんなものしとらんよ?いや治療中になるのかね?」


他に人は居ないのか?貴方では埒が明かない。


彼は俺の質問を無視し何やらブツブツと独り言を始め出した。

此方には音声が届かないため何を言っているかは分からない。

本当に埒が明かない。


おい!いい加減にしてくれ!貴方は誰で俺はどうなったんだ!?


怒鳴り付けれたのか分からないが

今俺が表現出来る最大限の怒りを彼に叩き付けた。


「ん?私の名前かね?私の名前はクリストファー・エメリッヒ博士。転生者研究を行っている。」

「そして君。吾妻健君は転生者として覚醒した。」


えっ?


転生者に覚醒しただと?

俺が転生者?

俺があの蟹と同じ転生者?


馬鹿げている。

馬鹿にしているとしか思えなかったが

彼は転生者の研究者を名乗っている。

そして医者が居ない。

場所も研究所。

色々な要素が嘘と信じたい俺を否定する。


博士を名乗る彼が何かを言っているが耳に入らない。

信じたくない俺の心がすべての音を遮断している。


コンコン


彼…クリストファー・エメリッヒ博士が私の入っている容器をノックし我にかえった。


「どうしたのかね?あの状況下で君が生きているわけが無いだろう?」


博士の言う通りだ。

だが…だからと言って納得出来るわけがない。


俺を動けるようにしろ!ここから出せ!


「別に良いが…君死ぬよ?」


えっ?


「今の状況で何とかもってるからね。」


最早絶望しか無い。

そう思った時だ。

突然別の声が入り込んで来た。


「博士!何勝手な事をされているのですか!」

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