第16話 絆を束ねて
【フィア・グランツ王国 城の屋上】
ステラの部屋に寄って、ミニチュア爺やセットを装備してきた。弾け飛ぶのが玉に傷だが、防御性能は高いからね。
「お、ようやく主役の登場っすね。爺やの炊き出し、無くなっちまいやすよ?」
「いや、一人でどんだけ食うつもりじゃ…炊き出しで大食いするヤツなんか見たこと無いわ…」
「はははは!グラナは相変わらずだなぁ!ステラ、ユキト、調子はどうだ?」
城の屋上に着くと、すでにほとんどの騎士達が準備を整え、待機している。
グラナ、ソフィア、ソル国王様が大釜を囲んでいる。なかを覗き込むと豚汁のようなものが入っていた。町並みは中世ヨーロッパ風なのに思いっきり和食…まあ、異世界だし、おにぎり貰ったこともあるし…細かいことは気にしない方がいい……のか?
「大丈夫です。任せてください、父上」
「ステラは…必ず守ります」
「うむ…どうやら迷いは無いようだな。二人とも少し元気が無いようだったから心配していたのだが…もう大丈夫なんだな?」
ステラと顔を見合せ、頷く。
「「はい!」」
「よし!任せたぞ!二人とも!」
ソル国王は俺達の頭を軽く撫でて、騎士達の激励に向かった。
「旦那、お嬢、南側には何人か残ってましたけど、もう問題ないです。そっちは?」
グラナが豚汁の入った器を二つ差し出した。肩から飛び降り、受け取りながら答える。
「こっちは一人も居なかったよ」
「異常無し!そういえば、爺やは?」
「アルバならとっくに避難したぞ。城の非戦闘員を連れてな。二人によろしく言っといてくれと言っとったわ」
「そっか…後で炊き出しのお礼言わないとね」
「ああ、そうだな」
豚汁を啜る。
…うん、さすが爺や…良いダシ出てる。
「美味いっすよねぇ…あとでレシピ聞かなきゃなぁ…」
「おぬしら、そろそろ配置につかんか。もうすぐ作戦開始じゃぞ」
「「「はーい」」」
ソフィアに促され、急いで豚汁を掻き込む。
「ごちそうさま!」
「よっしゃ!やりますかぁ!」
ソフィアとグラナが配置につく。俺も行かなきゃ。ステラと『
「また後でね。ステラ」
「ああ、頼んだぞ。ユキト」
互いに腕を伸ばし、親指を突き立てた。
「よし!全員、配置についたな!」
ソル国王が最終確認をとる。
全員、武器を構え、「応!」と答えた。
「よし!これより、鯨怪獣迎撃作戦を開始する!……突撃部隊!攻撃開始!!!」
国王の合図と同時に走り出す。円形に並んだ騎士達の足に触れ、次々と『
10人前後『
槍に込められた魔力と俺の魔力が混ざり合った攻撃が連続で叩き込まれ、多数の衝撃波が『鯨怪獣』を包み込んだ。
『鯨怪獣』の身体は傷つき、表面がわずかに抉れていくように見えた。
突撃部隊を援護する、光線のような魔法が『鯨怪獣』へ直撃して…
よし!効いている!このままいけば…
その場の誰もがそう思った瞬間…
「グオオオオオオォアアアアァ!!!」
城全体が振動で崩れてしまいそうなほどの雄叫び。全員が怯み、耳を塞いだ。
見上げると、先に突撃した騎士達が気を失っている。マズイ!
「あいつらなら大丈夫じゃ!意識がなくてもワシの魔法具は作動する!」
落下してきた騎士達は屋上に激突する寸前でフワリと浮き上がり、ゆっくりと着地した。良かった…
クラクラする頭を押さえ、作戦を続行しようと腕を伸ばすと、ガブリと、小振りななにかが腕に食いついた。
「痛っつ!なんだ!?」
腕を見ると、コバンザメのような魚が腕に噛みついている。小さな歯車が突き出ているので間違いなく『怪獣』だろう。
噛みつかれた勢いで思わず「痛い」と言ったが、それほど痛みはない。だが、ビチビチと鬱陶しいので乱暴に払い除ける。
周囲に目を向けると、大量の『魚怪獣』が騎士達に襲いかかっていた。
「くそ!なんだこいつら!」
「『鯨怪獣』から大量に飛び出してきてます!」
「ユキトさん!大丈夫で…ぐわぁ!」
騎士達に大きな被害は見られない。だけど単純に量が多すぎる。それに、こいつら…
「魔力が…吸い取られてる…?」
次々と食い付く『魚怪獣』達の攻撃は、ダメージはほとんど無いものの、噛みつかれた所から魔力が失われていくのを感じた。
俺は無駄に魔力が多いから問題ないけど、これ、他のヤツらはヤバいんじゃないか?
「ソフィア!これって…!」
「ああ!このままでは魔法具の起動や、大魔法の詠唱どころではない!」
くそ!作戦失敗か!?
もちろん、騎士達やグラナが必死に『魚怪獣』と戦ってはいるが…『鯨怪獣』から無尽蔵に吐き出される『魚怪獣』達の勢いはおさまる気配がない。
撤退の可能性も考えた時、ステラが『魚怪獣』を振り払いながら、こちらに向かって来ているのが見えた。
ステラは、まだあきらめてない。
「ソフィア!一か八か突っ込んでみる!余裕があったら援護おねがい!」
「分かった!じゃが、あまり期待はするなよ!」
「うん!」
ステラに向かって走り出す。しかし、おびただしい量の『魚怪獣』が行く手を阻む。
二の足を踏んでいると、数人の騎士達が『魚怪獣』を凪ぎ払う。
「行ってください!ユキトさん!」
「ありがとう!『
騎士達の身体に触れ、魔力を流し込む。
「ありがとうございます!」
「よし!道を切り開く!」
「ユキトさんをステラ様の元へ!」
「応!」
振り抜かれた剣の先へ飛び出す。
そこに現れた『魚怪獣』をまた別の騎士が切り裂き、足にタッチして『
騎士の背中に飛び乗り『
ジャンプした先、床スレスレに『魚怪獣』がいたが、騎士が手を掴み、投げてくれたので回避できた。手を掴んだ時に『
騎士達の脇を、頭上を、股下を、縦横無尽に駆け抜け、『
その時、突然、目の前から『魚怪獣』の大群が、密集して襲いかかってきた。
ヤバい!ぶつかる!
「どっせい!!」
間一髪、グラナが振り回す大斧が『魚怪獣』を蹴散らした。
「行ってくだせぇ!旦那ぁ!」
「ありがとう!」
散らばる『魚怪獣』を踏みつけ、ステラの元へ!
「ステラァァ!」
「ユキトォォ!」
互いに腕を掴み、肩に飛び乗る。そして…
「「『
同時に叫んだ。
二人の身体が輝きを纏い、『魚怪獣』を吹き飛ばす。
「ずいぶんと好き勝手やってくれたが、それもここまでだ…」
イメージが流れ込んでくる。一瞬で間合いを詰め、一撃で真っ二つにするイメージ。
腰を深く落とし、剣を両手で構え、『鯨怪獣』を見据える。
「「こいつで決める!フィア・グランツ流、魔法剣!奥義!!」」
ドンッ!!!と、勢いよく跳んだと思ったら、すでにそこは『鯨怪獣』の懐。
喰らえ…!
「「シャイニング・スラッシャァァァァァ!!!」」
長く伸びた光の剣が、空ごと『鯨怪獣』を切り裂く。
『鯨怪獣』の身体が震え、傷口から血液が吹き出す。
やったか?と思った次の瞬間、ギョロリと大きな眼球がこちらを向き…その巨体を俺達に押し付けてきた。
いや、違う…これは、落下の速度が上がってる!?
「ぐっ…!これは…!」
「まさか、こいつ…死ぬ前に俺達を押し潰す気か!?」
「そのようだな…笑えない冗談だ…!」
落下速度が上がった『鯨怪獣』が俺達にのしかかる。どうする!?離脱してもう一撃…間に合うのか?ステラは耐えられる?
逡巡すると同時にソフィアの魔力を感じた。どうやらグラナと共に何かするらしい。
「…合わせるぞ、ユキト…!もう一撃…!」
ためらってる場合じゃない!多分、この感じなら、あと一発ぐらいなら…!
「分かった!でも、これがダメなら作戦中止だ!」
城の屋上でグラナが特大の槍を振りかぶる。あんなの、グラナ以外に誰が扱えるのだろうか?
「いくぜ、ソフィアァァ!!」
そんな、とんでもない重さであろう槍を、あろうことか上空へ向かってぶん投げた。
「任せておけ!こいつは、必中と勝利が約束された神の槍じゃ!受け取れバケモン!!」
槍はソフィアの魔力を吸い込み、稲妻のような光を放ちながら、速度を増して猛進する。
「「ぶち抜け!グングニル!!!」」
ソフィアとグラナが放った槍が当たる直前、俺達も『鯨怪獣』の身体を蹴り、距離をとる。
「「シャイニング…スラッシャー!!」」
神の槍と光の剣が『鯨怪獣』の身体を貫き、落下が止まった。ガクガクと激しく痙攣する身体から大量の血液が降り注ぐ。明らかに致命傷のはずなのに…
『鯨怪獣』の眼球がギョロギョロと動き、身体を傾けながら、更に速く落下してくる。
俺とステラは再び、その巨体にはりつけられた。
「くっそ…かはっ!」
「っ!ステラ!?」
ステラが吐血した。もう限界だ。
「逃げよう!ステラ!」
「………ダメだ…」
「…は…?」
「このままじゃ…みんなが…」
振り向いて、屋上を見る。
ソフィアが。
グラナが。
国王が。
騎士達が。
そこにいる。
俺達を。
『怪獣』を。
見ている。
今、逃げれば…
俺とステラは助かるかもしれない。
でも…
他の人達は?
多分………………
そして…
ステラは諦めない。
イメージが流れ込んでくる。
必死に足掻いて。
無駄に足掻いて。
全員まとめて…
押し潰される。
分かってんじゃん。
無理だって。
諦めようよ。
もう……………
逃げよう……
「ステラ………」
「………すまない…ユキト……約束………」
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
魔力をステラに流し込む。遠慮無く、全力で。彼女が『彼女らしく』、『生きる』ために。
「ぐ、ああ…!すまない、ありがとう…!ユキト!」
光の剣が再び煌めく。彼女の命を燃やしながら。
剣が鯨を切り裂くたびに、彼女の身体が崩れてく。血が滲み、骨が軋み、とっくに戦える身体じゃないのに、彼女は止まらない。
なんでこんなことになった?
どこかで間違えたのかな?
もっと、最良の選択が?
作戦会議の時に相談してれば…
怪獣が現れた時に逃げていれば…
…いや、多分………
君は絶対、諦めなかっただろうね………
…強い君の戦う力になれる。それはとても嬉しいことだ。でも、守られてばかりは嫌だよ。手助けだけじゃなく………
俺も君を守りたい。
一方的に守られて、君がいなくなるのを見てるだけなんて絶対に嫌だ。
みんなだってそうだ。みんな君が好きなんだ。君を守りたいって思ってる。
ステラを守れる力がほしい。
悪魔でも、神様でも、通りすがりの誰かでも構わない。
力を貸してくれ。
チートでも覚醒でもなんでもいい。
秘められた勇者的な力とか目覚めるなら早くしろ!
モタモタすんな、ひねり出せ!
イナバユキト!!
今、この瞬間、この場所にある、全てをかき集めて…
奇跡を!!
掴み取れ!!!
突然、視界が光に包まれた。
キラキラと輝く、糸の様なものが束になって、目の前で揺れている。
誰かの声が聞こえたような気がした。
手を伸ばし、光の束を掴んだ。
「発動条件が満たされました。スリープ状態を解除。アーティファクト、『フェニックス』を起動します」
頭の中に声が響く。ネメシス様?違う、初めて聞く声だ。いや、それよりも…
「アーティファクト…『フェニックス』…?」
「詳しい説明は後程…発動コードは『
「……分かった…『
叫ぶと、胸の奥が熱くなり、背中が燃え上がった。炎は翼のようになり、俺とステラを優しく包み込む。
すると頭の中に次々といろんな人の声が聞こえてくる。
「おぬしらなら、できる!」
「旦那!お嬢!」
「お頭のご友人!踏ん張り時です!」
「そうだ、諦めるな、ユキト!」
「頑張って!」
「負けないで…」
「生きて帰ってこい…!」
「おうじょさま!ユキトー!」
「『
「なにが起こってるの…?」
「あなた達が繋いだ『絆』を全て束ねて…あなたの力にします…」
「なにができる…?」
「身体機能の全回復。『鯨怪獣』の消滅」
炎の翼がぶわっと開き、全力全開の王女様が光の剣を突きつける。
「ユキト、何をした…?」
「奇跡を…掴み取ってきたよ」
「そうか…愛してる」
イメージが流れ込んでくる。
無数の光が『怪獣』を跡形もなく消し飛ばしていく。
その光景は、まるで流れ星。
炎と光の衝撃波が広がり、『鯨怪獣』を押し返す。
「「シャイニング・スラッシャー…乱れ切り…!」」
「「シューティング・スタァァァァァ!!!!!」」
「グオォォアアァッ!!!」
剣から飛び出す流星が、『怪獣』の身体をズバズバと削っていく。
飛び散った血と残骸がキラキラと光り、夕焼けの空に溶けていった。
「「やっ…た……」」
炎の翼も少しずつ消えていく。
ヤバいヤバい、早く降りないと…
ゆらゆらと頼りなく降りてくる俺達を、グラナとソフィアが受け止めた。
ああ……疲れた………
「凄かったっすねぇ!旦那!お嬢!」
「いやはや…見事としか言いようがないのぅ…身体は大丈夫か?二人とも」
「ああ、私は大丈夫だ」
「俺は………正直もう無理…指一本動かないよ…いててて…」
うう…意識はとばないけど…むしろ、とんでほしいくらい辛い……なんでステラはなんともないんだ?
「それが『
頭の中に声が響く…
なるほど…だから俺だけ辛いのね…
「なんかよくわかんないけど…今回のは、ステラは大丈夫っぽい…」
「そうなのか?なんだか、悪いな。ユキトばっかり辛そうで…」
抱き寄せられて、頭を撫でられた。
ああ…気持ちいい…
「…君の力…とても暖かかった…」
「俺だけじゃないよ…みんなが力を貸してくれたんだ…」
「ありがとう…本当にありがとう…愛している…大好きだぞ、ユキト…」
「…ステラ……生きていてくれて、本当に良かった………」
「……………」
「……………」
二人の間に、とてもゆっくりと…穏やかな空気が流れて…
「…じゅるり」
「え?なんで今ヨダレ湧いた?」
「いや、もう、正直、辛抱たまらん。マジ尊い。ホント、限界だわこれ」
変態王女の手つきが怪しくなってきた。
「ウソでしょ?この流れでそんなことする?」
変態が「ハァハァ」と息を荒くしながら、俺の首筋の辺りをモゾモゾ触ると、いきなりミニチュア爺やセットが、パァン!と音を立てて弾け飛んだ。
「きゃぁぁあ!?」
「おっと…さっきの戦いでダメージが溜まっていたのかな…?」
こいつ…!なんか仕込んでたな!?
「…ゴクリ」
あ!ダメなヤツだコレ!
「いやぁ!助けて!蹂躙されるぅ!」
ソフィアとグラナに救援要請!
「「ごゆっくりどうぞ」」
同時に目を逸らす二人。
「あきらめないでー!!」
「疲れているだろう?まずは風呂に入ろうな。お腹はすいてないか?食べさせてやるぞ?その後は私の部屋でゆっくり…ひゃあ!テンション上がってきた!」
動け俺の身体!
動け!動け!動いてよぅ!
もっかい奇跡を起こせ!
ひねり出せ!
イナバユキト!!
ねえ!誰か聞こえてないの!?
さっきは助けてくれたじゃん!
『絆』束ねて?ほら早く!
頭の中に声が響く…
「ねえ、ママ、ユキトとおうじょさま、これから何するの?」
「し!見ちゃいけません!」
「『絆』が不足したため、『フェニックス』をスリープします」
ちょっと待ってぇ!?
「じゃあみんな!すまないが私はユキトを介抱してくるから!後は任せた!」
「いや、ホント、マジで誰か助けてぇ!!」
屋上から、兎獣人が変態王女に連れ去られて行く間、誰一人として兎獣人と目を合わせてくれる者はいなかった…
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