第7話 魔法幼女は年齢不詳

【異世界アニマ フィア・グランツ王国西の森 ソフィアの家】

 

 昨日は夜遅くに出発したので、とりあえずソフィアの家で一夜を明かした。

 三人で無言の朝食を済ませると、俺たちはリビングに集まった。

 

「ごめんなさい。反省してます…」

 

「ほ、ほら、ソフィアも謝ってることだし、許してやってくれ、ユキト」

 

「………チッ…」

 

 謝るソフィア。仲裁するステラ。舌打ちする俺。


「あのね、眼球だよ?眼球。それをね?えぐり出そうとしたわけだよ、この魔女は!」


「……いいじゃろ…ユキトぐらいの魔力があれば、眼球ぐらい、一週間もあれば再生するし…」


「ソフィア…!」

 

「あ!?そういう問題じゃないんだよ!」

 

 ていうか、俺、目玉、再生すんの?一週間で?気持ち悪!バケモンかよ…!

 

「と、とにかく!今後、一切!他人の目玉を取ろうとするな!分かったか!?」

 

「分かりました。反省してます…」

 

「…よし!解散!」

 

 正直、ソフィアのことはまだ信用できないが、あんまりダラダラ怒ってても疲れるしな…

 俺は大人だから、一度や二度、眼球をえぐり出されそうになっても相手を許せる、広い心を持っているのだ。もちろん、二度とごめんだが…

 

「ありがとう、ユキト、大好きだぞ。良かったな、ソフィア」

 

「…ありがとう、ユキト…本当にすまなかった…」

 

 解散と言ったのに、ステラに抱き上げられたせいで、退室できなかった。

 

「えーと…あ、そうだ。ステラ、なんかソフィアに用が有るんじゃなかったっけ?」

 

 ステラに話をふると、「そうだった!」と、ステラが話し始めた。

 

「ソフィア、また『怪獣』が出たんだ」

 

「『怪獣』?ああ、あの妙な魔物モドキか。王国の方で凄まじい魔力を感じたが、もしかしてお前たちがやったのか?」


 そういえば、俺が転生する前にも『怪獣』が出たって言ってたっけ。

 

「ステラ、俺が来る前の『怪獣』って、どんなやつだったの?」

 

「豚の獣人のようなやつだ。私とユキトで倒したのを小さくした感じだ。だいたい、父上と同じくらいだったかな」

 

「その時は偶然、ワシが居合わせてな。ステラとワシで撃退したんじゃ」


「ソフィアって、結構、強いんだ?」

 

 そう聞くと、ステラの方が自慢気に答えた。

 

「結構なんてもんじゃない。ソフィアの魔法はすごいぞ!『怪獣』と戦った時も、一瞬でやつを焼き払ったんだ!」

 

「これ、あんまり持ち上げるな。それよりも、おぬしたちが戦った『怪獣』について詳しく聞きたいのぅ」

 

「そうだな!少し長くなるが…」

 

 

 そう言って、ステラは今までのことを話した。俺との出会い。『怪獣』のこと。魔王城に行くこと。そして、芋虫の『怪獣』のこと。

 

 

 話を聞いてる間に、ソフィアがお茶を淹れてくれた。

 

「…ふむ、なるほどのぅ…たしかに、魔王城の様子は確認しておきたいのぅ…それに、この森に出現し始めた芋虫の『怪獣』…アレにはワシも苦労してるんじゃ」

 

「苦労?『怪獣』を焼き払えるぐらい強いんだよね?」

 

「じゃから、あんまり持ち上げるな。ワシが倒した『怪獣』は大したことない。おそらくワシでも、二度目の『怪獣』は倒せなかったじゃろう」

 

 ソフィアがお茶を飲みながら続ける。

 

「芋虫の『怪獣』は数が多い。そして森の動物や木の実だけでなく、樹木まで食べてしまうのじゃ。この森の物は魔力が多く、魔法の研究に都合が良いから住んでおるのに…このままでは森を食い尽くされてしまうわ…」

 

 ソフィアの話を聞いたステラが、勢い良く立ち上がった。

 

「だったら!私たち三人でなんとかしよう!わたしも、この森には思い出がある…小さな頃から遊んでいたし、ユキトにも出会えたしな」

 

「…うん、みんなで『怪獣』退治だ!」


「…そうじゃな…おぬしたちとなら、なんとかなるかもしれん。しかし、まずは準備じゃな。ステラはともかく、ワシには色々、準備が必要じゃ。ちょっと待っとれ」

 

 そう言うと、ソフィアはリビングを中心に様々な道具を家の至る所に広げ、調合やら加工やらを始めた。

 俺は、彼女がなにをしているかは分からなかったが、なんとなく目が離せなくて、その様子を眺めていた。

 ちなみにステラは、じっと待っているのに耐えられなくなったのか、「ちょっと偵察に行ってくる!」と言って出掛けてしまった。

 

 準備を進めるソフィア。俺はしばらく、ソフィアに扱われる道具の音に耳を傾けていた。

 カチャカチャだったり、ブクブクだったり、それらの音を聴いていると、何故だか心が安らぐ気がした。

 

「興味があるのか?」

 

 作業の手を止めず、こちらを向くこともせず、俺に問いかけてきた。

 

「あー…どうなんでしょう?よく分からないです。ただ、なんか、いい音だなって」

 

「…ふふ、『いい音』か…なるほどの…」

 

 彼女はなにか、懐かしいものを思い出すように、部屋の隅を見ながら目を細めた。

 

「…どうかしました?」

 

「いやぁ、以前にもそんなことを言っていたウサギがおったなぁと思っての?ざっと、400年ほど前かの…」

 

「400年前!?え、ソフィアって今…?」

 

「ふふ、歳なんて、もう数えとらんよ。呪いだったのか、魔法だったのかも忘れてしもうたわ…」

 

 ソフィアの見た目は地球で言うところの、小学校低学年くらい。魔法かなにかで、若い状態を保ってるのか…?

 

 

 

「なるほど…あれが俗に言う、『ロリババア』ってやつね…!」

 

 ネメシス様が俺の脳内に、デリカシーを力の限り、こそぎ落としたコメントをぶちこんできた。

 

「もしくは『合法ロリ』」

 

 やめて差し上げろ。

 

「『合法ロリ』ってすごい言葉よね。『合法』って書いているが故に、かえって違法性を帯びてしまっているというか…」

 

 言いたいことは、なんとなく分かってしまいますけど…今、ソフィアが自分の歴史に思いを馳せて、いい雰囲気を漂わせてるんで、ちょっと静かにしててください。

 


 

「のう、ユキトよ」

 

「ハイ!すみません!」

 

 脳内に集中し過ぎてたところに突然話しかけられて、思わず謝ってしまった。

 

「ど、どうした?大丈夫かの?」

 

「はい…大丈夫です」

 

 ソフィアが俺に薬草の様なものを差し出した。

 

「どうじゃ?少し手伝ってみるか?」

 

「え、いいんですか?」

 

「かまわんよ。すこしでも興味があることは、積極的にやってみよ。ワシの長い人生の、数少ない教訓じゃ」


「ありがとうございます。それじゃあ…」

 

 そこからは色々教えてもらいながら、二人で準備した。作っていたのは魔法具と呼ばれる、魔法と科学を融合させたような物だった。治療や攻撃、目眩ましみたいな、補助的なものも有るようだ。

 

 こういう道具を使えば、非力な俺でも役に立てるかな…?

 そう思い、積極的にソフィアから魔法具の作り方や、使い方を教わった。 

 

 お昼を過ぎた頃にステラが帰って来た。

 

「二人とも、聞いてくれ」


 ステラが少し、深刻そうに話を切り出した。

 

「巣を見つけた」

 

 

 

【フィア・グランツ王国西の森 奥地】

 

「あれがそうか。巣と言うよりは『母体』かのぅ?」

 

 ソフィアの視線の先には、透明な膜に覆われ、お腹が大きく膨らんだ、女王蜂のような『怪獣』が居た。

 そして、その『母体』から芋虫が産み落とされた。

 

「卵から孵るわけではないんだな」

 

 ステラの言葉にソフィアが答える。

 

「いや、ヤツの腹をよく見よ」

 

 ステラが目をこらすと、女王の腹の中に、卵が透けて見えた。

 

「ああ、お腹の中で孵してから産むのか」

 

「そのようじゃ。しかし、あの女王、見た目より丈夫そうじゃのぅ…かなり強い防御魔法を纏っておる…」

 

「ああ、私もさっき少しちょっかい出してみたが、まったく切れなかった。しかも、すごい勢いで芋虫たちが集まってきて反撃してきた。また飲まれるとこだったぞ」

 

「おぬしは、また無茶しおって…まあ、概ね想定通りじゃ。芋虫どもは『母体』を刺激しなければおとなしい。このまま隠れていれば襲われないじゃろ。ユキトの合図で一気に叩く。ステラ、油断するでないぞ…」

 

「分かっているさ。ユキト…がんばれよ…信じているぞ…」

 

 二人は『母体』が見える木の上で、気配を消す、フード付きのマントを頭から被っている。

 

 その頃、俺はソフィアの作戦を実行するために、森の端まで来ていた。

 


 

【数分前 ソフィアの家】

 

「とりあえず、私とユキトでぶった切ればいいかな!?」

 

 ステラが腕まくりしながら肩を回している。王女とは思えないほど逞しい仕草だ。

 

「まあ、それで終われば問題ないが、ダメだった時のリスクが高すぎるじゃろ。ここは少し慎重にいくぞ」

 

「ん!確かに!」

 

 今度は腕を組んで、ドカッと椅子に座るステラ。いちいち雄々しいな。

 

「まあ、作戦と呼べるほどではないが、まずは芋虫どもを一ヶ所にあつめる。そして芋虫が戻る前に巣を叩く」

 

「うむ!分かりやすいな!でも、どうやって一ヶ所にあつめるんだ?」

 

「それにはコイツを使う」

 

 ソフィアはランプの形をした魔法具を取り出した。

 

「コイツに火を灯せば、芋虫どもを引き寄せる魔法が発動する。コイツを森のどこかに設置してほしい。頼めるか?ユキト」

 

「俺が?」

 

「ああ、この中で一番、身軽なのはユキトだ。ランプを設置した後、即座に離脱、ワシらと合流するんじゃ」

 

「分かった」

 

 ソフィアからランプを受け取る。

 

「それから、これも頼む。狼煙じゃ。ランプから離脱しながらでいい、空に向かって撃ってくれ。これは魔力も同時に飛び出すから、見えなくてもワシなら感知できる」

 

 さらに銃の様な魔法具を受け取った。

 

「了解!」

 

 

 

【現在 森の端】

 

「よし、この辺でいいかな?」

 

 さっそくランプの設置に取りかかる。

 

 今の俺は、全体的にミリタリーっぽい格好をしていた。

 緑色の短いカーゴパンツとサスペンダー。

 迷彩柄でポケットがたくさんついたベスト。

 腰の横にウエストポーチとナイフ。

 ポーチやポケットには、ソフィアと一緒に作った魔法具や薬が入っている。

 その上から、ステラたちと同じ、気配を消すマントを羽織っていた。

 

 ランプには、地面に刺すための杭がついている。それを力いっぱい地面に突き刺した。 


「よし!誘引ランプ、発動!」

 

 地面に深く射したランプに火を灯した。すると、途端に芋虫たちが集まってきた。

 

「うわ!すごい効き目だな!」

 

 急いで木に飛び乗り、様子をみる。

 

「ギチギチギチギチ」

 

 芋虫たちがランプの光をじっと見つめている。(目がどこについているかは正直よく分からないが…)どうやら成功したみたいだ。

 次に俺は狼煙を上げる魔法具を空に向かって発射した。

 

「任務完了。二人と合流しよう。んーと、こっちだな」

 

 長い耳をピクピク動かし、二人の気配を探る。きっと、俺の合図でマントを脱ぎ捨てたのだろう。さっきまで感じられなかった二人の魔力を感じる。

 

 ソフィアに教えてもらって、耳に意識を集中すると、音だけでなく、気配や魔力も感知できることに気づいた。俺が思ってる以上に、この耳は色々なものを感じ取れるらしい。

 

 木から木へ飛び移り、二人を目指す。

 

 

【フィア・グランツ王国西の森 奥地】

 

「来た!合図じゃ!」

 

「よし!行くぞ!」

 

 ステラがマントを脱ぎ捨て、女王蜂に向かって走り出す。

 

「フレイムソード!」

 

 ガキィン!と、硬い金属が当たるような音を響かせ、ステラの剣が薄い膜に弾かれた。

 

「く…!やはり硬いな!」

 

「焦るな!ステラ!こっちへ来い!」

 

 ソフィアもマントを脱ぎ捨て、木から飛び降りる。魔法の力か、ふわりと、重さを感じさずに着地した。


「おぬしの魔法剣にワシの魔法を上乗せする!構えろ!」

 

「おお!」

 

 ステラが剣を構えると、剣が赤く光る。そこに、さらに別の紅い光が集まっていく。

 紅い光がステラの剣を覆い、槍のようになった。

 

「ヴォルケーノ・ランス!」

 

 炎を吹き出しながら、紅い槍が膜に刺さる。そして、大きな爆発で辺り一帯を吹き飛ばした。しかし…

 

「ギチギチ…」

 

 女王蜂には傷一つ、つけられない。

 

「なんだと!?」

 

「…これでもダメか…ステラ!連続でぶちこむ!気合いじゃ!」

 

「おお!気合いならませておけ!」

 

 

 俺はその様子を音と魔力で捉えていた。

 

「ずいぶん派手にやってるみたいだけど、それってつまり苦戦してるんだよね…早く行かないと!」

 

 森の中を走っていると、後ろの方から芋虫の気配を感じた。まさか、もうこっちに向かって来てるのか!?

 

「これで、足止めくらいできればいいけど…」

 

 ポーチから試験管をばらまいた。粘着性の高い液体や、踏んで割れると魔法が発動するものだ。

 ちなみに試験管は、割れると同時に魔法で分解されて消滅するらしい。エコである。

 

 しばらく走ると魔法の光が見えてきた。

 

 

「ステラ!ソフィア!まずい!もう来てる!」

 

「くそ…まだ膜すら破れてないのに…」

 

「たしかに、ちと厄介じゃの…魔法具も、ほとんど効果無しじゃ…」

 

 少し開けた場所に、女王蜂のような『怪獣』が居た。周りには激しい戦闘の跡があるのに、『怪獣』は無傷だ。女王蜂は特になにもせず、ただ膜の中でじっとしている。

 

「ギチ…」

 

「ふ…ずいぶん余裕じゃの…絶対に破れないとでも言うつもりか…?」

 

 ソフィアが悔しそうな顔で杖を握り直した。

 

「ユキト!こうなったら私たちで…」

 

 ステラが俺に『接続コネクト』を促そうとすると、その間にソフィアが割り込んできた。

 

「「ソフィア?」」

 

「ここはワシにやらせてくれんか?」

 

 覚悟と、『強い意志』を感じさせる瞳で、俺を真っ直ぐ見つめてきた。

 

「確証は無いが、やつを覆っておる膜…ただ硬いだけでは説明がつかん…なにか、世界の法則を無視しているような違和感がある。恐らく、ステラの魔法剣では切れないじゃろう」

 

「…私も薄々思っていた。やつの膜が普通ではないと」

 

「仮説じゃが、この森の魔力を集めて、強力な魔法を構築しておるのかもしれん。やつはなにもしてこないのではない。これ以上、なにもできないのじゃ」

 

 俺たちがのんきに話し合っているのに、女王蜂はピクリとも動かない。

 

「防御魔法の構築に集中して、攻撃は芋虫たちに任せてる?」

 

「そういうことじゃ。そして、その魔法…ワシなら貫けるかもしれん…ユキト…力を貸してくれ」

 

 ソフィアが手を伸ばす。その手を強く握った。

 

「…分かった。ソフィアを信じるよ」

 

「ありがとう。ユキト」

 

「よし!盛り上がってきたな!芋虫は私に任せろ!思いっきり、ぶちかましてやれ!!」

 

「「おう!」」

 

 ステラが芋虫の気配が迫ってくる方向に剣にを構える。

 俺は、ソフィアの首に抱きついた。

 

「『接続コネクト』!」

 

 身体が重力から解放され、浮き上がる。そして、魔力が巡り始めた。

 

「…ふむ…なるほど…これは…凄まじいな…この高揚感…そして万能感…!」

 

 ソフィアが帽子を脱ぎ捨て、杖を振りかざした。


「おぬしと、ワシなら…」

 

 徐々に、俺の心も高揚していく。


「「不可能は無い!!」」

 

 ソフィアの周りに、巨大な魔方陣が展開される。その魔方陣は、森全体を覆う勢いで広がり続ける。

 

 頭の中に、見たことも無い文字や数式が、大量に流れ込んでくる。

 

 普段の俺ならまったく意味がわからない文字と数字の羅列だが、なんとなく、解るような気がした。

 

 ソフィアと一緒に、パズルを解くように文字と数式を組み合わせていく。

 

「「荒野を癒し、芽吹く木よ…

 闇を退く、神聖な火よ…

 全てを抱く、母なる大地よ…

 文明を照らし、磨く金よ…

 優しく流れる、清らかな水よ…

 この世に溢れる、全ての力よ!

 我の元に集え!」」

 

 杖を魔方陣に叩きつけると、五色の光が飛び出し、杖の先に集まってくる。光が重なると、真っ白に輝きだした。

 

「「我は罪深きもの!その力!我が傲慢によって掌握する!」」

 

 白かった光の塊が、真っ黒に染まっていく。


 

 後ろの方でステラが芋虫たちと戦い始めた。

 

「二人とも!なるべく早めに頼む!」

 

「分かっとるわ!もう完成じゃ!」

 

 ソフィアの掌に、漆黒の力の塊が顕現した。

 


「「これが…全ての理を否定する…終焉の魔法…」」

 

 ソフィアが手をかざすと、漆黒の塊がすごい速さで女王蜂に飛んでいった。

 

「っ!ギチ…!」


 女王蜂が怯んだような気がしたが、昆虫の表情はイマイチ読み取れなかった。

 

 

「「終止符ピリオド!!」」

 

 

 漆黒の塊は、あっさりと膜を突き破った。と言うより、まるで、そこになにも無かったかの様に、女王蜂を通り抜けた。

 

「…!…ギッ………!」

 

 胴体に風穴が空いた女王蜂の身体が、小刻みに震える。

 

 ソフィアが杖を振り、女王蜂に背を向けると、漆黒の塊が一気に広がり、女王蜂をかき消した。

 それと同時に、魔方陣もキラキラと光りながら消えていく。

 漆黒の塊も役目を終えて、空気に溶けていった。

 

「おおお!やったな二人とも!さすがソフィア!すごいぞユキト!」

 

 ステラが俺たちに駆け寄ってきた。どうやら『母体』を消した影響で、芋虫たちも消滅したらしい。

 

 ソフィアから手を離すと、身体に重さがもどり、ふわりと着地した。

 

 正直、助かった。俺たちは動けないし、この後に芋虫掃討戦があったら普通にヤバかった。時間が無かったとはいえ、ちょっと迂闊だったかな。

 

「いや、芋虫たちは完全に女王蜂に依存していた。森を食い荒らすことにより、女王蜂に魔力を供給するために存在していたようじゃ。じゃから、芋虫どもが消滅したのは必然じゃよ」

 

 まだ『接続コネクト』の影響が残っているのか、俺の反省にソフィアが訂正を加えてきた。

 

「あれ?二人とも大丈夫か?私の時は一歩も動けなくなったぞ?」

 

 ステラに言われて気づく。そういえば、まだ疲労と激痛が来ないな?

 

「よくわからんが、今のところ問題無しじゃ!それにしても…ふふふ…ついに完成したぞ!終焉魔法!ははは!やはりワシの構築は間違ってなかったんじゃ!ようは単なる魔力ぶぞぐばっ!!」

 

 ドサッ…

 

 魔法の完成に喜んでいたソフィアが、鼻血を噴き出して失神した。

 

「ソ、ソフィアー!」

 

 ステラが慌ててソフィアに駆け寄る。ああ、ちょっと時間差で来るやつですか?

 そう思った瞬間、激しい頭痛が俺を襲った。

 

「っ…!?がああぁぁ!?」

 

「ユキト!大丈夫か!?」

 

「いや、大丈夫じゃない…あだま…いだぁ…」

 

 俺も激しく鼻血を噴き出して、その場に倒れた。

 

 遠のく意識の中で、ステラが俺たちを抱えて、森の中を走っているような気がしたが、夢と現実の区別すらつかなかった。

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